使い魔21 俺の影
おにいちゃん だいすき
おにいちゃん かっこいーい
おおきくなったら おにいちゃんの およめさんになるぅ
ばかだなぁ きょうだいは けっこんできないんだぞ
えー でも なるのー
ばかだなぁ
「んん・・・結婚、できなぃんだって・・・」
幸せそうな笑顔でねむりこけているのは、レイの兄、御雷。
「レイ、はがせ。」
不満そうな声を出したのは、ベッドで抱き枕状態の零。
「えーと、でもおにいちゃん寝起き悪くて・・・幸せそうだしぃ」
そして、困ったように笑っているレイ。
主の”お兄ちゃん”に、ケガをさせるわけにもいかない使い魔は、べったり張り付かれてただひたすら不愉快だった。
「それが気持ち悪いんだろうが。いいからはがせ!まさかこいつをこのまま置いて出かけるつもりじゃないだろうな!?」
「ええっと・・・できれば?零さん寝ててかまいませんから。」
小首をかしげてレイが微笑む。
小柄で童顔のレイがそんな仕草をすると、ちょっと可愛い。
が、それが零の機嫌に影響するかといえば、そんなわけもなく。
「ふざっ・・・ふざけるなあぁぁぁあああ!」
零の絶叫は、わりと珍しい、というよりこんな声が出るのは御雷が居る時くらいだ。
「ん・・・ぅるせ」
「はーなーせぇー!起きなくていいからっ放せぇぇ!手伝えレイ!」
零は御雷の腕をほどこうとするが、抵抗するほど腕の力が強まるため、痛い思いをさせないと引きはがせそうにない。
が、兄が痛そうにするとレイが止めてしまうため、それもうまくいかないのだ。
「ぅー・・・おにーちゃーん、もう起きてー。あたしが怒られちゃうー。」
ゆさゆさ、揺さぶると怒った顔の零ごとゆれて、その光景は笑いをさそう。
当然、零をこれ以上怒らせたくないレイはそれをガマンするが。
「んんー・・・」
御雷の眉間にシワがよる。
「あぁー、ダメですぅ、起きてくれないよぅ。」
「ってあきらめるのが早すぎるだろ!」
「えぇ・・・でもぉ・・・」
「コイツと俺とどっちが怖い!」
横目で(御雷にカラダの向きを固定されてしまっているため)にらんでくる零と、少々眉をひそめた表情のまま、まだ眠りこけている兄を、レイは見比べて考える。
「でも、無理に起こすと・・・」
「起・こ・せ。」
うらめしそうな目で零を見て、彼の表情に変化がないのを確認すると、レイはタメイキをついた。
「おにぃちゃん、おーきーて!」
さっきより少しだけ大きな声に、御雷がうっすらと目を開ける。
「・・・れぃ?」
声のしたほうを見ると、妹の姿が目に入り、御雷は零から手を放し、大きく伸びをした。
そのスキに零は、ケモノのような素早さでベッドから飛び降りる。
やれやれ、やっと自由になった。
そこでふと、思う。
人型をといて御雷の腕から抜け出すほうが、カンタンだったのではないか、と。
レイの頭の悪さがうつったような気がする・・・。
そこはかとなく疲労感につつまれる零だった。
そんな彼の後ろで、声がする。
「だめだよお兄ちゃん、ここ家じゃないよ?おきて?」
「ぃーからぁ・・・」
なんだか御雷がレイに、だだをこねているらしい。
「ほーらぁ、早くしないと遅刻しちゃうぞー?」
「もう・・・」
チラっと零のほうを見てから、兄に顔を近づける。
片手で口元を隠していたものの、そう離れたところにいるわけでもない零からは、レイが兄の頬にキスをしているのはハッキリわかった。
「病んでるな・・・お前ら。」
ポツリとつぶやいた零は、いつもの無表情。
それがかえって、シャレにならない雰囲気をかもしだしていた。
「だからイヤだったのにぃー・・・」
「レイー、そこじゃないぃー」
まだ甘えている御雷の声は、語尾にハートマークがついているようにしか聞こえなかった。
無理に起こすといつもこうなのだと、兄を追い出してからレイは説明した。
応じるから悪いクセがぬけないのだろう、とあきれたが、あえて零は彼女の言い訳をスルーした。
好きに悩んで居ればいいのだ。
レイの家を放り出され、御雷はそのまま女の家へ向かった。
「おかえりぃ、ラぁイ!」
うれしそうにドアをあける、20歳前後の女は、明るい色の髪をして、アイメイクを念入りにし、脚のラインを強調する超ミニスカートと、ばっくり胸元があいたシャツを着ていた。
「んーサエちゃん、俺今さみしー。なーぐさーめて?」
ドアの内側へするりと入り込みつつ彼女の腰に腕をまわして、挨拶がわりに首のあたりへ軽くキスをする。
「くすぐったいぃ、きゃはは!ヨシヨシー。」
小柄な体に大きな胸をした彼女の体つきは、妹に少し、似ていた。
くったりと、心地さそうにけだるさをただよわせた女が、胸に御雷を抱いて横たわっている。
御雷の視界は、一面の肌色。
目を閉じて、胸に顔をおしつけながら彼女を抱き寄せる。
「ライのあまえんぼー」
嬉しそうに甘ったるい声を出す、女。
あたたかく、いい香りがする。
それは、香水の香り。
ちがう、こんなんじゃない。
求めるように抱き寄せた彼女のカラダを、ふいと放し、唐突に御雷は身を起こす。
「どしたの?」
女の声は、まだ甘ったるいまま。
答えず、彼は無言でさっさと衣服を身につける。
カチャリ・・・。
ベルトを締め、そばにあった鏡をのぞきこむ。
軽く髪を整えた後に、彼は言った。
「ごめーん、ばいばーい。」
「え?ライ?なんで?どしたの??」
お前じゃ代わりになんねんだよ。
思ったが、それは言わずにおいた。
彼女は、女の子の中でも一番簡単に彼を泊めてくれる。
また今度、素直に家に帰りたい気分じゃなくなった時、行く所がないのは最悪だ。
ただ、今はここにも居たい気分じゃない。
どこへ行くでもなく、ぶらぶらと町を歩く。
(続)