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使い魔日記  作者: narrow
18/68

続き

たまに微グロな場面が入ります。

苦手な方ご注意下さい。

 「え・・・」

 蛍光灯が切れたかと、見上げたレイの目に入ったのはいつもの部屋の天井ではなく、コウモリの翼の形をした、影のようなもの。

 零の背の辺りから伸びているそれは、翼の形をしているが、翼ではなく、ただ、影が影だけで存在しているかのように見えた。

 零は、どこか冷たく見える微笑をうかべていた。

 彼の細い、長い腕がレイに伸びる。

 「あ・・・っ」

 引き寄せられ、その腕に抱かれると、淡い花のような香りがした。

 レイがこんなに零に接近するのは、初めて零が来た日に隣で寝てしまって以来だ。

 薄いシャツをへだてただけで頬に押し付けられた彼の胸は、暖かくはなく、むしろ体温というものが存在しないかのようだった。

 胸の奥で、得体のしれない不安が生まれる感じがした。

 「なぁ、気付かないか?」

 何に、だろう。

 レイはただただ混乱していた。

 部屋全体を覆うような大きな翼状の影、今までさんざん見てきた無表情な顔よりも、さらに冷たく見える微笑、好きな人に抱き寄せられたのに、なぜか幸せでないこの状況。

 「レイ、お前は今、俺にも聞こえるくらいの音で、胸をドキドキ言わせてるよな?」



 「あぁっ・・・!」

 鼓動が、ないのだ。

 レイは、彼からバッと顔を離した。

 ウソだ・・・

 『アンタの彼、人間?』

 『姿消えるの一瞬だった気がすんだけど』

 バイト仲間の声がよみがえる。

 「零、さん?」

 さっきまでこの人は自分の大好きな人だったのに、いつのまにか、なんだかわからないものに変わってしまったのだろうか。

 彼じゃない、これはきっと彼じゃない。

 私の好きな彼は、変わってはいるけど人間のはず。

 でも、もし、これが彼なら、彼は。

 「俺は、零だ。けど、人間じゃない。何度言わせる?・・・しっかり目を開いて見てろ。」

 彼の手には、どこから出たのかナイフが握られている。

 もちろんそれは、彼が人ならぬ力で、何も無いところから作り出したもの。

 「いやっ!やだ助けて!」

 強く目を閉じ、叫びながらレイは逃げ出そうとする。

 その彼女に、零が冷淡な言葉をあびせる。

 「いや?なにがいやなんだ?俺が、好きなんだろ?助けて、って何から助けてほしいんだ?」

 「いやー!いやぁあああっ!」

 レイは両手で身体を離そうともがくが、腰に回された零の片腕が、その細さからは想像できない強さで彼女を捕まえている。

 身体を密着させたまま、零はもう片方の手に握られたナイフを振るう。

 「・・・目を開けろ。見るんだ。」

 痛みは無い。

 そっと目を開けると、視界に赤いものは見えない。

 「お前じゃない、俺だ。」

 首に。

 垂直に近い角度で、零の首からナイフの柄が突き出ていた。

 根元まで突き刺さっているのに、血は出ていない。

 てことは・・・もしかして、手品?

 きっとそうだ全部ウソだ、驚かそうとしてただけ、仕掛けがあるんだ。

 根拠もないのに何故かそう考えたのは、無意識の現実逃避にすぎなかった。

 「れ、零さ〜ん・・・」

 安心して力がぬけたレイは、残酷すぎる次の展開に、全く無防備なままで遭遇することになる。

 零は、彼女の思考を読んでいるかのように、言った。

 「血が、でないのは不自然だよな?そうだったそうだった・・・くくく」

 ぶ び ゅ っ

 首とナイフの境目から、赤い液体が噴き出す。

 「これで少しは人間らしいか?安心したか?」

 「・・・ぁ、あ」

 完全に腰が抜けたレイは、零が彼女から手を放し、戒めがなくなったにもかかわらず、立つことも、逃げることもできなかった。

 こんなときに、どうして気絶できないんだろう。

 もう死んでもいいからこの怖さから逃れたい、気絶してしまいたいとレイは思う。

 零はナイフに両手をかけると、首をほぼ半周する形で一直線に逆方向へ引いた。

 噴き出した血がレイを濡らした。

 冷たい身体から出た、冷たい血。

 「ぃぎゃあぁーーーーーーーーーーーー!」

 恐怖のあまり、知らぬ間に涙を流しながらレイは絶叫した。

 生臭い鉄さびのようなにおい。

 「あっあっあぁっ・・・!」

 涙と血でべとべとの呆けた顔で、零の前にくたりと座ったまま、レイは意味を成さない声を発している。

 こわい、こわいこわい逃げたい!

 でも立てない、どうしよう

 体中、血だらけだ、零さんの血が、こんなに

 これじゃ零さん死んじゃう、あたしのせい?

 ううん、もう死んでるんだっけ?

 人間じゃないから、死なない?

 レイの考えは迷走するばかりで、まとまらない。

 まともな思考や判断など、できる状況ではない。

 「あっははははははは!」

 首にばっくりと開いた傷口をふるわせながら、愉快そうに零は高笑いをした。

 レイの身体がびくっと反応する。

 「なぁ、逃げなくていいのか?くくっ」

 そうだ、逃げなきゃ。

 こんなの、絶対人間じゃない。

 恐怖で硬直した身体を、がくがく言わせながら、ぎこちない動きでレイは壁につかまる。

 なんとか、立てた。

 けれど、水の中を走るようにゆっくりとしか進めない。

 走れ、もっと急げあたしの足!

 玄関まで、距離と言うほどの長さもないのに、それが長く感じる。

 このドアを開ければ、外だ!

 「ふふっ・・・俺と、まだ一緒に居たい?」

 物音一つたてずに近づいたのか、耳の真後ろで零の声が聞こえた。

 とても愉快そうに。

 「きゃああぁぁぁーーーーーっ!」

 今度は、走れた。

(続)

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