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使い魔日記  作者: narrow
20/68

続き 3

 「・・・ふぇ・・・・」

 子供にしがみつかれたまま、レイは泣きだしそうになる。

 もういやだ、怖い零さんの次は子供のオバケなんて。

 愛香も行ってしまったし、あたしこのオバケにとりつかれちゃうのかな。

 レイが悲観していると、

 「レイ、おいレイ。泣くんじゃない。」

 子供が、偉そうに話しかけてくる。

 「わからないか?俺だ、零だ。」

 不意打ちで、今一番聞きたくない名前が出てきた。

 「ひ、嫌ぁーーーーーっ!」

 どかっ!

 レイは、相手が子供であることを忘れて思い切りつきとばした。

 「だぁっ!・・・ってぇー。」

 普通に痛がっている様子である。

 「だ、大丈夫?!」

 その反応があまりにあたりまえで、子供をつきとばしてしまった罪悪感が先に立った。



 「痛ぇよ・・・」

 反射的に子供を助け起こそうとし、その瞬間はすべての怖さと、今までの展開がアタマから消えていた。

 子供がレイをまじまじと見つめる。

 「お前、怖いんじゃなかったのか?」

 「あ・・・怖いっやっぱ怖いぃ!」

 言われた瞬間恐怖が蘇り、ちょっと離れる。

 「ふざけてるようにしか見えない。」

 「あ・・・ほんとに、零さん?」

 「ああ。こんなナリになっちまったがな。」

 「・・・!」

 声にならない悲鳴をあげて逃げようとするレイの腕を、小さな零がギリギリで捕まえる。

 無理に振りほどいたら、また子供に痛い思いをさせる、とレイは反射的に加減をした。



 零は怖い、でも子供に怪我はさせたくない。

 まだアタマの整理ができていないがゆえの矛盾した行動。

 「待て!もうおどかさないから聞け!」

 涙をためた怯えた瞳が、零を測るように見る。

 そこにいるのは、小学校低学年くらいに見える子供。

 体温が妙に低い以外に、怖いところは特になかった。

 

 「ぜったい、ですか?」

 しめた、こっちの話に耳を貸した、と零は心の中でニヤリとする。

 倒れる前の最後の記憶と、姿が弱々しい子供に変わった、というこの状況からして、自分は相当弱体化したはず。

 放っておけば天使に殺されるか、同種に食われるか、もしかしたらこのまま形を保てなくなっていき、消滅なんてこともありうる。

 今レイにまで見放されては、彼は生きていけなくなるかもしれないのだ。

 とにかく彼女を押さえておき、できるようなら利用して、回復をはからなくては。

 「絶対に。」

 レイが身体の力をぬいた。

 話を聞く態勢にはなったものの、まだ逃げようと思えば逃げられる状態。

 それにしても、あんな目にあってよく話しを聞く気になるものだ、と呆れながらも、零はもう一押ししておく。

 「なんなら、謝る。悪かった、もうしない。」

 たったこれだけ、言葉だけの謝罪。

 やったことには全く見合わない短い言葉だった。

 

 謝ってくれた、とレイは思った。

 思ってしまった。

 零が反省などしていないことを知らない彼女は、軽く感動すらしていた。

 あの零が、自分に謝るなんて。

 正直、子供の姿にかなり恐怖感が薄れていたせいもあり、この時点で、都合の悪い昨日の記憶はすみっこに追いやられてしまった。

 謝ってくれたんだし、信じてあげたい、それに目の前のこの小さな子供を責める気にはなれない。

 見れば、元の面影も残るその顔立ちはとても綺麗で、疑うこちらが悪者であるような気さえした。

 すみっこに追いやられた記憶は、もはや怖い夢くらいの存在感しかない。

 大丈夫、な気がする。

 そう思うと、レイは逃げようとするのをやめ、零はカンタンに事情を説明した。

 「短く言うと、俺は今、ガス欠状態なんだ。

 生命力といえばわかりやすいか?そういう、まあ力を大幅に失って、このザマだ。

 今の俺が昨日みたいなマネをすれば、今度は本当に死んでしまうだろう。だから、安心していい。」

 彼が言うまでもなく、レイにもう怯えはなかった。

 好奇心を含んだ視線を受けて、零は言葉を発する代わりに、ただ見つめ返した。

 「あ、ごめんなさい、あんまり変わっちゃったから。カラダ、大丈夫なんですか?」



 「何とか死んでないだけで、正直あまりいいとは言えない。」

 「大変じゃないですか!私に、何かできますか?」

 零の目元がピクリと動いたのは、驚きのためだけではなかった。

 「お前、確かに俺は安心しろと言ったが、本当に怖くないのか?昨日何をされたか忘れたのか?」

 「いえ、あの、昨日は本当に怖かった、です。死ぬかと思ったし」

 情けない表情をうかべるが、

 「でもぉ!」

 一瞬でその表情は消える。さっきからころころとよく変わる態度は、やはりふざけているようにしか見えなかったが、彼女は真剣だった。

 「今は朝だし、怖かっただけで・・・そう!怖かっただけでケガとかしてないし、謝ってくれましたよね?!」

 「まあ、な。」

 「信じてます。」

 レイは零に微笑みかけた。

 少しだけ、嬉しそうに微笑んで見せた彼女が、まったく理解できなかった。

 初めて出会ったときから、何も考えてないお人よしだろうと予測してはいたが、ここまでとは。

 体温も鼓動も無い、得体の知れない相手に、人間ならば死んでいるような自己破壊シーンを至近距離で見せられて、頭から血を浴びせられて。

 なぜその相手を、信じるなんて言えるのか。

 けなげに、笑みすら浮かべて。

 笑顔は、零には不快でしかないもののハズだった。

 けれど今、彼女の笑顔は不快ではなく、むしろ零の胸のずっと奥で微かに、何か懐かしい感覚が蘇りかけた。

 ただ、彼自身はそれを、違和感としか感じなかったが。

 「お前、今は朝だって、暗くなったらまた怖がるつもりか?」

 「え・・・うーん」

 怖いところを探すように、レイが改めて零を見つめてくる。

 今の零は小さな子供であり、今までの好みが分かれるような外見と違って、誰もが可愛いと感じるような、美しいといっていいほどの容姿をしていた。

 凛とした印象の太すぎない眉の下には、切れ長の目。

 その長いまつげに囲まれた目は、ゆるりと目尻が下がっていて微かな色気さえただよっている。

 鼻はほどよく高く、すっきりと。

 それらをおさめた白い花のような顔に、薄い唇の赤さがなんともいえないコントラストを描く、まさに”小悪魔”。

 「かわいー・・・」

 答えになっていないつぶやきに、零はめまいを覚えた。

 肩を押されたような気がして、気付くと座ったまま、ベッドの方へ上半身が倒れこんでいた。

 消耗しきったカラダでは、少し動いたり話したりしただけでもダメージになったようだった。

 「ばか・・・」

 主に向かって憎まれ口をつぶやきながら、気絶するように彼は眠りに落ちた。

(続)

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