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使い魔日記  作者: narrow
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使い魔 5ミライ

 突然たずねてきたその人は、ミライ、と名乗った。

 細くドアをあけた零の風貌に驚いたようだったが(彼は顔色が悪く、長い髪をしていて幽霊のように見える上、2mを越す身長は顔のある位置を予想外に高くしてしまう)、驚いたのは零のほうも同じだった。

 ミライは、レイと同じ顔をしていた。

 「アタシ、レイの姉でミライっていいますぅ。ちょっと、あがっていいかなぁ?」

 過剰に女っぽい話し方だが、それがしっくりくるような色気が、ミライにはあった。



 さりげなくカラダの曲線を強調するその服も、もしレイが着ていたら子供っぽさで台無しになるだろう。

 同じ顔をしていても、ミライのほうにはどこか、油断をするとこちらを飲み込みかねない危うげな色香があった。

 どう考えても他人には見えないので、家に上がるのを止める理由はなかった。

 「アナタ、レイの彼氏?」

 「いや。」

 否、であり、嫌。

 誰があんな能天気なアホ娘、ましてや人間なんかと付き合うか。

 歴史に残るような悪女ならばいざ知らず、零がレイから得られそうなものなどないし、第一、馬が合わない。

 というより、むしろ何から何まで二人は正反対といっていい。

 レイの見ているテレビを、零は全く反対の見方で見ていたり、零との甘い恋を夢見るレイに対し、零は愛や恋自体思い込みの産物だと思っていたり(これは”悪魔”全般に共通する考え方)、あげればキリがない。

 ミライは少々驚いたような顔をすると、さらに追求する。

 「でも、一緒に住んでるんでしょ?」

 「ああ」

 「こんな狭いところで、二人で暮らしてて何もないとか、ありえないよね?」

 隠さなくてもいいよ、とでも言いたげな含みのあるミライの笑み。

 「なら、あったかもしれないな。だがお前は、何もない方がいい

と思ってるんじゃないのか?」

 人外の力で少々相手の心を探ってから、零は会話の攻守を入れ替えた。

 「・・・そうね、よく見たら、あなたってあのコにはもったいない。」

 微妙な間のあと、そう言って向かい合う位置に座っていたミライは、零の隣へ寄ってきた。

 うっとうしい以外に特に感じることのない零は、動じることもなく

されるがままにしていた。

 すり寄ってきたミライは、誘惑する気まんまんの色気を含んだまなざしで熱く零を見つめ、身体を預けてくる。

 「重い。」

 無論そんな色気が悪魔に通じるはずもなく、零はやはり何も感じない。

 ミライは、やや広めにあいた胸元をのぞける角度で、零を上目遣いに見上げ、甘えた声を出す。

 「冷たいんだぁ」

 「そのまったいらな胸で何人だましたか知らんが、俺はそんなに安くないぞ。」

 声にも表情にも全く変化が見えない零に、ミライのほうがわずかに動揺した。

 ここまで無反応では、今後の進展を望むことは難しいからだ。

 「動揺してるな。ついでにおまえの目的もお見通しだと言ったら、どうする?おとなしく帰るか?」

 ミライの顔が青ざめる。

 焦り、気まずさ、微かな恐れ。

 うっすらと漂い始めたミライのその感情を、零は心地よく味わう。

 チャリ。

 玄関の方から小さな金属音が響くと、ドアの鍵を開ける音がした。

 「ただいまぁ、っと」

 レイの元気な声がして、彼女がこちらへ歩いてくる。

 そのとき、ミライが動いた。

 それに反応する前に、零は唇を奪われていた。

 「・・・!」

 レイの驚いた顔が視界の隅に入る。

 感情をむさぼることに神経が行って、ミライ自身には全く無関心になっていたのだ。



 やられた。

 ま、どうでもいいか。

 彼の正直な感想はそんなところ。

 人間相手に唇と唇が触れ合ったからといって、特に何も感じず、肩がぶつかる感覚と大差はない。

 嬉しくもないが、そんなに嫌ということもなく、強いて言えばむこうの思うとおりにさせてしまったのが少し悔しいくらい。

 ゆっくり唇を離すと、ミライがレイを振り返り、笑った。

 「おかえり、レイ。今度もあたしがもらうから。」

 対するレイは、目にいっぱい涙をためて、表情は、憤怒。

 「絶対ダメ!許さない!」

 「何言ってるの? だって今、見たでしょう?」

 この場を制しているのは自分だ、と思っている者の余裕の微笑み。

 「この人も同じ。 結局浮気するのよ、レイ。」

 非道なことをしておきながら、なぜかミライの口調は優しい。

 まるで妹を慈しむように。

 「ちがうもん!違うんだもん!零さんは!」

 怒りながら、 結局泣き出してしまうレイ。

 「何が違うのよ。さ、いますぐこの人とは別れなさい。それから実家に戻るの。」

 それをきいたレイが、キッとミライをにらむ。

 まつげの先に小さな涙のつぶをキラキラさせて。

 それから、叫んだ。

(続)

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