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使い魔日記  作者: narrow
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1 続き

 「そんなのきいたことないよ」

 髪と同じ黄金色をした眉をひそめ、不機嫌な声を出したのは「天使」タイプの個体であり、零が唯一すぐに話を聞ける相手。

 スズキと名乗ってはいるが、それが彼の名であるわけがなかった。

 零は、バイト先の中古ゲームソフト販売店に急にやってきた。

 カウンターに寄りかかってこちらを見下ろす、この零とは、長い付き合いになる。

 が、それは友人であることとは意味を同じくしない。

 近くをうろうろしているのを知っている、という程度にすぎず、零はたまに顔を見に来ては、スズキのしていることを否定する。

 それは、零にとっては退屈しのぎ、

 スズキにとっては嫌がらせであり、スズキは零が苦手だった。

 その、苦手な零が弱って相談にきたのだが、どうも信じられない。

 自分は弱った、寿命かもしれない。

 そんなことを言われても、目の前の彼は疲れたような顔はしていても、弱っているようにも死にそうにも見えず、彼から感じる力、というか魔力というべきか、とにかくそれはしっかりと強いままなのだ。

 僕をだまして、何をしようとしてるんだろう。

 スズキはそう思っていた。

 「天使」だって疑う。

 そもそも、天使という呼び名自体借り物ではあるが。

 とはいえ、そんな呼び名がつくのも、彼らが人の考える天使像に近い性質を持っているからである。

 だから、スズキは自分たちを生み出した、”人”を信じる。

 愛こそ至高であり、彼にとって人は救うものなのだ。

 逆に、零は愛を信じず、人は殺し合わせるもの、自分達に食われるためにいるとしか思っていない。

 とにかく、何の情報も得られなかった零は、ため息をつくと、カウンターから身を起こした。

 嫌味の一つも言わず、少し儚げな後姿に不安を感じたスズキは、

 彼をそのまま帰すことができなかった。

 「待って」

 苦手でも、古い知り合いであり、またスズキには彼が、誰でも彼でも破滅に追い込んでいるようには見えなかった。

 「不安なんでしょう?」

 そう言ってスズキが見せた優しい笑顔は、”悪魔”的性質をもつ零には苛立ちしか感じさせないが、不安なのは間違いなく、彼は相談を続けた。 

 「いつから、おかしいの?」

 スズキの媚びるような甘ったるい話し方。

 それは大体の人間に、優しいだとか、癒されるだとかいう印象を持たれる。

 誰に対してもそうだが、零にはあまりそういう態度をとったことがなかった。

 それは、だいたい零が人間の醜い側面や、自分の手によって汚い本性をあらわにした人間の話しかしないせいだ。

 零は、スズキが人に愛想をつかし、自分のように人の敵に回れば面白いと思っていた。

 また、人に絶望し、”天使”としての自分の生を諦め、消滅するのならそれもよい、と。

 「いつから・・・」

 零は、考えた。

 「なあ、お前さ、人間に自分の”力” 跳ね返されたことあるか?」

 スズキは軽蔑したような視線を零に浴びせ、答える。

 「ないね。僕はキミみたいに行く先々で誰でも操ってるわけじゃないから。」

 それは、人を道具のように自分の意のまま動かす零への軽蔑に他ならないが、本当に人を道具かエサとしか認識しない零にその視線は突き刺さることもなく。

 「そうか」

 零は沈んだ声を出した。

 「ねえ!質問に答えてないよ?」

 「あぁ、そうか。そうだな、変な女とちょくちょく顔を合わすようになってからだ。」

 本人は、何の疑問も違和感もなく口にした言葉だが、スズキは思った。

 思いっきりその人じゃないの?

 そのまま口にしても、否定されて終わりだろうと思ったスズキは、

 とりあえずその人のことを尋ねてみる。

 「鬱陶しいバカだ。お前向き。アレは関係ない。」

 スズキは苦笑する。

 「ひどいことしか言えないんだね、キミって。」

 だが、お前向き、といわれてスズキはその女に興味がわいた。

 「ねえ、会わせてもらえないかな?もしかしたら何かわかるかもよ?」

 「俺は、ん、・・・お前、金持ってるか?」

 「え・・・?」

 「お前が払うなら会わせる。」

 言って、機嫌良さそうに零は微笑んだ。

 レイへの借金をスズキが肩代わりするならよし、

 払わなければ会わなくてすむのだからそれもよし、

 というわけだ。

 「借金しちゃってるの?!いくらなんだよ!」

 驚きつつも、零を責めるスズキの言葉。

 対して零は微笑んだまま。

 「わからない」

 「えぇえ~?!」

 スズキは不安になり、そして思った。

 変な人でお金はいっぱい貸してくれる。

 いったいどんな人なんだろう?

 「とにかく会ってみよう。」

 まさか有り金全部とられるなんてことないよね。

 零はまだ微笑んでいて、その笑顔がスズキには、少し怖かった。(続)

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