第8話 妄想と発明のファミレス会議
昼下がりのファミレス。窓際の席に座るヤスは、ノートPCを開いて何やらグラフを眺めていた。
神谷がドリンクバーでコーラを注ぎ、ポテトをトレイに乗せて戻ってくると、ヤスは顔を上げて問いかけた。
「さて、ナオヤ氏。発明品の使い心地はいかがでしたかな?」
神谷はポテトを1本つまみながら、煙幕弾と閃光弾、音響デコイの使用感を語り始めた。
「スモーク、マジで助かった。
あれなかったら、モグラに囲まれてたわ。
フラッシュも、ゴーレムの目潰しに使えたし。
で、チューチューな。あれ、思った以上に使えるぞ。
モンスターが音に反応して、そっちに突っ込んでいった。
特にモグラ系は聴覚頼りだから、完全に引っかかってた。
あれがなかったら、囲まれて終わってたかもしれん」
ヤスは満足げに頷いた。
「ふむふむ、音響デコイは初投入でしたが、効果ありと。
改良の余地もありそうですな。音の種類を選べるようにすれば、さらに撹乱力が上がるかもしれませんぞ」
「それ、いいな。モグラには地鳴り系、生物には炸裂音とか。
敵の種類に合わせて使い分けできたら、戦術の幅が広がる」
「では、次なる発明の参考にさせていただきますぞ」
神谷はポケットから魔石を取り出し、テーブルの上にいくつか置いた。
ヤスはそれを手に取り、目を輝かせる。
「おお、これは……9等級!良い純度ですな。これでまた1歩、お楽しみに近づきましたぞ」
ヤスはノートPCを操作しながら、ニヤリと笑う。
「あと25個もあれば完成します。ふふふ、ナオヤ氏が驚く顔が楽しみですぞ」
「そんなにすごいのか?」
「ええ、すごいですとも。
ですが、詳細はまだ秘密ですぞ。さて、それはそうと、今回の新作をお見せしましょう」
ヤスはバッグから小さな盾型のアイテムを取り出した。
飴玉サイズで、見た目は可愛いが、ヤスの顔は真剣そのもの。
「まずはこちら、防御壁。
盾型アイテムで、魔石をチャージすると約1メートルのエアバッグが瞬時に展開します。
衝撃を吸収する素材に変化し、咄嗟なことにも対応可能ですぞ」
直哉はそれを指でつつきながら、苦笑した。
「咄嗟の時に使えないとだな」
『私がフォローします』
イチカの念話が、神谷の思考に静かに届いた。
ヤスは今度は小さなサイコロ状のものを机に置いた。
縞模様で、表面が少し凸凹している。
「そしてこちらが、無限拘束。
サイコロ型の投擲兵器で、投げると網に変わります。
拘束・驚き・演出を兼ね備えたエンタメ系兵器ですぞ」
「……ビックリ箱……?」
「トラップメント、です。ぜひ、いいセリフで発動してほしいですぞ」
「ホルダーを貸してください。ついでに2つに対応したバージョンにアップデートするでござる」
|多機能携行型アイテム収納具を渡すと、ヤスはノートPCと|多機能携行型アイテム収納具をケーブルで繋ぐ。
画面には魔石の波形データや発動条件の設定項目が並び、ヤスはそれを見ながら気軽にプログラムを書き変えていく。
「ふむふむ……これで同時発動も可能になりますぞ。
しかも、セリフによって演出が変わるようにしておきました。
叫び方次第で、網の展開速度や音響効果が変わるように……むふふふ、これは楽しいですな」
「お前、絶対遊んでるだろ」
「遊びと実用の境界は、発明において曖昧なのですぞ」
* * *
直哉はサイコロ型の網兵器を手に取りながら、第2階層でのモンスターハウスの戦闘を思い出し、得意げに語り始めた。
「そういえば、モンスターハウスでさ。
煙幕で撹乱して、魔石で床に傾斜つけたり、凸凹にしたりしてさ。
アルマジロは明後日の方向にすっ飛んでいくし、モグラは穴に引っ掛かるし、ゴーレムは足場を失って転倒。
その隙にバールで膝を砕いた。あれはもう、俺の脳内シミュレーションが完璧すぎて、敵が俺の脚本通りに動いてたって感じだったぜ」
ヤスは目を丸くする。
「それは……即興で魔石を使ったとは思えないほどの精度ですね。
どうしてそんなに効果的に使えたんですか?」
「火事場の馬鹿力的な?いつもより周りが見えて体が動くというかさ。
あの時の俺、ちょっと“主人公補正”かかってたかもしれん」
「それは……妄想の域ですな」
「いやいや、妄想こそ現実を超える力だって、ヤスが言ってたじゃん」
「それは確かに言いましたが、ここまで堂々と妄想を語るとは……さすがナオヤ氏ですぞ」
直哉はポテトを口に放り込みながら、肩をすくめた。
「まじだって。最後のほうなんかスローモーションで見えたんだぜ!」
「うーん、本当だとすると興味深い現象ですね。
魔石は時間軸にも影響を与える可能性があるかもしれないと。
なかなか面白い仮説です。
では、その現象も次なる発明の参考しましょうぞ。
ちなみにナオヤ氏、どんなものがあると便利ですか?」
「そうだな……魔石で瞬間移動とかできたら便利だよな。
あと、敵の位置がわかるレーダー的なやつとか」
「ふむふむ、空間転移と索敵機能ですか。
空間転移はあれですが、索敵機能はいけそうですな。
魔石の力を利用して音響レーダー的なものを……うむ、理論上は可能ですぞ」
「あと、魔石でぱぱっと傷が治ると、戦闘中に助かる」
「たしかに魔石での治療はもう実用化されていますな。
でもかなりの専門知識がないとできないみたいですが……それをフォローするように設計すればいけるかもしれませんな」
「それだ!戦闘中に使える“お手軽回復”って、絶対需要あるって。
ポケットから取り出して、ポンって使えるやつ。
名前は……“ヒール・スナック”とか?」
「ネーミングセンスが軽すぎますぞ……だが、方向性は悪くないですな。
魔石をお菓子みたいに変化させて食べられるようにすれば、即効性と携帯性を両立できますぞ」
「分身なんてどうだ?」
「分身ですか。
確かに実物は無理でしょうが、映像を投影する感じにすれば…なるほどなるほど。
ホログラム式の幻影を作って、敵を撹乱する……これは“幻影兵器”として開発可能ですな」
「厨二病っぽいな」
「厨二病こそ、発明の源ですぞ」
2人はファミレスの片隅で、魔石を使った妄想を延々と語り合った。
周囲の客がちらちらと視線を送るが、2人は気にする様子もない。
『瞬間移動、索敵、回復に分身。興味深いです。
身体機能の再構築と適応に応用可能な要素として記録します』
イチカは直哉の願いとヤスの発想を融合させるため、こっそりと学習を進めていた。
* * *
話しこみすぎて外はもう夕暮れだ。
直哉は大きく伸びをしながら呟いた。
「次は……もっと深く、だな」




