使い魔 序二 夢の君
何度も、夢に見た。
長い黒い髪のむこう、少しだけのぞく、きれいな顔。
光ってるみたいに見えるほど白いハダ。
すぅっと高い鼻をして、黒っぽくみえるほど赤い唇で。
全体的に細くて、華奢な体つきの男の人。
黒ずくめの服をきたその人は、なんとなく現実感がなかった。
生きてる感じがしない。
酔ったあたしは、これはゆーれいかもしれない、と思った。
珍しい!よく見よう、と近寄ってみた。
怖いのは苦手なハズなのに、お酒のせいなのか、綺麗だって思っちゃったせいか、ゆーれいと思っても不思議と恐怖感は無かった。
ゆーれいがあたしに気付いた。
「・・・何?」
こっちを見て少し笑った顔は、横顔よりもさらに綺麗。
夢はいつもそこで終わる。
一ヶ月ほどまえ、ぐてんぐてんに酔ったあたしは、たまたま入ったバーで、
すごくカッコイイ男の人と出会って、一緒に飲んだハズなのだ。
なのに、いつのまにか寝てしまっていて、起きたら一人。
店の人にきいてもわからないって言うし。
なんか支払いがミョーに高かった気がするけど、気のせいなのかな。
全部、夢だったのかな。
彼氏いない寂しい女の妄想、ってヤツなのかな。
ちょっと、切ない。
妄想がじゃなくて、そうだとしたらもうあの人に会えないってことが。
名前だってちゃんと聞いたのに。
「零さん」
ゼロって書いて、零
話す声も、低くて落ち着いててかっこいい。
ああ、もったいない、あの人が妄想だなんて。
いろんな話を黙ってきいてくれて、すごくいい感じだったなあ。
ため息をつきながらあたしは職場に向かう準備をした。
美容師をしているあたしは、まだ見習いでとても忙しい。
だけど、仕事中は何にも考えなくてすむから、それも都合がいいかもしれない。
だけど、一人になった時とかは、すぐにあの人を思い出してしまう。切ないなぁ。
休みの日に、トモダチとケーキを食べにいくことになった。
本当は、買い物なんだけど、大事件はその時寄ったケーキ屋さんで起こったのだった。
ちょっと高いけど、すごくおいしいケーキを出す店。
注文きめて、じゃ店員呼ぼうかって見回したら、そんなに遠くない席に、あの人がいた。
「零さん!」
「なに?どした?」
驚いている友達をおいて、あたしは零さんの席へ走った。
零さんは一人静かに、ケーキとコーヒーを前に雑誌を見ていた。妄想じゃなかった!本当にいる!
あたしは感動した。
「あの・・・」
声をかけると、零さんは顔をあげて、無表情に
「久しぶり」
とだけ言った。
やば〜・・・酔って何か悪いことしたかなあたし。
でも、でもせっかくもう一度会えたんだし、もう一押しっ!
「いつも、ココ、来ますか?」
無表情でも綺麗な零さんに、緊張してなんだかカタコトになった。あー、零さんってまつげ長いなぁ・・・本当に綺麗な目。何色なのかよくわからない瞳にも見とれる。
「・・・・・・・たまに。」
それだけ言うと、また零さんは雑誌に目を落とした。
何読んでるのか気になるけど、観察する余裕はなかった。
「あ、ありがとうございますっ」
なぜかお礼を言って、戻ってくるのがせいいっぱいだった。
それから、時間を作ってはあたしはその店に何度も通った。
でも会えなくて、時間を作るのも今の仕事では難しくて・・・。
それで、あたしは仕事をやめた。
そのケーキ屋さんは、ちょうどウェイトレスを募集中だったから。
月に何度か、零さんと必ず会えるようになった。
ウエイトレスになったあたしを見て、最初はびっくりしてたみたい。
たまに女の人をつれてくるのが悔しいけど、いつかはあたしと一緒にくるんだからね!とか思ったり。
零さんは、ちょっと可愛いところもあって、よく財布を忘れてくる・・・っていうか自分で払ってるの見たことない。
いつも財布忘れちゃうなんて、ドジっこだなあ。
で、それは知り合いだってことであたしが立て替える。
忘れっぽい零さん可愛いけど、このお店は高いからちょっと困るなぁ。
でも、いいや。だって、零さんに会えるから。
けど、できればお金も、返してほしいなあ・・・。