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使い魔日記  作者: narrow
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使い魔19 悪魔対天使

 「スズキさん、今日の夜って、あいてますか?」

 ランコントル店内で、レイがスズキにそう話しかけると、

 ガシャン

 と、少し遠くで皿の割れる音がした。

 それを合図にしたように、

 ガラガラガラぐしゃドドーンバリッガシャズダーンッ!!

 キャー! うわあ! すみませんすみません失礼しました・・・

 あちこちから食器が最期を迎える音や、悲鳴、店員が客に謝る声が飛び交った。

 ちょっとした阿鼻叫喚。

 レイは目を丸くして一瞬固まっていたが、スズキに、ちょっとごめんなさい、と言うとすぐに一番近い店員のフォローに回った。

 同じように驚いていたスズキは、そんなレイの後ろ姿を見ながら、恥ずかしそうに少し笑った。

 彼には、なぜこんなことが起きたのか、その理由がはっきりわかっていたから。

 スズキがレイに好意を持っている、というのは不本意なことにランコントル従業員ならほぼ誰でも知っていて、そのことはスズキも自覚していた。

 レイと自分が話すのを、ある店員はチラチラとうかがい、ある店員は聞き耳を立て、なぜか時折厨房のほうからもこちらに向けられている意識を感じる。

 彼は”天使”、人間ではないから、零と同じように人の心を読んだり、人にない感覚や能力を持っている。

 だから、自分が人から意識されているかどうか、また、その気になればその人が自分をどう思っているかもすっかりお見通しなのだ。

 だから、自分の気持ちが従業員達に知れていて、みんながその成り行きを注目していることくらい知っていた。

 特に大きな声で話していたわけでもないが、みんなが集中して盗み聞きをしていた、ということなのだろう。

 めったなことは話せないな、今後大事な話は場所を変えよう、とスズキはひそかに思った。

 さて、部外者達がこんなにも動揺する中、なぜスズキがこんなに冷静なのかというと。



 「ちょっと、相談があって」

 すっかり”ごちそうさま”状態になったスズキのテーブルへ、食器を下げに来たレイが、また話しかけてくる。

 従業員達の意識が、また自分達の会話に集中するのがわかった。

 あーあ、もう。

 また大騒ぎになってもいけないので、スズキは早めに種明かしをすることにした。

 「零くんのことでしょ?いいよ。」

 レイにとっての本命である零の名前を出せば、周りの注意は解けるはず、と思いきや、なにやらワクワクしている雰囲気が伝わってくる。

 なんでっ?!

 計算がはずれ、スズキは心のすみで少し驚く。

 「ありがとうございますっえっと、じゃどうしよう・・・」

 「迎えにくるよ。何時に終わるの?」

 純粋に相談に乗るだけのつもりでいるスズキは、特に緊張してかむようなこともなく、スラスラと会話する。

 ワクワクしていた従業員たちのうち、ウエイトレスたちの思考からは、ときめきのようなものまで感じる。

 ますますスズキにはわからない・・・。

 すぐ近くにいたウエイトレスの心を探ってみた。

 ちょっと、ごめんね・・・っと。

 それは隣のテーブルの会話を聞くのと同じように、彼にとってはカンタンで、自然にできてしまうこと。

 彼女の、というか、彼女達の考えはこうだ。

 うまくいかない彼とのコトを相談するうちに、優しく話をきいてくれた彼に思わずノリカエっ!あるっそれあるよー!最近レイ元気なかったし、今度こそ優しい彼氏とお幸せに!あー今日何話すんだろ気になるっ!!つかスズキサンちょー落ち着いてるし!意外と冷静って、カッコイー!迎えに来るとか言われてみたぃし!キャーキャーキャー!

 ・・・と、いうことらしい。

 「そんなわけないし・・・」

 なんだか疲れた気がして、がっくりうなだれ、スズキは小さくつぶやいた。

 「スズキさん、なんかいいました?」

 「ぇ、ぁなんでもないっ、じゃ、あとでね。」

 人間の恋愛パターンではけっこうあったりする話なのだが、スズキは少々あきれていた。

 レイの気持ちの中には零しかいない。

 ドMか、とツッコみたくなるほど、冷たくされても振り向いてくれなくても辛くてもなぜだか彼女は零が好きだ。

 彼が時々見せる、どこか悪魔らしくない顔。

 彼女はそこに何かを感じているのかもしれない。

 ・・・僕と同じように。

 でも、今のところ零にとって彼女は、

 たいして遊ばないけど誰かにあげるのは惜しいオモチャ、

 とか

 トウフもわかめも特に好きじゃない人にとっての、トウフとわかめの味噌汁に入っている、トウフかわかめ(邪魔じゃないけど、なくても問題ない)

・・・に近い。

 まあ、正確なところはわからない。

 人間の心は読めても、同じような能力を持つ魔物同士だとそうカンタンにはいかないからだ。

 ただ、最初はうっとうしい以外の何物でもなかったわけだから、少しは進歩したといっていい。

 もしかしたら、僕なんかが外から見ているよりも・・・。

 そうだったらいいな。

 スズキは一人、嬉しそうに微笑んだ。

 

 上がりの時間が近づくと、誰もがレイに

 「スズキさんに、よく話きいてもらうんだよ!」

 だとか、

 「がんばれっ」

 となぜか熱いまなざしではげましてきたりした。

 みんな何か勘違いしてる上に、なんで筒抜けなんだろう。

 困惑するレイに翔がたたみかける。

 「レイさん、化粧なおさなくていいの?」

 期待のこもったまなざしが、何を求めているのかは、鈍いレイでもわかった。

 「もうー・・・翔くんまで、みんな何期待してんのかな。ありえないって。」

 「何も期待してないって、今はね!」

 ニコニコとそう言った彼に、それ以上の反論をあきらめ、レイはタメイキで答えた。

(続)

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