【閑話】第7話 ダンジョンの発生
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閑話だしストックに余裕あるし、ということで、時間外にアップロード。
本編は予定通り18時更新です。
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* * *
帝国中央魔導塔の地下深部。
冷たい石壁に囲まれた研究区画では、数十名の魔導技師が慌ただしく動いていた。
机の上には黒い結晶片が並び、魔力炉から伸びる管が脈動を繰り返す。
彼らが作り出そうとしているのは――「疑似核」。
本来の封印核を模倣し、異世界への門を再び開くための代替品だった。
だが、その開発には膨大な魔石が必要だった。
帝国は属国から強制的に4等級魔石を徴収し、資源を奪い取った。
その結果、属国の反感は高まり、帝国への憎悪は日に日に増していた。
「……これで、4つの疑似核が揃った」
主任技師が低く呟く。
机の上には黒い立方体が並び、淡い光を放っていた。
だがその光は不安定で、まるで“本物ではない”と訴えるかのように揺らいでいた。
* * *
ガルゼン・ローヴァが姿を現す。
深い皺を刻んだ顔に、冷たい笑みを浮かべていた。
「諸君、よくやった。これで門は再び開かれる」
技師たちは緊張した面持ちでうなずき、16の封印核と4つの疑似核を転移門の台座へと配置していく。
古代文字が刻まれた門は低く唸りを上げ、淡い光を帯び始めた。
「反応あり! 門が……何かを示しています!」
「座標を解析しろ!」
魔導計測器が震え、立体投影が浮かび上がる。
そこに映し出されたのは――かつて門が最後に接続していた世界。
「……ここか」
ガルゼンの瞳が細められる。
それは、魔素の流れがほとんど存在しない世界――地球だった。
「接続を試みます!」
技師たちは魔素を込め、門を起動しようとした。
だが、光はすぐに消え、門は沈黙を保ち続けた。
「駄目です! 反応はあるのですが、接続が維持できません!」
「魔素の流れが……途切れている?」
技師たちは必死に調査を繰り返した。
魔力流路を確認し、刻印を修正し、補助結晶を追加する。
だが結果は同じ――門は開かれない。
「……原因が判明しました」
主任技師が震える声で告げる。
「異世界に魔素が存在していないのです。
魔素がなければ、門を維持できません」
ガルゼンは深く息を吐き、冷たい笑みを浮かべた。
「ならば――異世界に魔素を充填させればよい」
技師たちは一瞬、言葉を失った。
「充填……ですか?」
「そうだ。魔素がないなら、我らが送り込めばいい」
主任技師は逡巡しながらも答える。
「……それであれば、今の異世界への門を使うことで可能でしょう。
ただし――異世界に魔素を充填させるには、アル・テラス大陸の魔素を大量に消費することになります。
どのような影響が出るかは……予測できません」
ガルゼンはその言葉に眉をひそめることもなく、冷笑を浮かべた。
「多少の無理は構わん。
何かあれば冒険者や属国に魔石を納めさせればよい。
帝国の威光の前に、彼らが逆らえるはずもない」
主任技師はなおも不安げに口を開いた。
「しかし、魔素の消費は膨大です。
大陸の結界や地脈に影響が及ぶ可能性も――」
「黙れ」
ガルゼンの声が低く響き、研究所の空気を凍らせた。
「消費した魔素も、異世界を手に入れることを考えれば大した損害ではない。
我ら帝国が新たな世界を支配するのだ。些末な犠牲など問題ではない」
技師たちは沈黙した。
その場に漂うのは、帝国の野望と、誰も口にできぬ恐怖だけだった。
* * *
魔導技師たちは方針を切り替えた。
門を開くのではなく、魔素を送り込む。
魔力炉を最大稼働させ、疑似核を媒介として魔素を流し込む。
「流量を上げろ! 結界を安定させろ!」
「魔素が……流れ始めています!」
門の奥へ、淡い光の粒子が吸い込まれていく。
それは異世界へと流れ込み、存在しないはずの魔素を満たしていった。
何度も試行錯誤を繰り返し、魔素の流入はついに成功する。
その瞬間――地球の大地に異変が生じた。
地下深くに魔素が滞留し、地脈を歪ませる。
都市の片隅に、森の奥に、海底に――“ダンジョン”が発生し始めた。
最初は小さな亀裂だった。
だがそこから黒い霧が立ち昇り、やがて洞窟のような空間へと広がっていく。
内部には異形の魔物が生まれ、地球の生態系に存在しないはずの魔力生命体が蠢き始めた。
東京の地下鉄の奥に、突如として現れた深い穴。
ニューヨーク郊外の森に広がる異様な空間。
サハラ砂漠の砂嵐の中に口を開いた巨大な裂け目。
そこから現れるのは、未知の魔物たち。
牙を持ち、炎を吐き、影のように忍び寄る存在。
人類はまだその意味を理解していなかった。
* * *
帝国の研究所では歓声が上がっていた。
「成功だ! 魔素が流れ込んでいる!」
「これで門は維持できる!」
ガルゼンは満足げに笑みを浮かべる。
「よくやった。これで我らの悲願は成就する」
魔素供給装置の稼働が安定し始めたころ、主任技師がガルゼンのもとへ歩み寄った。
その表情には喜びよりも、重い懸念が色濃く刻まれていた。
「……ガルゼン様。ひとつ、お伝えすべきことがございます」
「なんだ?」
主任技師は深く息を吸い、淡い投影図を呼び出した。
その図には異世界――地球の地脈構造と、そこへ流入し始めた魔素の動きが映し出されている。
「魔素は確かに流れ込んでいます。しかし、定着には時間がかかります。
龍脈に魔素が染み込み、現地で自発的に魔素を生み出すようになるまで……少なくとも“年単位”で見ていただく必要があります」
ガルゼンは軽く顎に手を当て、興味なさげに呟く。
「年単位、か。
まぁそうだろうな。続けろ」
「はい。魔素が現地で循環するようになれば、転移門は安定し、恒常的に使用可能となるでしょう。
ただし……最初の接続先は、魔素濃度の高い場所、つまり――ダンジョンと繋がる可能性が高いと考えられます」
主任技師は言葉を慎重に選びながら続けた。
「ダンジョンは危険度が高く、魔物も湧きます。
門を開いた際には、初動で相当数の戦力を送り込む必要があると思われます」
ガルゼンは乾いた笑い声を漏らした。
「ふん、どうせ支配するのだ。
戦力を送ることに違いはない。問題はない」
主任技師はわずかに躊躇し、もう一つの懸念を口にする。
「ですが……魔素が流入したことで、現地の環境や生命体が“変質”する可能性が高いのです。
我々の魔素は強すぎます。現地の生態系に多大な影響が――」
ガルゼンが手を振り払うように遮った。
その瞳には一片の躊躇もない。
「気にすることはない。
我々に必要なのは資源と魔素だ。
原住民がどうなろうと捨て置け。」
主任技師は口を閉ざし、静かに頭を垂れるしかなかった。
* * *
エルド・フェルミナの高度な技術と、17体のサポート・ユニット。
この2つがそろっている限り、接続先の世界に魔素が存在しなくとも、転移門は安定して維持されていた。
しかし、エルド・フェルミナの技術は失われ、サポート・ユニットもまた封印核へと姿を変えることになる。
加えて、その封印核の1つが偶然にも失われたことで、転移門は魔素なしでは維持不可能な存在へと成り果てた。
結果として、帝国は転移門を保つため、異世界へ魔素を送り込む選択を迫られる。
その魔素が地球へと流入したことで、各地にダンジョンが発生した。
──それが、この物語から15年前に起きた出来事である。




