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使い魔日記  作者: narrow
44/68

続き 2

 零は、レイが泣き出したあたりから感じている、心当たりのない居心地の悪さに少々イラだっていた。

 レイが主人であろうと家主であろうと、その命令以外は彼にとっては何の興味もないハズの相手で、それが自分の言葉で泣こうが傷つこうが、なんでもないハズ、だった。

 なのに

 ・・・イラつく。

 確かにイラついてはいるのだが、それが彼女の何に対してなのか自分でも明確にわからず、少し考えてしまう。

 一番気に入らないのは、・・・あのバカさ加減。

 そうだ、それがガマンできないんだ、俺は。

 あれには本当にイラつく。

 イラつくのを通り越してめまいがする。

 出て行け、ならわかるが家出とは。

 追いかけるな、と言いつつどうせ追いかけてきてほしいに違いない。

 が、俺には追いかける理由などない。

 彼はテレビから目線も動かさず、レイが出て行く音だけを聞いていた。

 部屋がなんだか暗くなったような気がするが、気のせいだろう。

 別に、あいつが出て行ったことなど気にならない。

 イラつくバカが家を出ようが、夜道を女一人でうろうろしようが幽霊に遭遇しようが関係ない、と。

 そう思った瞬間、意識が一瞬とんだ。

 主人に反抗し、そのガマンの限度を超すほどに傷つけた使い魔は、知らないうちにきっちりペナルティを受けていた。

 彼が主人をどう思っていようと、使い魔としての最低限のルール(それがどんなものなのかは、彼自身にも本当はよくわからない)をおかせば、彼自身のカラダが、存在そのものがそれに反応する。

 ぶんぶんと、頭をふって取り戻した意識をハッキリさせると、彼は自分に何が起きたのかに気づいた。

 せっかく集めた力は、前ほどではないものの、部屋を薄暗くする程度には抜け出してしまい・・・結果彼はほんの少し縮んだ。

 「・・・俺の・・・ ・・・バカ。」

 両手で顔をおおい、つぶやく。

 独り言が出るくらいには、悔しかった。


 ぐずぐずと泣きながら、レイはあてもなく歩く。

 なんでああなんだろう。

 どうしてあたしはあんな人が、ううん、あんな悪魔が好きなんだろう。

 嫌いになれたら楽なのに、翔くんの言うとおり、スズキさんを好きになってしまえればどんなにしあわせだろう。

 それでも、泣くほど傷つくのは好きだから、好きなのに優しくしてもらえないから。



 ちょっとでいい。

 ちょっとでいいから・・・

 「優しく、されたいよぅ・・・」

 まるで小さな子供のように、涙声でレイはつぶやいた。

 瞬間、ふわり、と優しく体が締め付けられた。

 「え」

 思わず声が出る。

 「いいよ。」

 頭上から、低く耳に心地よい、どこかで聞いたような男の声がし、レイは自分が後ろから抱きすくめられていることに気づいた。

 驚いて、泣くのも忘れる。

 これは、この人は・・・

 ち、ちかんだ!

 どうしよう、どうしようどうしようどうしよう!

 「た、たすけっ」

 緊急事態だと認識した瞬間、どうして家を出てきたのかも忘れ、レイは思った。

 助けて零さん!

 心の中で叫んだ瞬間、また頭上で声がした。

 「・・・あ〜あ。ふふ、またね」

 そして、体の戒めがとけ、入れ替わるように視界のはしに零が現れる。

 それは、どこからともなく、霧が晴れていままで見えなかったものが見えるように、もともとそこにいたかのように。

 「・・・何ともないじゃないか。」

 用もないのに呼ばれたと思ったのか、さっきのケンカが尾を引いているのか、零はかなり不機嫌そうだ。

 幸い、ちかんに会って動揺しているレイには、彼が少し小さくなったことはわからなかった。

 不機嫌の理由は、実はほとんどそこなのだが。

 そんなことを言おうものなら、すでにナナメな彼のご機嫌はどっちを向いてしまうかわからない。

 ついでに、彼女がちかんだと思っていた相手が、一瞬でその場から消えたことも、言い合いの原因になった白い影を見たのが、ちょうどこのあたりだということも、動揺が押し流してしまっていた。

 「ちがっ、今ちかんがねっ?!怖かったんです!怖くてっ」

 不安と心細さで、レイが無意識に零の頼りがいがあるわけでもない細い腕に触れると、不機嫌なままの目つきで、零が触れられた場所を見た。

 気に障ったのかと、レイはその行為を悔やむが、後の祭りだ。

 だが、意外にも零はその手を振り払うことはなく、レイの目を見ると、帰るぞ、とだけ言った。

 その表情は、腕からレイの顔に視線をうつす間に、普段どおりの何も感じていないような顔に戻っている。

 文句を言われないというのは、なんだか許してもらえている感じがして、レイは少し嬉しかった。

 怖い目にもあってしまったし、これ以上外をうろうろする気にはとてもなれない。

 彼女は、せっかく来てくれた零に、素直に従うことにした。

 「それから、守ってほしいなら離れるな。もう少し離れていたら、お前がどんなに呼びかけようが感知できなかった。」

 感知、という表現からすると、零はレイの声ではなく、思考の方に反応してやって来たようだった。

 「ハイ!・・・あれ?じゃ、あたしがバイトの間とかは・・・?」

 表情こそ浮かんでいないが、零が

 やばい

 と思っているのが、毎日零を見ているレイには、なんとなくわかった。

 「零さん?ねえ零さんどうなんですか?守ってくれるっていったよね?ね?」

 24時間警護なんてとんでもないし、その離れた間に何か起こってレイがいなくなってくれればいい、とすら思っていたから、問い詰められた零は、一言だけを残して、再び霧の中にでも入っていくように、何の変哲もない町の風景の中、空気に溶けて消えた。

 「先に・・・帰る」

(続)

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