【閑話】第6話 16の封印核
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閑話だしストックに余裕あるし、ということで、時間外にアップロード。
本編は予定通り18時更新です。
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* * *
冷たい石造りの廊下を進む足音が、静かに反響していた。
レイ・カルナスの手のひらには、最後の3つの封印核が収められている。
淡い光を放ちながら脈打つそれらは、まるで生き物の心臓のように震えていた。
扉の奥に待つのは――ガルゼン・ローヴァ。
帝国魔導院長にして、帝国の異世界進出を推進している男だ。
すでに13個の封印核を手中に収めている彼の前に、3つが差し出されようとしていた。
「……これで、16個です」
レイがカルゼンに報告する。
ガルゼンはゆっくりと立ち上がり、深い笑みを浮かべる。
「よくやった。
それで、残りの1つはどうなった?」
「ティアの夢の羅針盤に反応がなく。
またギルドの情報網を使っていますが、足取りがつかめませんでした」
「なるほどな。
話は聞いておる。帝国の諜報部隊から同じ報告だ。
夢の羅針盤でもつかめないのであれば、諦めるほかあるまい。
諸君らへの依頼はこれで完遂したものとする」
ガルゼンは懐から小袋を取り出し、3人に報酬を渡す。
金貨の重み――それは確かに価値あるものだった。
だがティア・レヴァンテは、報酬を受け取っても気持ちが沈んだままだ。
封印核から漂っていた“負の意志”が、まだ胸の奥に残っていたからだ。
* * *
部屋を後にした3人は、夜の街へと歩みを進めた。
石畳を踏みしめる音が、街灯の明かりに溶けていく。
ティアが口を開いた。
「……ねえ、レイ。本当に渡してよかったの?」
レイは少しだけ目を伏せ、息を吐いた。
「気になるのは分かる。でも僕たちにできることは限られている。
依頼を果たした、それ以上でも以下でもない」
カイルは肩をすくめ、努めて軽い調子で言う。
「考えすぎだろ。報酬も受け取ったし、これで終わりだ。
俺たちは俺たちの道を進めばいい」
だがティアの胸のざわめきは消えなかった。
* * *
転移門の周囲では、十数名の魔導技師が慌ただしく動いていた。
魔力計測器の針が震え、結晶管に流れる魔素が不規則に点滅する。
誰もが額に汗を浮かべ、必死に原因を探っていた。
「魔素の流路を再確認しろ! 封印核への供給が途切れていないか!」
「はっ!」
若い技師が走り、封印核を収めた台座へと駆け寄る。
黒い立方体の核は確かに脈動していた。
だが、その脈動はどこか不規則で、まるで“拒絶”するような波を放っていた。
「供給は正常です! ですが……魔素が門の中心に届く前に散逸しています!」
「散逸? 結界層が吸収しているのか?」
「いえ……結界は安定しています。むしろ、門そのものが魔素を弾いているような……!」
別の技師が儀式陣の刻印を確認していた。
床に描かれた魔刻文は淡く光り、封印核へ大量の魔素を流している。
しかし、光は中央へ収束せず、外周で渦を巻いて消えていく。
「刻印の流れが逆転しています! 魔素が中心に集まらず、外へ逃げています!」
「逆転だと!? そんな馬鹿な……!」
技師たちは慌てて補助結晶を追加し、流路を強制的に矯正しようとした。
だが結晶は次々と砕け、粉々になって床に散らばる。
「駄目です! 魔素が結晶を拒絶しています!」
* * *
別の班は転移門そのものに接続した。
巨大な門の表面には古代文字が刻まれ、淡い光を帯びている。
技師が触れると、門は低く唸りを上げた。
「反応はある……! だが、起動の閾値に届かない!」
「魔素をもっと込めろ!」
「限界です! これ以上は暴走します!」
魔素供給炉が唸りを上げ、赤熱した管から蒸気が噴き出す。
技師たちは必死に制御盤を叩き、冷却魔法を重ねる。
だが門は沈黙を保ち、ただ不気味に光を揺らめくだけだった。
「やはり封印核が足りていないからでないでしょうか?」
「バカモノッ!それを解決するのが我らの役目だ。
ないからできませんでした、で通るはずがなかろう!!
何としてでも疑似核で動かすのだ!」
* * *
そんな喧騒の中、ガルゼン・ローヴァもエルド・フェルミナの研究所に到着した。
彼の残した巨大な転移門が、中央に立っている。
周囲には魔導技師たちが転移門に機器をつなぎ、封印を解こうと四苦八苦している。
「進捗はどうだ?」
「はっ、16の封印核を所定の位置に配置済みです。
魔素を込め、起動を試みておりますが、まだ反応がありません」
報告する技師の額には汗が滲み、声はわずかに震えていた。
「……残りの1つか?」
ガルゼンの声が低く漏れる。
彼の瞳は暗く、焦燥と苛立ちが混じり合っていた。
「申し訳ありません!
転移門は確かに魔素に反応しているのですが、何かが邪魔をするように起動しないのです」
技師は必死に弁明する。
「それはわかっておる。
疑似核の効果はどうだ?」
「一定の効果はありますが、出力が足りず……」
「増やせ」
「はっ?」
「疑似核を増やせ」
「し、しかし、疑似核の作成には4等級以上の魔石が必要です」
4等級、それは第7層以降でないと産出しない魔石だ。
強大な戦力を持つ帝国と言えど、第7層以降に行けるものは限られている。
ガルゼンは重々しく息を吐き、広間の奥に鎮座する転移門を見やった。
「属国に吐き出させればよかろう」
「……わかりました」
「急げよ。
最近、陛下のお加減が芳しくない。
ご存命の間に達成せねば、我らとてどうなるかわからんぞ」
「はっ、直ちに」
16の封印核を手に入れた帝国。
その手は確実に異世界に届こうとしていた。




