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使い魔日記  作者: narrow
63/68

続き 4

 「ぇ、スズキさん?」

 薄暗い中でも、明るい色をした金髪のせいか、やや目だって見える彼の姿に、なんとなく安心感を覚える。

 いつも笑っている顔は、今日は珍しいものを見るような表情を浮かべて兄のほうを向いていた。

 「え双子じゃなく?」

 「ハイ、2コ上です。」

 緊張していたハズの空気が、スズキの登場でやわらぐ。

 「えと、スズキさんどしたんですか?」

 「あー、ちょっと近くを通っただけなんだけど、兄妹ゲンカとは思えない悲鳴がきこえて、ね。」

 苦笑する天使。

 「あっ・・・!聞いちゃいましたか?・・・さっきの。」

 恥ずかしがるレイに答えようとするスズキを、御雷がさえぎった。

 「アンタだれ?!」

 「レイちゃんの守護天使。」

 スズキがそう言ったのと同時くらいに、レイはなんだかあたりの空気が少し変わったように感じた。

 どこがどう、とはいいにくいが、なんとなく雰囲気が変わった気がして、あたりを見回すと、レイたちに注目していたはずの道行く人々が、急に関心を失ったように、誰も視線をこちらへ向けることなくただ通り過ぎていく。

 ”天使”のスズキがなにかしたのかもしれない、とレイは思い当たる。

 忘れがちだが、ただの不審外人に見えて、彼は人間ではないのだ。

 「・・・不審、なの?僕。」

 彼は、人の心をのぞくこともできるようだった。

 「え・・・ぃえ?あはは・・・」

 笑ってごまかす。

 「まあ、注目あびちゃうのは僕も困るからね。ついアタマの中のぞいちゃってゴメン。きみが怖がってなければそれでいいや、おあいこ。アハハ。」

 「ねえ。」

 御雷のイラだった声が、のんびりした会話をまたもさえぎる。

 「俺、忘れないでよ天使さん。つかさ、アンタいらねー。いらねんだよ。立ち去れ。消えろ、今すぐどっかいけ。」

 御雷とレイの間に、さりげなくスズキは立っていた。

 そのスズキの横から、御雷はレイに手を伸ばす。

 彼女の腕をつかんで引き寄せようとした御雷の腕を、逆にスズキがつかんだ。

 二人がにらみ合い、レイはただただオロオロしていた。

 「おにいちゃん、やめよ?スズキさん超強いし。おにいちゃん今日おかしいよ?」

 そう言った彼女に、スズキが賛同した。

 「そうだね、レイちゃん、きみのお兄ちゃんは今、すこーしおかしい。」

 「オカシイのは、アンタだろ?目、光ってんぞ?」

 そう言って、自分よりもだいぶ背の高いスズキをにらみあげる御雷の 

目にもうっすらと、光が灯る。

 光っているものの、目つき自体はどこかうつろだ。

 瞳の色が、いつもと違って見える。

 淡く紫色に光る目は、レイもスズキも知っている色。

 「零さんの目と・・・」

 「同じだね。ねぇ、前に彼の一部が、きみのうちに来たの、覚えてるかな?あの時と同じように、彼のカケラが独り歩きしてるんだ。」

 言って、スズキは暗くなる町の風景を切り裂くように、光る翼を伸ばした。

 こんなにも異様な光景なのに、スズキの力のおかげで人だかりが出来ることも、騒ぎが起きることもなかった。

 が、レイはそんなことに気づく余裕もなく、スズキを止めようとする。

 「スズキさん、やめて!お兄ちゃん人間だよ?!」

 零とやりあったようにされては、兄は死んでしまうかもしれない。

 「なあ、レイかえせよ。」

 うつろに見開いた光る目が、スズキを凝視している。

 そのわりに、彼の翼は目に入っていないようだ。

 人とは思えない、その表情。

 「おかしいって言ったでしょ?”カケラ”を消さなきゃ元には戻らない。大丈夫、傷つけないから。」

 ただならぬ雰囲気の御雷を、ものともせず綺麗に無視して、スズキはレイだけに話しかける。

 「かえせよ、俺のレイ」

 御雷のほうもスズキとレイの会話が聞こえていないように、自分の要求だけを繰り返す。

 いつものように優しく微笑むスズキの顔を見ても、レイは不安をぬぐいきれなかった。



 「でも、でもお兄ちゃん・・・!」

 「それとも、きみは・・・本当は実のお兄ちゃんと・・・」

 軽蔑するような表情を作ってみせるスズキ。

 「スズキさん・・・」

 ちょっとだけ考えると、レイはふかぶかと頭を下げた。

 「やっちゃってください。ちょっとくらい痛いほうがいいかもです。」

 冗談を言うほど余裕がある、ということは万が一にも兄が傷つくことはないということだ。

 それがちゃんとレイにも伝わってきた。

 大丈夫とわかってみると、”カケラ”がついていなくてもふだんからおかしい兄には、このさいついでにオシオキしてもらったほうがいい気がした。

 「了解。」

 にこり、とスズキが笑った。

 「レイ、レイ、れい、れい、れい、れぃ・・・」

 ぶつぶつつぶやいている御雷は、そろそろおとなしくしているのも限界に見えた。

 「ぅおぉあ゛ぁあーーーー!」

 叫んで、捕まれた腕を恐ろしい力で振り回すと、御雷がスズキにとびかかる。

 その勢いを逆に利用して一回転すると、スズキは御雷の腹の上に座り、両足でカラダを押さえ込んでしまう。

 その動きの中では邪魔になってしまうのか、いつのまにか翼は消えていた。

 「ナニがしたかったワケ?」

 のんびりと、微笑んだまま。

 「ぶっっっころす!」

 微笑んでいたスズキの表情が、険しくなる。

 「そーゆー憎まれ口をたたくのは、この口かな?」

 ぶきゅ。

 あいているほうの手で御雷の顔をつかむスズキ。

 手に力をこめると、御雷の顔が圧迫されてゆがむ。

 御雷もまた、空いている手でそれを振りほどこうとする。

 「ぎゅぅぅー。」

 ふざけているように、自分で効果音をいれながらスズキが御雷の顔をもてあそぶ。

 その様子をみていると、レイは心配する気にもなれず、逆に、できるんならさっさと片付けてほしい気がしてきた。

 「あのーぅ・・・まだでしょうか?」

 「んー・・・そうだねえ。もう暗くなってきたしね。」

 やっぱりのんびりした声でそう答えたスズキの体が、まぶしく光った。

 その光が、彼の背中にうっすらと、ぴんと伸びた大きな翼を描く。

 そして、強い光はあらゆる影をも、濃く浮かび上がらせる。

 御雷の中の“カケラ”、零の影も、その光の中でいぶりだされるように彼のカラダの外へしみ出してきた。

 けぃ や く だ

 どこからか、あたりに低い声がひびく。

 御雷の体から抜け出た影が、黒い霧のような姿で宙を漂っていた。

 けぃ やく だ

 契約だ その女をよこせ

 よこせぇぇえええええ!


(続)

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