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使い魔日記  作者: narrow
24/68

続き

 「零さん、何か買うんですか?」

 そこは、中古のゲームや書籍を扱う店だった。

 「知らなかったのか?スズキのバイト先。」

 そう言う零の表情は、やや意外そうだった。

 「はい、なんか、あたしの話ばっかりで、スズキさんの話ってそういえば、あんまり。」



 へえー、と店の中をのぞきこむレイの後ろで、なんだか零は何かに勝ったような気になっていた。

 「なあ、レイ、俺はまだこうなってから、スズキに会ってないんだ。」

 少しいい気分になったところで、零は本来の目的をはたすことにした。

 「え?そうなんですか。じゃ、会ってもわかんないかもですね。」

 想像したのか、レイは少し楽しそうな顔をする。

 「ああ、子供のフリしてちょっとからかってやろうと思ってな。呼んでこいよ、俺は、店の裏にいるから。」

 「イタズラですかぁ?ふふっ了解しましたあ!でも、あんまりヒドいことしちゃダメですよ?」

 零と一緒にスズキを驚かせる、という任務に、レイは楽しげな敬礼で答えると、小走りで店内へ消えた。

 なぜ、店の裏まで呼び出さなければならないか。

 なぜ零が直接行かないのか、ということに疑問をもつことさえせず。


 一方のスズキは、突然のレイの襲撃に驚きを隠せなかった。

 「え?!レイちゃ・・・どしたの?何で?なになに?」

 「えへへー。・・・ちょっと署まできてもらおうか?」

 ふざけて見せたレイにつれられ、元々サボってデモ機で売り物のゲームを楽しんでいたスズキだが、他の店員に外出の許可をとると、店を出た。

 店の裏は、店員が時々出入りするほかは、ほとんど人がこない場所だった。

 そこに、ぽつんと立っている小さな子供。

 「あれ?レイちゃん。そのコは?」 

 レイは答えず、楽しそうに笑っている。

 「さて、だれでしょー?」

 なんとなーく、わかる。

 黒い髪に黒い服、白い肌と赤い唇。

 うっすらとまとう、淀んだような空気のこの感触は、よく知っているもの。

 姿を変えることも彼らにはたやすいから、子供になっていてもそれが彼であることとは矛盾しない。

 けれど、なぜすぐバレるのに子供なんかに変身しているのか、がスズキにはわからない。

 「たぶん・・・わかるけど、なんで?」

 「えーーー!わかっちゃうんですかあ?」

 なんだかつまらない、という顔でレイは不満そうにむくれた。

 と、おかしなことに気付く。

 「っていうか、ちっちゃいんですよ?びっくりしないんですか?」

 と、むしろレイのほうが驚かされた。

 スズキは、レイと目が合うと笑った。

 「前に、彼とは長いつきあいだって、言ったでしょ?」

 その言葉を待っていたように、零が口を開いた。

 「そうだよな、長い長いつきあいだ。もう何年生きた?おまえは。」

 そういえば、スズキの歳をレイは知らない。

 零が何歳なのかもわからないが、二人とも(零が小さくなる前は)だいたい二十代後半から三十代前半くらいに見えた。

 年齢の見当をつけようとしているのか、じろじろとレイに顔を凝視されてスズキは慌てる。

 「零くん、そういう言い方やめてよっ。なんかお年寄りみたいじゃない。」

 「お年よりなんてレベルじゃないだろ、とっくに。」

 スズキを見るレイの表情が、なにか珍しいものでも見ているかのように変化した。

 「零くん零くーん!もうそのへんにしといてっ!レイちゃんが変な目で見てるーーー!」



 さらに動揺するスズキを、零は冷静に見ている。

 「それでいいんだ」

 小さく零がつぶやき、スズキはそれを聞き取れなかった。

 「え?」

 彼が聞き返したと同時に、零が跳んだ。

 「レイ、見てろ!」

 言われなくともあまりに突然すぎる展開についていけず、ただ見ていることしかできないレイの前で、ひねりを加えながらスズキにむかっていく零の小さな体から、コウモリのような翼がのびた。

 カラダの回転にあわせ加速しながら伸びるそれは、スズキを貫こうとしている。

 あと少しで届く、その瞬間にスズキの体が光に包まれた。

 それもまた、翼。

 まばゆい光そのものの翼は、鳥たちの持つような白い羽根でできていた。

 背からのびた大きな翼は、スズキの前へ体全体を守るように突き出されている。

 零のカラダが光る翼に弾き飛ばされた。

 「なんの、つもり?」

 まぶしい光の向こうから、スズキが着地する零をにらんだ。

 言葉遣いはおとなしいままだが、警戒しているせいかいくぶん声が低くなっている。



 あまりに非常識な光景に、レイの口が、ぱかんと開いてバカ丸出しといった表情になっているのに、戦う二人は気づいていない。

 なんだろう、これも零さんのイタズラかなあ。

 零の考えも、目の前の光景も、レイの理解を超えていた。

 とはいえ、理解を超えるような光景は実はもう二度目なのだが、かといってそれは慣れるほどではなく、ショックのあまり、レイは止めることすら思いつくことができない。

 翼での攻撃が防御されてしまうと、零はカラダのまわりにいくつもの黒いもやの塊を出現させた。

 それらは濃密な悪意そのもので、天使たちに反発し、彼らを傷つけることのできる力。



 「・・・べっつにー。”仲良し”のお前のことをもっとレイにわかってもらおうと思って、な?」

 仲良し、のところに妙にアクセントをつけてそう言った零の表情が、なんだか少し不機嫌そうなことにスズキは気付く。

 ああ、そうか。

 彼は、なぜ自分がこんな目にあっているのか、それですっかりわかってしまった。

 さて、おそらく自分の気持ちに気付いていない零に、どうやって話そうか。

 考えていると、零の瞳が淡く紫の光をともし、それを合図に黒いもやがスズキにむかって襲い掛かってきた。

 だが、それらから感じる力は、彼を傷つけるほどではない。

 「ばかにしてんの?よける必要もないじゃない、こんなの。」

 翼の輝きに触れる前に、もやは蒸散してしまう。

 「くそっ!」

 焦ったように、零がまた新しい黒いもやの塊を無数に出す。

 だが、今度は先ほどのものよりも見るからに弱々しく薄れていた。

 なんだかおかしいな、とスズキは思う。

 零と本気でやりあったことなどないスズキだったが、彼の力がこんなものでないことくらいはわかっていた。

 この程度の力では、いままで零が人間とかわしてきた契約の履行はおろか、百年生きることすらあやしい。

 零は、自分が知る限り数百年、もしかすると千年以上は生きているはずなのだ。

 からかっているにしても、この弱々しい攻撃はなんなのだろう。

 防御するまでもない、そう判断してスズキは翼をしまい、構えていた姿勢を解いた。



 そういえば、なんだか今日の零はその小さな姿のせいか、存在感がいつもより薄い気もする。

 「いいのかよ、行くぞ?」

 そう言って、零の瞳が光る。

 「ねえ零くん、ちょっとおちついて話を・・・」

 言い終わらないうちに、スズキとレイの目の前で、零の体がくずれおちた。

(続)

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