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使い魔日記  作者: narrow
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続き

 いつのまにか、来たことのないバーにいた。

 何杯目かの酒を、飲み干す。

 ぐるぐると、同じことばかり考えている。

 可愛い妹、大切な妹、俺だけのレイ。

 他の女とどれだけ付き合っても、あいつ以上なんていない。

 みんな、たりない。

 

 おにいちゃんの およめさんになるぅ

 

 あの頃、お前は俺だけのものだった。

 どんどん大人になって、お前は、俺をおいて・・・。

 ケド、許さない、誰かがお前の心に入り込むなんて。

 誰かのものになるなんて。

 でも、可愛い妹、なんだ。

 俺が・・・、俺で汚してしまうことなどできない。

 他のクズみたいな女たちをどれだけ傷つけても、汚してもなんとも思わないのに、お前が少し悲しそうにすると俺はもうダメだ。

 それでも、お前を悲しませながら、お前に近づくクソ虫どもを、俺は追い払う。

 やつらじゃお前を守れないから。

 悲しむお前をなぐさめてやれるのは、いつも俺だけ。

 俺だけがお前を守れる。

 お前を悲しませるのも、守ってやれるのも俺だけだ。

 もし俺を納得させられるような、俺よりもあいつのことを考えてやれるヤツが、いつか現れたら、その時には、ゆずらなきゃいけないんだろう。

 ただ、願わくは。

 兄妹なんて関係、いますぐなくなってしまえばいい。

 俺のこの理性が、どこかへいってしまえばいいのに。

 あいつを俺のものに、親も友達も、知り合いさえもいないどこか遠くへあいつを連れて行って。

 こんなの、妄想だ。

 そうわかっていても、考えることは、夢見ることはやめられない。

 ふたりだけだ、誰もいない場所で、誰にも邪魔されずにあいつのことだけを見て、あいつも俺のことだけを見る。

 頭の中も、あいつでいっぱい、・・・それは今もそうか。

 可愛い、妹、かわりはきかない。

 あいつだけでいい、あいつが欲しい。 

 「欲しいものがあるのかぁ?」

 誰かが話しかけてきた。

 いま俺の頭の中をいっぱいにしてる、この考えを誰かに話したって、きっと本当になんか理解してはもらえない、だから。

 「おかわりっおかわりがほーしーいーぃん。」

 タチの悪い女が甘えるように、俺はねちゃっとした声を出す。

 グラスは空だ。

 「もっと欲しいものがあるだろう?」

 からみつくような男の声は、いつか聞いたことがあるような気がした。

 声の主を探すが、暗い店内で俺に話しかけてきているようなヤツは見当たらない。

 声だけが頭の中に残り、まだ響き続けている。

 あー、欲しいさ、絶対手に入らないものがな!

 誰にもわかってもらえるはずのない想いを、俺は心の中で叫ぶ。

 あたまがぐるぐるする、

 ずっと同じことばかりカンガエえてたから、脳が目をマワしたのカモシレナイ・・・。



 ちょっと、キモチワルくなってキた。

 「俺と契約すれば、あの女はお前だけのものだ。」

 イッテル イミガ ワカラナイ

 吐キソウ

 「欲しいだろう?」

 ナニヲ?えちけっとぶくろ?洗面器?

 ぉえ・・・ダメダ カンガエラレナイ

 「レイが欲しいだろう?」

 アー

 「欲しー・・・ぃ・・・」

 「契約しろ。」

 「するうー」

 モウ ダメダ

 「いい子だ・・・まだ、青く・・・そして充分に黒い。お前は、綺麗だよ、とっても。」



 アオ・・・クロ・・・?顔色?オレ・・・ヤバ、ィ?

 「はぎそー」

 ・・・ォェ

 

 どうやって帰ったかは覚えていない。

 気づくと自分の部屋にいた。

 あれだけ呑んだのに、酒が残っている感じはしなかった。

 カラダが重いとか、つらいとかいうこともなく、むしろ、どこからか無限に力がわいてくるような感じだった。

 「ナルカミさん、今日テンション高くないスか?」

 職場の後輩だ。

 はたから見ていても、やはりコンディションのよさがわかるようだ。

 「あぁ、まあ調子はいいかな」

 だるい接客も、今日はあまり苦にならない。

 調子はいい、妙にやる気が出てくる。

 気分もいいし、そうだ、レイにメールを送ろう。

 「ナルカミさーん・・・またメールっすか?つか、レイちゃんにじゃないですよね?」



 気分よくメールを打っていると、さっきの後輩が邪魔してくる。

 「そーだけど?」

 「ちょ、何回打つんスか?今日もうそれで20回越しますよね?」

 なぜか、後輩は引いているような顔をしていた。

 俺はあいつの兄だ、確かに過保護なのは認めるが、妹にメールするくらいは普通だろう。

 ちょっと多いかもしれないが、そんな日もある。

 「んぇー?ぁあ、だって今日気分いいから。」

 「ぃや、やめときましょうよ、レイちゃんだってそんなに送られたら引きますって!確実!」

 最初の数回は笑って見ていたが、いまの後輩は心配そうな顔つきをしていた。

 なぜ邪魔をするのだろう。

 レイと俺の間に入ってこようとするなんて、関係ないくせに。

 「よけーなお世話。レイにチョッカイ出したら呪い殺すよ?」

 呪い殺す、言いなれないのになぜか口から飛び出した言葉が、いまの自分なら実現できそうな気がした。

 「や・・・ぃいスけどね、ウザがられても知らないスよ?」

 逃げるように、後輩は離れていった。

 

 「ぅわ、なにこれぇ!」

 休憩時間に携帯をチェックしたレイは、思わず独り言を言った。

 兄からのメールが30件以上も入っていた。

 おにいちゃん、どうかしちゃったのかな・・・。

 気味が悪いことは悪いが、ちょっと心配になった。

 ”おにいちゃん、何かあったの?”

 そう返事をして、様子を見よう、と彼女は思った。

 

 「ナルカミさんナルカミさん!まじ仕事してくださいよーぅ!」

 朝のうちは機嫌よく仕事をしていた御雷だが、そのうち機嫌がいいのを通り越し、おかしなハイテンション状態になり、ケイタイばかりいじりまわし、14時をまわったころには仕事もうわのそらになっていた。

 「っせえな。キミ、何様?俺の勝手でしょ?」

 瞳孔が針のように細くなった猫、を思わせるキツい目つき。

 御雷は、妹以外の人間に対しては、気分屋でちょっとコワい人、で通っている。

 にらまれた後輩は、機嫌を損ねてしまったのを悟ると、おそらく世界共通の伝統的な方法、用事を思い出したふりでさっさと逃げていった。

 「・・・なんかなぁ、かえろっかなあ。」

 もう御雷は、この場所に居る意味を見いだせなくなっていた。

 仕事、とかいって、レイより大事なもんとかナイしょ。

(続)

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