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現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
第2層 意識の芽生え
9/11

第9話 モンスターハウス攻略戦

神谷直哉は、駅前のATMの前で立ち止まった。

画面に表示された残高は、208,340円。


「……おぉ、貯まってる。俺、頑張ったな」

思わず口元が緩む。

魔石の換金を重ね、少しずつ貯めてきた成果が、こうして数字になって現れるのは気持ちがいい。

バイトより稼げるとは聞いていたが、実感するとやはり嬉しい。


直哉は数千円を引き出し、財布にしまうと、軽く息を吐いてATMを後にした。

「さて、準備してダンジョン行くか」


* * *


第2階層。

洞窟の中は、まるで星空のようだった。

天井には無数の光る鉱石が輝く。幻想的で、どこか神秘的。何度来ても、この景色には心を奪われる。


小道を進みながら、直哉はイチカに問いかけた。

「なあ、今日モンスターハウス行ってみるのはどうだ?」

『現在のステータス、装備、魔石残量、そして直哉の集中力を総合的に判断すると、問題ありません。突入可能です』


「よし、じゃあ行こう。今回は準備も万端だし、前みたいに地形頼りじゃなく、正面突破してやる」

そう言いながら、直哉は手に握っていた金属バットMk-Ⅱを軽く振って、感触を確かめる。


このバットは、曲ったバットの代わりに近所のホームセンターで買った普通の量産品だ。

特に高級でも特注でもない。

ただ、サイズだけは一番大きくて重いやつを選んだ。

握ったときの重量感が、しっくりきたからだ。


そして何より――赤い布。

部屋の引き出しに眠っていた、昔使っていたタオルの端を切り取り、グリップ部分に巻き付けた。

滑り止めとしても機能するが、それ以上に「自分だけの武器」感があって、直哉は満足していた。


振り抜いたときの風切り音、手に伝わる振動、そして赤布が揺れる様子――それらすべてが、直哉の気持ちを高揚させる。

(……ふふ、紅蓮の豪撃クリムゾン・インパクト。俺の右腕にして、魂の一撃)


誰にも言っていない。言うつもりもなかった。完全に自己満足の世界だ。


だが――


紅蓮の豪撃クリムゾン・インパクト、良いネーミングですね。力強く、直哉らしいです』

「うわっ!? 聞こえたの!? いや、えっ、なんで!?」


『思考パターンから推測しました。命名の瞬間、脳波に特有の喜び反応がありましたので』

「やめろよ! 恥ずかしいだろ!」


『ですが、直哉が気に入っていることは伝わってきます。

武器に名前をつけるのは、戦士として自然な行為です』

「いや、俺は戦士じゃないし! 高校生だし!」


顔を赤くしながらも、直哉は紅蓮の豪撃クリムゾン・インパクトを肩に担ぎ、モンスターハウスへと向かった。


* * *


モンスターハウスの入り口に到着すると、イチカが静かに告げる。

『敵の構成は、牙持ちモグラ、鋼殻アルマジロ、岩板ゴーレムの3種類が高確率で予測されます』


「なるほど、いつもの連中か」

『まずは音響デコイ(チューチュー・ボット)のミミズバージョンを使いましょう。

かなりの数の牙持ちモグラを誘導できるはずです』


「そういえばヤスがいろいろな音が出るようにしたって言ってたな」

『鋼殻アルマジロは丸まる前に、無限拘束ジャック・イン・ザ・トラップメントを使えば高確率で無力化できる計算です。

タイミングも任せていただければ成功させます』


「ゴーレムだけなら、今の俺なら真正面から打ち倒せるはずだ」

『その通りです。では、突入しましょう』


* * *


直哉は、モンスターハウスの扉を開ける。

開けた空間に踏み込むと、床が反応し、背後の扉が岩で塞がれる。

退路は断たれたが、想定通りだ。


「イチカ、デコ――」


言い終わる前に、イチカがすでに行動を開始していた。

音響デコイ(チューチュー・ボット)うねうねモードで起動』


小型デバイスが地面を這い、ミミズの鳴き声を発しながら振動する。

岩のくぼみにはまると、いい感じでミミズのような振動を始めた。


牙持ちモグラが一斉に反応し、デコイに向かって突進していく。


「アルマジロが来――」


またもや言い終わる前に、イチカが動いた。

無限拘束ジャック・イン・ザ・トラップメント展開』


サイコロ上の物体が高速で飛びだし網に変り、転がり始めたアルマジロを捕らえる。

甲殻が軋み、もぞもぞと動くが、完全に拘束されている。


「……すげぇな、イチカ。完璧すぎる」

直哉は安心して、岩板ゴーレムに向かって突っ込む。


1体目のゴーレムが拳を振り上げる。

直哉はそれをギリギリでかわし、膝にバットを叩き込む。

鈍い音と共に、ゴーレムがよろめく。


「……俺、こんなに速く動けたっけ?」

自分の身体が、以前よりも軽く、力強く感じる。

レベル5になったことで、筋力も敏捷も確実に向上しているのだ。


「クリムゾン!」

背面に回り込み、魔石部に渾身の一撃。


「インパクトッ!」

叫びと共にバットが唸りを上げ、ゴーレムが崩れ落ちる。


その間、もう1体のゴーレムが動き出すが、イチカが投げた閃光弾がタイミングよく炸裂。

視界を奪われたゴーレムは動きが鈍り、直哉が正面から突撃。


「クリムゾン!」


「インパクトッ!」


バットが膝を砕き、倒れたところへ魔石部を狙って1撃。2体目も崩れ落ちる。


周囲に邪魔する敵はいない。

モグラたちはデコイに夢中で、アルマジロは拘束されたままもぞもぞしている。


「さて、残りだな」

直哉はデコイに群がるモグラを1体ずつ処理していく。


最後に、拘束されたアルマジロの前に立つ。


「お待たせ。じゃ、終わりにしようか」

バットを振り下ろし、甲殻を砕く。静寂が戻った。


『直哉、あなたの攻撃……武器名を叫ぶことで、筋力と反応速度に一時的な上昇が見られました。

自己暗示による戦闘効率の向上と推測されます』

「……マジかよ。」

直哉は照れくさそうに笑いながら、魔石を1つずつ丁寧に回収し、ポーチに収める。


『魔石の回収効率も向上しています。戦闘時間の短縮により、消耗も最小限です』


「ふふ、俺たち、けっこういいコンビなんじゃないか?」

『はい。直哉との連携は、非常にスムーズです。信頼関係の構築が進んでいる証拠でしょう』


「……なんか、そう言われると照れるな」

『照れる必要はありません。信頼は、戦闘において最も重要な要素の一つです』


直哉はポーチを腰に固定し、深呼吸をひとつ。


「よし、今日はここまでにしとくか」

『了解しました。帰還ルートを案内します』


イチカのナビゲーションに従いながら、直哉はゆっくりとダンジョンの出口へ向かう。

その背中には、赤布のバットMk-Ⅱ――紅蓮の豪撃クリムゾン・インパクトが、誇らしげに揺れていた。

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