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使い魔日記  作者: narrow
58/68

続き

 血を、・・・飲む。

 ちょっと吐きそうかも。

 でも、やらなきゃ解放してくれないんだろうなあ。

 あおざめた顔でレイがタメイキをつくと、零がやらしく・・・いや、やさし〜く言葉をかけてきた。

 「俺にキス、したいだろ?それとも悪魔の血が怖いか?」

 こんなのキスじゃなーい!

 悪魔の、じゃなくて血が怖いのー!

 ・・・けど、どーせそんなのカンケーないんだ、この人には。

 ややイジけながら、それでもとにかく事態を打開するため、レイは決心する。

 いっぱいいっぱいのレイの耳には、そのあと小さな声で言った零の、

 「大丈夫、少しヘンなものは見えるかもしれないがな」

 という言葉は届いていなかった。

 「わかりましたぁ!しますぅ!・・・ぇーん・・・」

 泣きまねは、半分以上本心。

 細く白い指先の血を、痛くないようにそっと吸い取る。

 ちゅ・・・ 

 きゅっと目を閉じて、なるべく味のことは考えないようにして。

 「なぁ、どんな味?」

 なんだかヘラヘラした響きのその問いは、隠そうともせずに心からレイの反応を楽しんでいる。

 こっちは考えないようにしてるのに、本当に、正真正銘、悪魔だ。

 「どんなって・・・」

 口中に広がる味は、べったりと・・・

 「あま・・・ぃ」

 鼻にぬけるニオイも甘かった。

 「これ・・・チョコ?!チョコだ!え?え?えぇ?」

 確かに零さんチョコ系好きだけど、だからって。

 んー、でも、口にいれるものがチョコばっかりなら、カラダもチョコで出来て、ても、おかしく、ない?

 おかしくないかなぁ?

 その味は納得できるような、できないような。

 「チョコ・・・?悪魔の血はチョコ味だったか。ははは」

 わざとらしく、自分でも驚いた顔をして見せたあと、おかしそうに零は笑った。

 それは、レイが望む笑顔に、きわめて近い、楽しそうな顔。

 けれど、彼が楽しそうに笑うときには。

 「チョコなら平気だなぁ?もう一度、確かめてみるか?」

 「・・・ん。」

 味がどうであろうと、血は血、とためらいはしたが、でもあまりにもチョコだし、彼が望んでいることだし。

 もう一度口をつけてみる。

 「〜〜〜〜〜!!!!」

 なまぐさい。

 ヌルリとした舌触り、かすかな塩気・・・本物の血の味。

 「うまいか?俺の血は。・・・くはっ・・・ははは!」

 高らかに笑う悪魔、の主人は口を押さえて涙目。

 その場で足踏みして悶えるレイが、零の目にはかなり面白くうつるようで、彼にしてはよく笑っている。

 「ぷぅぇっ・・・もー許せなーい!ヒドいよ零さん!」

 ようやく血の味が薄れて、レイは文句を言える状態に回復した。

 しかし鼻に抜ける生臭さが、追加ダメージを与えてくる!

 「くふぅっ・・・!」

 目をぎゅっと閉じ、レイはなんとかこらえた。

 「くくくっ・・・いや、悪かった。やりすぎた。」

 ペナルティが発生して、また力を抜かれてはたまらない、と、零はさっさとあやまる。



 レイの反応がよすぎて、謝る余裕ができるくらいには、気分がよくなっていたせいもある。

 「許・・・さぁん!」

 だが、珍しくレイは受け入れず、吠えた。

 ナニが許せないって、零が笑いながらレイにひらひらと振って見せた手に、あったはずの傷が消えていたからである。

 「治ってるじゃん!カンッペキだましましたね?最低!」

 まだ力が抜けていく感じはしないが、これでは、もう少しサービスしなければならないだろうな、と零は思う。

 「・・・じゃーほら、口直し。今度はまた甘いから。」

 再び同じ場所から血があふれた。

 「ヤだっ!またダマすんでしょ!」

 「口直しって言ってるだろ?悪いと思ってるから。」

 と、零がほんの少し、困ったような表情を作る。

 声もふだんより、わずかに優しげ。

 シュチュエーションからして、本当に少しは反省してるのかな、とレイは思う。

 別に、チョコが食べたいわけじゃないけど、反省してるなら、のってあげてもいいか。



 やはり再びあっさりダマされたレイは、差し出された指に顔を近づける。

 すると、パッと彼の手が目の前から消えて、レイの唇がたどりついたのは指先でなく、唇。

 かすかに愉快そうな表情を浮かべている、曇り空のような色の目は、くっつきそうなほどすぐそばにある。

 「んぇっ?・・・えぇえ?」

 「口直しには、不足か?」

 ほとんど顔の位置を変えないままで吐き出された、そのセリフの一音一音が、空気の振動として唇につたわってくる。

 その口調、瞳の表情が作り出す雰囲気といったら、まるで夜。

 さっきといい、今といい、姿はコドモのハズなのに、破壊力抜群すぎる。

 何に対する破壊力か、とは言うまでもない。

 理性だ。

 さっきとは別の意味でくらくらきてしまったレイの頭からは、もはや血がどうだとか、そんなことなど吹っ飛んでしまっていた。

 「ゴキゲン、直ったよなぁ?ご主人サマ?」

 言いながら零の顔が離れていく。

 この状況を喜んでいいのか、困ったほうが正常なのかという判断に、一瞬にして脳の容量のほとんどを占拠されてしまったレイは、高速でただコクコクうなずくしかできなかった。

 「甘かった?」

 意地悪く、そして機嫌よさげにニヤつく小悪魔。

 言われて、一瞬前のドアップやら唇をかすめた感触やらが一気によみがえり、レイの顔がみるみる赤くなる。

 「人間じゃないのは、もう理解できたよな?子供じゃない証明は・・・あれじゃ足りないか?」

 答えることもできず固まる彼女は、湯気が見えてきそうなくらい、見るからに体温上昇中。

 「くくっ・・・充分てとこか。・・・そういや、お前、出かけるんじゃなかったのか?」

 こくこくこくこく。

 うなずくレイには、もはや言葉を操る知能が残っていないようだ。

 こきざみに震えつつ、ちょっと人間からは遠い動きで、ぎくしゃくとレイがドアの外へ消える。

 カギをかけることも忘れた主人のかわりに施錠すると、零はいままで抑えていた笑いを、一気に放出した。

 「く・・・ブはっ!はははっあはははははは!ぁの顔!ははははは!!・・・」

 零は、眠っている彼女にはキスしたことがあった。

 起きている彼女にしてみたらどうなるだろう、という考えは、知らず知らず、いつのまにか生まれていた。

 きっとびっくりするに違いない、彼女の驚いた顔を見て笑ってやろう、と思うようになった彼は、ずっと実行の機会をうかがっていたのだった。

 そして、今日。

 彼が想像していたよりも、ずっと面白い反応だった。

 驚きはするだろうが、彼女も大人だ、初めてなワケはない。

 だから、ここまで大げさなことになるとは思っていなかった。

 大人が、キスぐらいでああまで。

 ケタケタと笑い続ける彼は、なかなか正気に戻る様子がなかった。

 レイは見ることができなかったが、それこそ、彼女が望んだような・・・。

 楽しそうな・・・。

 「ははは・・・ダメだ、ははっ!ひゃはは!ぎゃーぁははははははははははは・・・!!」

 ここまで狂ったように笑うことは、さすがに彼女も望んではいなかったかもしれない。 



 けれども、確かに彼は楽しそうに笑っていて、それは彼女のもたらしたもの。

 誰も死んでいない。

 レイは困らされたし、怒りもしたけれど、それは不幸でもなんでもなく、最終的には彼女にとって幸せな展開となった。

 彼女の望む日常は、彼女が思うよりも近づいてきている

 ・・・のだろうか。

(続)

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