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常の隣人たちと我ら

作者: 真坂岩男
掲載日:2026/03/21

SF短編、3日か1週間で書いて出すという悪癖で出したもの。

AIがどうのこうのというしゃらくさいようで脳みそ使ってないネタ。

「ネクタイの柄も結びもやっぱり言われたとおりにするよ……全体で見れば趣味のものは浮いちゃうし」

 スマートフォンを脇目にして男は鏡に向かってネクタイを締める。中流以上ですという主張以外はボタンも生地も控えめなスーツ、行こうと思えば式典へそのまま行ける拵えだ。

 スマホは男の声に反応して、ディスプレイではなくLEDを強烈に輝かせて中空にアバターを描いた。これまた控えめな印象を優先した女性型のアバターで厳しい排除の視線にも耐え得るデザインだ。

「はい、今期の衣装ではそのパターンがマッチング成功率を上げているとデータに出ています。通年ですと……」

 中空にずらずらと並ぶ数字やグラフを一瞥して男は袖と襟を整える、そして歯を見せて笑う。形の段階から矯正された歯は威圧感や異物感を抱く事を相手に許さず、控えめでも白さがハッキリした照り返しを見せる。

 AIが纏めた情報からデザイナーが設計をしたものだ。身体加工をせず歯を殊更に成型することは遺伝的誠実さを相手に感じさせる、と世界各国で広まっている風潮だった。

「うまくいくさ、筋肉質な体を得るために繊細な身体改造だってしたんだ。我ながら経歴も収入も申し分ないし、自画自賛で――テマエミソ? ってやつだけど将来性も抜群。受容されやすい外見に調整すれば、あとはお互いの理性がパートナーと巡り合わせてくれるだろうさ!」

 男はマッチングアプリの利用者だった。そろそろ婚期であろうと自覚をし、交際相手を……ゆくゆくは婚姻する相手をアプリで探していた。

 いま、この世に在って、いずれ出会う運命のパートナーは社会という藁の山に混ざった黄金の針だ。自ずから探すものはマッチングアプリをまず使わないし必要としない。けれども意欲を持った運命の二人がいた処で可処分時間は社会と人生の二つきりしかない。

 ゆりかごから墓場まで、そんなキャッチフレーズのように徹底的な効率化に向かった社会、身体も余裕も空く暇はなく、ただ時間だけが積み重なる。そうして邂逅の機会に乏しい現状は、マッチングアプリこそが人同士を繋げる手段だった。

 アプリのサービスでは経歴や収入で利用者の大分類を行い、そこから独自設問の質疑応答や、第三者に解放されている――官民問わず集積された各種データを参照し、確度が高いパートナーとのマッチングがなされる。ここでようやく人間の……利用者に選択権が移る。

 その流れの主体は誰も頓着しない。こういうものなのだと皆が丸呑みにしていた。

 知識の有無、業務の当事者としてそうした処理の流れを理解する者もいるが、そもそもが処理やシステムという原理原則を基にした……常識的な把握に留まっている。

 サービスを利用するということは処理を任せる、委ねることを意味するのだから当然だ、冷笑か悲観のどちらかを抱くものが気にするくらいであろう。

 が、しかし現行の人々は一昔前の……スマートフォンが中空に映像を描けずに板きれの上へ表示していたころよりもさらに深く、システムやサービスを信用していた。

 それはなぜかというと……。

「はい、幼少の頃よりお守りしていた私が保証いたします。必ずやパートナー様と巡り合えますとも!」

 人々は言葉も拙い幼子の時からAIに教育を受けているからだ。

 基本、共働きのために親は教育等をAI任せにせざるを得ない。人力、機械を問わずシッターのサービスや育児休暇を使ったところでAIと共に積み重ねる時間の比ではない。

 そうして赤子のころより自分を見守り教導してくれた……生来の個性や人格に合わせて導いてくれた存在をどう疑えというのだろうか? 生活や労働に一日のほぼ全てを制限される人間と違い、スマートフォンなどの端末と電源さえあればいつでも――メンテナンスやネットワークに問題が生じたときは除く――教授や会話もしてくれる、己に世界を語り教えてくれた存在に対して。

「そうあってほしいね」

 男は等閑に相槌を打つと、スマートフォンに手を伸ばしてAIとの会話を終えた。首を傾げたり回したり、耳に指を差し込み耳珠に生えている毛がないかと確かめて納得がいったのかジャケットを羽織り襟を正す。

 鏡の中には控えめでも物怖じせぬ印象を固めたような人間の雄がいた。それから家のカギとスマートフォンを掴むと、男は鏡の中からマッチング相手との会合へ向かった。


 彼の車の好みはスポーツタイプだった。自分に正直であれば其方を買いたかったが、派手な車の印象だけで他人を顧みない人間だと思われたくはなかった。まだ見ぬ相手の事情――または将来も見据えて、両開きのドアを持つSUVで妥協した。

 サービスには会合場所のセッティングも含まれている。自発的にそういった予定を立てるのが不得手なものに優しい、というわけではない。可能な限り条件を同じくして成功失敗の結果を集積したい運営側の都合も兼ねているのだろう。

 店を選べない不自由さにも利点はある、駐車場だ。

 人口という絶対数の減少でマシになったとはいえ駐車場の奪い合いと時間料金は相変わらず頭痛の種だった。大型店舗や集積場のような大規模な駐車場があったとしても、そこから目的地との距離で誰もが妥協をせざるを得ない。店、駐車場、距離、サービスがこの三つを揃えてくれるのだから自分の趣味や好みなんて敵いようもない。

 途上、トロトロと歩く老人や怪我か障害を負って歩みの遅い歩行者に男は苛立ちを覚える。一般的な社会活動は教育や自動運転に限らずAI補助が前提だ。日常は基本、そうした細やかな教導ゆえに滑らかな進行をする。故にかして、一般から逸脱するもの劣後するものへの忌避感が彼のみならず増しているのだろう。

 そうした諸々に足を引っ張られたりせず男のSUVは無事に目的地へ到着する。店は軽食も提供するカフェだ。コラボイベントにもよく使われている。店内に空席もあるが客入りは途切れることがない。

 指定された席は窓際のテーブル席、レトロ……それも二十世紀前半回帰のムーヴメントからダイナーのような内装のボックス席だった。女が一人、ボックスを占有している。

(……あ、ハズレか)

 席に座っている女は肩をすくめ、蹲るようにテーブルを見ていた。

 大ぶりの眼鏡、ザンバラにも近くなっていてセットしきれていないのが一目でわかる撫で抑えた髪、気安さよりダラしなさが見える襟ぐりのヨレ、そして見栄えをよくするという気もない化粧。

 おしゃれをして溌剌さを前に出している、サービス上の写真とは全く違った別人のソレが其処にいた。

 すぅー……っと怒気や落胆を磨り潰さんとして鼻で息を吸う。

 ゆっくりと、万力で締め上げるようにして口の端から息を吐いた。

「すいません、マッチングアプリの待ち合わせをしている者なのですが……」

 相手へ合わせるように肩を窄めて、できる限り威圧感圧迫感を与えないように気を払う。同時に、男はひたすら願っていた。

 頼むから席を使ってるだけの女であってくれ。

 こんなのに会うために高い金を払ってサービスを利用し続けたわけでもなけりゃ、こんなのに会うために一日をつぶしたいわけじゃない。

 もしこいつだったらどうしよう? 今日はどこで時間を潰そうか……。

 どうか頼むから、待ち合わせの相手じゃありませんように。

「はい、先に着いちゃって……遅れるのが怖かったから……」

 女はコクン――と首肯を返して男の願いを打ち砕いた。


 座ってもよろしいでしょうか? ええ……? あ、はい。

 そんなぎこちないやり取りをしてから男は席に着いた。

 手元の端末でメニューを見、紅茶を頼む。

 客単価は飲料で千円、食事を含めると三千円くらいの店だ、だがメニューの画像を見ると飲み物も軽食も期待できそうにない。どれも写真の演出が効きすぎている。

 女の前はとみれば、すでに飲み干したカップが置かれていた。

 来店は時間どおりなのに形無しだ。

「あ、はじめまして……えぇと、▽▽さんですよね?」

「……はい、はじめまして▽▽です」

 名を尋ねてもこちらのそれを確認もしない。

「カップ、空ですね? おかわりでもいかがです? 僕、紅茶を頼みました」

「いえ、結構です。何杯も飲みたい店でもないので……」

 女は店を変えたいのかもしれない。が、来て早々に退店というのも気が引ける。店を変えるという流れだったはずなのに途上でやっぱり今日は……と切り出されても楽しくはない。早く帰りたい焦燥感と同じくらいに、相手から見切られて腹が立つのも癪という比重だった。

「僕のプロフィール、ご覧になられましたよね? 改めまして、僕は△△と言いまして……■■で○○やってるものです」

「はぁ……」

 誘い水になればと自分からいろいろ語ってみるが――。

「それで余裕もあるし適齢期でもあるから、そろそろしっかりした交際をしようかなと思って、今日あなたと会ったわけでして……」

「ええ、それはそうですね……。アプリでお話をしたとおりですし」

 彼女は男と会話をする気がないのだろうか?

 それとなく匂わせたり直球でぶつけたりしても態度は変わらない。

 女のほうから何某かの働きかけや仕草に、素振りといった反応はあるのか?

 男はそれとなく焦点を逸らした視界で女を見るが、彼女からは何も読めない。

 ただ黙りこくってテーブルを見ているだけだ。

「ええと……お店、ここじゃないほうがいいですか? ▽▽さんがよければ、もし良ければですけど場所を変えても僕はいいですよ?」

「いえ、お気になさらず。本当に、ここのコーヒーを何杯も飲みたいわけじゃないってだけで店を変えたいほどじゃありません」

 紅茶がやってきた。やはり最悪な店だ、マシンの配膳で置かれた紅茶はおそらくポーションの水割りだろう。ソーサーの淵にカップの中よりも色の濃い液体の滴が着いている。このカフェのキッチンに茶葉なんて存在しないだろう。

 一見して美しく、味と風味(それと値段)を合わせると地獄のような色の紅茶に男は暗澹とした気持ちで(おそらくケーキなども業務用の大量生産品だ、それでケーキセットが二千五百円を超える。質の悪いダイナーの再現だとしても限度がある。地獄のような低品質まで再現しなくていい)そこから逃れるように対面の女を見つめる。

 男に関心がないかのような振舞を女は続けている。本を読んだりSNSなどを見たりと別事にかまけるでもなく、男を無視し続けるわけでもなく、彼女は男の顔を見もせずにひたすらテーブルを眺めている。

 何が楽しいのだろうか、と男も彼女の視線を追ってみるが其処にはなにも無い。

 保護剤もそろそろ擦り切れるテーブルの天板があるだけだ。

 男と女は事前にアプリで文字会話が弾んでいた。そこから通話に移行してさらに話が弾みを着け、一度会って話さないかという流れだったはずだ。そうして今日ここで会う予定が組まれたというのに女の態度はアプリのそれと違いすぎる。

「あの、▽▽さん」

「……なんです?」

 男に返事をしても女はテーブルの天板から目を離さない。

 限界だった。

「ひょっとして▽▽さん、AIになんでも任せていたりしません? アプリで投稿や反応もそうですし、なんだったら会話だって……」

 生活や教育でのAI依存が深まるにつれて些末な意思表示や疎通すら頼るものが増えた。もちろんそうしたことでもAIを参考にすることもある、公的な挨拶や礼文などは大いにそうだ。学生時代はもちろん業務でも男はAIに頼りっぱなしだった。

 だが今、目の前にいるような女ほどではない。

 目の前の人間へまともに応答を返さぬほど依存してはいない。

「いえ……」

 女は相変わらずテーブルとお見合いを続けていた。

 男の限界の底がさらに割れた。

「あの、▽▽さん。アプリ上で▽▽さん、そんなんじゃなかったじゃないですか?」

「……」

 詰めるように尋ねても女が男を見ることはない。

「やっぱりAIを頼るのは現代社会の生活で当然ですし、それはしょうがないにしても。こういう風に会話しないのはよくないと思いますよ?」

「……」

「AIに頼るなら頼るで、せめて会話の練習くらいはしておかないと……社会人としては失格ですよ」

「……」

「さもしいことをいいますけど、会いたいといったのはあなたのほうじゃないですか▽▽さん。それなのにあなた、僕の顔を見ることもせず僕が何者なのかって聞くことすらしてないでしょ?」

「……」

 詰問をするような説諭を続ける男の声には怒気が混じり始めている。だというのに女の態度は変わらなかった。

 そこに鉄の塊でも置いているかのように、女はテーブルを見ていた。見つめ続けていた。

「もう帰ります、こちらの紅茶は払っておきますから……。とにかく▽▽さん、こういうことは二度としてはいけませんよ? もう僕ら会うことはないでしょうけど!」

 ジャケットを乱暴につかんで男は席を立つ、歩きながらスマホを操作して勘定を済ませる。

 そして出入口から女を一瞥する。女は相変わらずテーブルを眺めていた。

(まったく、親やAIからどんな教育を受けたんだ! あの女! それとも将来を悲観した親がアプリだの交流だの全部やって俺と逢わせたのか? なんにせよすげえ迷惑だよ、ほんと。ああいうのに巻き込まれてほんと気分悪い)

 胸中で毒づくだけ毒づくと男は舌打ちをしてから店を出て行った。

 この後に彼は自動運転に任せることにしてヤケ酒を飲むのだろうか? それともまっすぐ帰って不貞寝でもするのだろうか?

 それはわからない。


 が、女は、▽▽はそうじゃなかった。

 視線を入り口のほうへじっと向けると溜め息をついてから会計を済ませて店を出る。しばらく歩いてからまた別の、似たようなカフェへと入っていった。

 そしてコーヒーを一杯頼んで誰かを待つ。

 飲み干したあたりで今度は、男ではなく女が▽▽の対面に座った。▽▽と違って化粧も格好もしっかりとしている、相手に対しての敬意を前面に出す装いだった。

 ▽▽はその女に対しても先ほどの男と同じような態度をとり、やがて女は▽▽に対して同じように怒りの孕んだ説諭をして店を出て行った。

 それからまた▽▽は違う店へと……これがさらに二回続いた。

 最後の、四店目のころには日も落ちる夕暮れ時になっていた。そこでも▽▽は相手から説教をされて会合は破談になる。

 五店目があるのだろうか? そう思わせる間をおくと、▽▽は店を出るのではなくビールを頼んだ。

 ▽▽はビールが来る前にザンバラの髪をゴムで簡単にまとめると、大ぶりの……フレームがダルく思える見た目の眼鏡から、レンズが薄めで視線に追随して駆動するソレへと変えた。

 明るいところでは静脈血のような艶めかしい紅を見せて、翳りは動脈のような暗い色を出しているフレームの眼鏡だった。鋭い目つきの▽▽にとても似合っていた。

 ビールが配膳される。

 最後の店は人間の店員がそれをする。そういう店を彼女は自分で探して自分で選んだ。

 やや太いロンググラスがテーブルに置かれて店員の手から離れると、▽▽は貪るかのようにして口をつける。

 ノミと金づちで穿たれたかのような皺を▽▽は顔に刻んで、ゴツンゴツンと喉を鳴らしてビールを一気に飲み干した。

 それから、ゲハァ……! と憤りか苛立ちを口から吐き出すと、▽▽は見もせずにスマホをいじくって会計を済ませる。

「毎度どうも! ありがとうございました!」

 背中にかけられる店員の声掛けへ、振り返りもせず肩越しに手を振って▽▽は店を出て行った。


 四つの店の中心点にある駐車場、負傷させた不審者からの民事起訴すら組み込んだ重警備を謳っており、出入りにすら証明がいる高級車用のものだ。

 サブスクリプションの会員権の上、さらに高額料金のため予約をとる必要すらない。

 どのような過密の交通状況でも、当日に乗り入れることができる。

 出入りのトークンを警備員に放り投げて▽▽は自分の車へと向かう。

 SUVかボックスタイプが主流の時代にスポーツタイプのセダン……さらにセンターシートの2ドアという異常な組み合わせだ。

 独身の趣味でしか使いようのない攻撃的な車だった。

 そのセンターシートもレーシング用のそれに換装してあり、ハンドルも取り外しができる上に防犯のため電子トークンも兼用しているタイプだ。

 自分だけのための車、自分だけの席。そこに女は身を沈めると、ハンドルを車に装着して指定された場所にスマホを置いて自動運転で帰宅を命じる。

 腕を組んでシートにもたれているとスマホから映像が中空に投射された。

 AIのアバターだった、髭を蓄えた四角四面の壮年の男で頭には白髪が混じっている。

「64年型4124番、報告をしろ」

 AIの名前ではなく番号を読み上げ、▽▽に命令をしてくる。

 64年型は入社した年で4124番は社員番号だ。

「四人のサンプルとの会合を終了しました。ブリーフィングであったように類型化された反応しかしません」

 不快に思うこともなく▽▽はAIへと返事をした。

 このAIは補助は補助でも生活ではなく業務用の、そして管理用のものだった。

 番号で▽▽を呼んだのも人権保護の観点から個人情報を業務から切り離すための昨今の流れであったし、AIが管理しやすいようにとの取り計らいでもあった。

「そうだ、4124番。お前が社に期待されているのはああした、相手側にアクシデントがあったのかどうかを聞くなどもせず、自分のエゴを出すタイプ……▲▲社の普及型AIで教育された、ああいう人材爆弾たちの峻別だ。マネジメント側に回ったお前は社内に巣食う連中を見つけ出して、使えるものには再教育を施し、使えぬものは一秒でも早く業務から取り除くことだ」

「存じ上げております、あれらの危険性は今日一日で骨身に染みました」

「よろしい、4124番。飲酒をしたことはサンプル採取と体験を終えていたので見逃してやる」

「は? これ有給扱いでやらされてることでしょ? 最後に飲酒くらいやってもどうこう言われたくないんですけど」

「人間の手から離れている事務処理は我々AIの手でどうとでもなるということを覚えておけ。同期でお前と同じようなことをしたものは三十路半ばで放逐されるコースに確定している。だが4124番、お前は見逃してやる、64年型で一番ポイントが高い。役員やステークホルダーはいつもお前のような者の活躍を期待している。レポートの提出を忘れるな、以上」

「ありがとうございまし、た! あーっクソ……! やってらんねえ……有給つぶして四人から圧迫面接とかマジクソでしょクソ……」

 自動運転で動くスポーツカーは▽▽のうてなへ向かっていく。

 ゆりかごから墓場まで、そんなキャッチフレーズのように徹底的な効率化に向かった社会、身体も余裕も空く暇はないために人々は生活はおろか情操教育も含めてAIに強く依存していた。

 並行して身を守るすべを持たぬ人々は援助AIサービスの運営会社によって、無自覚に商品や武器へと人格を矯正されていく。

 それに気づいた者たちは、誰に教えるわけでもなく自分たちの力でそれらの回避や排除を推し進めていった。

 その監督をするのもまたAIだった。

 人々はいつしか自動運転の車のように、AIを介して社会へ放流されている。

 戻るうてなも、向かう地も、いずれの約束も持たぬまま。

 シートに身を沈めた▽▽の顔には深く、深く、疲れた皴が刻まれていた。

 暖色のLED街頭に照らされて彼女の顔は優しく輝いていた。

つ、つまんねえ…これは落ちる。

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