野宿とふーちゃん
ふーちゃんと歩き始めて数時間、辺りは暗くなり始めていた。
もしここが日本の街中だったら、それほど気にすることではないだろう。が、ここは日本ではないし、街中でもない。
少し歩けばなんかめちゃくちゃでかい蛙やら蛇やらが現れ襲ってくる。まあそのたびにふーちゃんが丸焼きにしているから、それほど脅威とは思えなくなってきたが。
だとしても、さすがにこんなところで野宿はまずいのではなかろうか。
「……てことでふーちゃん、どうしようか」
「それなら私、人間のいそうなところ探してこようか?」
ふーちゃんは笑顔のまま首をかしげる。
こうして見ていると、普通に可愛らしい女の子だ。
「探すってどうやって」
「お空からー」
パタパタと腕を振るふーちゃん。
火の玉出したりしてるのは見てきたが、本当に不死鳥なのかは信じがたい。だってそうだろう。不死鳥と言えば物語の中の存在であるというのが一般常識だ。
どこぞの魔法使いの通う学校でもなければ、リアルでいるわけもない。
「ちょっと待っててね!」
そう言うと、ふーちゃんは俺から少し距離を取る。
何をするつもりなのか。俺はふーちゃんのことを眺めた。
ぼっ、とふーちゃんの周りに火の粉が舞ったと思うと、瞬く間に全身を炎の渦が飲み込んだ。
大体10メートルくらい離れているが、そこそこ熱い。
……え!? ちょま……!
「ふーちゃん!?」
俺は急いで駆け寄った。
「あっつ!」
まるで人がどうにかできるものではない。
誰か消防士連れてこい。
辺りに水場はない。この火を消すことは、不可能だ。
「ンパッ!」
呆然と炎を眺めていると、中から明るいふーちゃんの声が聞こえた。それと同時、渦は散り、羽を広げたでかくて紅い鳥がそこに立っていた。
「えっ……と、ふーちゃん?」
「うん!」
どうやらふーちゃんは本当に不死鳥だったらしい。
「触る?」
どこか誇らしげなふーちゃん。
俺はそっと近づき、ふーちゃんを撫でてみる。
それはそれは言葉にできないほどふわっふわで、どうにか頑張って言語化するなら……いや無理だ。
とにかくこれはふわっふわだ。
気が付くと俺は、ふーちゃんに抱き着いていた。
体温とはまた違った温かみがある……落ち着く。
「ねえねえ拓斗、そろそろ探してきてもいーい?」
「あ、そうだった。うん、探してきて」
俺はふーちゃんから体を離す。ちょっぴり寒く感じるのはきっと気のせいだ。
ふーちゃんは俺から充分距離を取ると、翼を広げて大空へ飛び立っていった。その光景に見惚れていた俺が、しばらくしてでかい蛙に追われるのは……まあ誰も知らなくていいことだろう。
〇●〇●〇
俺は戻ってきたふーちゃんに助けられ、今は見つけた村に向かって歩いている。
できれば今日中に到着しておきたいが、もうじき日も落ちる。野宿をするしかないだろう。それにいい加減腹も減ってきた。
「ふーちゃんふーちゃん」
「どーしたの?」
隣を歩くふーちゃんが、俺を見上げる。
「そろそろお腹減ってこない?」
俺がそう言うと、何かを思いついたふーちゃんは「待ってて!」と言って、近くの森の中へ入っていった。
それから1分くらい経つと、森の中で爆音が鳴り響いた。
ふーちゃん、また何か倒したんだ。
俺は呆然とふーちゃんの入っていった森を眺めていると、丸焦げになった蛇を引きずりながらふーちゃんは戻ってきた。
「ごはん取ってきた!」
これがごはんか。
そうか。
そうか……。
不死鳥ともなると、一食のスケールもすごいことになるらしい。俺は野ウサギか野鳥を捕らえて、それを焼いて食べるだけだと思っていた。
しかし文句は言えまい。
ふーちゃんは俺の代わりにこうして狩りをしてきてくれたわけだし、俺はずっと何かをしてもらっている立場だ。それに、こんな眩しい笑顔を向けられて何が言えるか。
「ならここで休もっか」
近くにあった枝などを軽く集め、ふーちゃんに火をつけてもらい焚火を完成させる。火起こしをする必要がないのは、単純に楽でありがたい。
この世界に来てから約半日。俺は初めてまともに腰を下ろした。
さて、あとはこの蛇をどうするかだ。
このサイズだと皮も相当硬いだろうし、切るにしても刃物の1つもない。
俺がどうするか悩んでいると、ふーちゃんが蛇の皮を無造作に破き始めた。
丸焦げになった皮は地面に捨てられ、徐々にその中の肉が見えてくる。
力はあるとは思っていたが、まさかここまでとは……。
俺は近くにあった枝を1本持ち、ふーちゃんの元へ向かう。
「これにさ、千切って刺すことってできる?」
「任せて!」
手際よく肉を千切って、枝に刺していくふーちゃん。
だいたい10本くらいできたところで、俺は焚火の近くに座り、肉を焼き始めた。
「明日からはふーちゃんの見つけてくれた村に向かって移動する」
「うん!」
「どれくらい時間がかかるかは分からない」
「うん!」
「だからこういう日が続く可能性もある」
「……うん!」
ふーちゃん、話聞いてないなこれ。
でも分かるよ。目の前で肉が焼かれてたら、こんな話聞いてられないよね。
「あのさ、これじゃ時間かからない?」
ふーちゃんは焼かれている肉を指差して、俺の方を見る。
「時間はかかるだろうけど、こういうのはしっかりと火を通さないとだからね」
「それならさ、私が焼こうか?」
たしかにふーちゃんなら、すぐに火を通せるかもしれない。
腹も減っているから、すぐにでもこの肉を食べたい俺は、ふーちゃんに頼んだ。
ふーちゃんは1本手に取ると、息を吸って炎を吐いた。
肉は見事に黒くなった。
「焼けたよ!」
それでも満面の笑みで渡してこられると、受け取らざるを得ない。
俺は一口肉をかじる。
カリカリとしていて焦げ臭い。まるで食べ物の味も匂いもしない。
「どう? おいし?」
「うん……おいしい……」
ここでおいしくないなんて言えるわけがない。
俺がおいしいと答えたからか、ふーちゃんはとても嬉しそうにしている。味はあれだけど、この表情を見れたのなら食べる価値はある。
でも、2本目からは炭ではなく肉を食べたい。
「それじゃあ他のも焼くね!」
しかし、悲しいことに目の前にあった肉は瞬く間に炭に変わった。
ふーちゃんは俺の隣に座ると、炭の刺さった枝を手に取った。
このままではふーちゃんがこの炭がまずいことを知ってしまう。
「あのさふーちゃん」
俺はふーちゃんが口に入れる寸前で止めた。
「どーしたの?」
「えっと……今日は1日ありがとね」
「いいよ! 私、拓斗のためならなんでもするから!」
歯を見せて笑うふーちゃん。
なんだか申し訳ない気持ちになってくる。
「それじゃいただきま──」
「それでさ!」
口を開けたまま、俺を見るふーちゃん。
「明日から、多分もっと迷惑かけると思う」
俺は何とかして、ふーちゃんがその黒い物質を口に入れないように時間を稼ぐ。
「俺はこの世界のことを全く知らないし、自分のことを守る力もない」
ふーちゃんは何かを考えるように黙り込む……ついでに枝に刺さっている暗黒物質を全て食べた。
俺が嘘をついていたことがバレてしまう。そう思っていたのだが、ふーちゃんは特に何も反応しない。
「拓斗のことは、私が守る。だから、拓斗は楽しいって思ってくれたら私は嬉しい」
「……うん、分かった」
俺は一口、肉だったものを齧った。
やっぱ苦いわこれ。
とても食べられるものではないのに、ふーちゃんはおいしそうに食べている。
「ふーちゃん。それ美味しい?」
「うん! おいしい!」
そっか、おいしいか。
「そのうち俺がおいしい料理作ってやるからな」
俺が言っていることが分からないのか、ふーちゃんは首を傾げた。
「これもおいしいよ?」
この日、俺の目標が1つ出来た。
ふーちゃんに、本当においしいご飯を食べさせてあげよう。




