第63話 特許
是非、ブックマークか評価を。
私にガソリンをください!!
会津旅行、最終日。
スキー旅行といいながら、3人とも初日しか滑っていなかったことに今更ながら気づく。
まだ開発を続けたいヤスを引っ張り出して、最後の滑走を楽しんでいた。
「よっしゃ、ラスト1本だ!」
武虎が笑いながらストックを突き、斜面へ飛び込む。
直哉も続き、風を切る感覚を胸いっぱいに吸い込んだ。
ヤスも「むふふふ、こんなこともあろうかと、倒れん棒2号を作っておきました」と笑う姿に、2人は思わず吹き出した。
昼過ぎまで滑り続け、ホテルで荷物をまとめると、3人は新幹線に乗り込んだ。
窓の外には雪景色が流れ、旅の終わりを告げるように夕陽が山々を染めていた。
* * *
座席に腰を落ち着かせると、窓の外には雪景色が流れていた。
ヤスは眼鏡を指で押し上げ、真剣な顔で口を開いた。
「ナオヤ氏、タケトラ氏。少し真面目な話をしてもよろしいですかな?」
直哉と武虎は顔を見合わせ頷く。
「ん、どうしたんだ?」
ヤスは姿勢を正し、声を低めて続けた。
「アイテムバッグについてです。
研究所で見つけた書物のおかげで、開発のめどが立ちました。
なので、核となる空間拡張の技術を特許出願しようと思うのです。」
「特許?」
直哉が思わず呟く。
「はい、そうです。
アイテムボックスの開発に成功すれば、物流業界はもとより、様々な業界、団体から注文が殺到することでしょう。
ですが、個人で生産するのは不可能です。
そこで核となる技術をライセンス契約にして、どんな企業でもアイテムボックスを作れるようにしようと思うのです。」
武虎が腕を組み、窓の外をちらりと見ながら言う。
「なるほどな。
で、俺たちに話があるってことは……?」
ヤスは眼鏡を押し上げ、さらに真剣な声で続けた。
「この技術は、お二人が持ってきた研究資料がなければ作ることができませんでした。
なので報酬割合を決めておきたいのです」
直哉は武虎と目を合わせる。
「ふーん、そんなもんなのか。よくわからないから任せるよ」
「そうだな、あれはたまたまだったし。俺も任せるぜ」
「では、私が50%、ナオヤ氏とタケトラ氏がそれぞれ25%。これでどうでしょう?」
「うん、わからんけど、それでいいんじゃね?」
と軽く答える武虎。
その時、イチカの念話が直哉に響いた。
(『それは取り過ぎです。
通常、このような場合は発明者が大半を持ち、情報提供者は5%程度が相場です』)
直哉は念話を受けて、ヤスへ問いかけた。
「なぁヤス、こういう場合の相場ってどのくらいなんだ?」
ヤスは少し考え、真面目に答える。
「一般的には3%から5%ですな。」
「じゃあ5%でいいんじゃね?」
直哉が肩をすくめる。
武虎もうなずいた。
「だな。相場がそれなら、俺もそれで十分だと思うぜ。」
ヤスはしばし沈黙し、やがて笑みを浮かべた。
「では間を取って10%にしましょう。
お2人が持ってきた研究書がなければ、一生かかっても完成できなかったかもしれません。
ブレイクスルーの価値は大きいのです」
直哉と武虎は顔を見合わせ、同時に笑った。
「んじゃ、それでいいよ。」
「ありがとな、ヤス。」
その瞬間、車内販売のワゴンが通りかかり、武虎が「お、アイスあるじゃん!」と手を伸ばす。
直哉は「お前、真面目な話の直後にアイスかよ」と呆れ、ヤスは「むふふ、糖分補給は研究の基本ですぞ」と真顔で返す。
新幹線の揺れに合わせて笑い声が広がり、重い話だったはずの特許の議論も、どこか温かい空気に包まれていった。
* * *
地元の駅に到着すると、武虎とヤスに別れを告げ、直哉は自宅へ帰った。
玄関を開けると、温かな匂いが漂い、家族が食卓を囲んでいた。
「おかえり、直哉」
母さんが笑顔で迎える。
「ただいまー」
直哉はお土産袋を掲げる。
玄関にはばあちゃんが顔を出し、「なおちゃん、疲れたろう?」と声をかけてくれる。
じいちゃんは新聞をたたみながら「無事に帰ってきたなら何よりだ」と頷いた。
夕食の席。
炊きたてのごはんと味噌汁の湯気が立ち上がり、焼き魚や卵焼きが並ぶ食卓に家族全員がそろった。
直哉は会津旅行の話を語る。
ダンジョンでの戦い、そして研究所の発見。
家族は興味深そうに耳を傾けていた。
「お前、スキー旅行に行くって言ってなかったか?」
大学生の兄・悠人が箸を止めて笑う。
「あぁ、そうなんだけどさ。流れでダンジョンがメインになっちゃった」
「もう立派なダンジョン馬鹿だな」
社会人の兄・健太が呆れ顔で言う。
「そういえば、もうかなりレベル高いんだろ?探索者として食っていけるんじゃないか?」
直哉は少し照れ笑いを浮かべる。
「うん、たぶんね。半年前からじゃ考えられないぐらい強くなれたし」
父さんが新聞をたたみ、真剣な声で言った。
「直哉、もうすぐ高校3年だな。進路は決まったのか?」
「うーん、まだ特に決めてない」
父さんは頷き、続ける。
「まぁまだ1年あるんだ、ゆっくり考えなさい。
探索者になるでもいい。
ただ、大学に行くなら早めに勉強を始めなさい」
じいちゃんが静かに茶碗を置き、「若いうちから稼ぐのは立派だが、周りに迷惑かけないようにな」と言う。
ばあちゃんは「なおちゃん、おかわりいる?」と炊飯器を開け、直哉は笑顔で茶碗を差し出した。
直哉は心の中で少しだけ重みを感じながらも、笑顔で返した。
「わかってる」
家族の笑い声と湯気の立つ食卓の温かさが、直哉の胸にじんわりと広がっていた。
* * *
就寝時。
直哉は小さく息を吐き、イチカに声を掛ける。
「なぁ、これからなんだけどさ、やっぱ陣系の発動を練習したほうがいいのかな?」
『そうですね。身体強化:剛はすでにスムーズに発動できています。
次は陣系を磨くのがよいでしょう』
「だよな。
そういえば、変幻武器に【砕陣】は、イチカにやってもらってるじゃん?
あれって俺だけでできたほうがいいんだよね?」
『できるに越したことはありませんが、直哉は必殺技の強化を優先しませんか?』
「必殺技の強化?」
『瞬閃四連撃です。
瞬閃四連撃は本来、時を止めることを目標にしています。
ですが現状は体感速度を向上させるに留まっています』
直哉は天井を見つめながら眉を寄せる。
「言われれば確かに……」
『今までの戦いでも、瞬閃四連撃が無効化される瞬間がありました。
時を止めることができれば、文字通り必殺技に昇華させることができます』
直哉は目を見開き、胸が高鳴るのを感じた。
布団の中で拳を握りしめ、未来の自分を思い描く。
「あー、そっか、それ忘れてたな。
でもさ、時を止めるってどうやるんだ?」
『難易度は高いですが、指川様、そしてズクズクの技を解析してヒントを得ています。
おそらく高い確率で可能になるはずです』
「まじか!?」
『はい。
内在魔素量が重要なことに変わりはありませんので、最適化のためにも、まずは十分な休息を取ってください』
直哉は深く息を吸い、布団の温もりに身を沈めた。
夜の静けさの中、直哉は未来への期待を胸に眠りについた。
会津旅行は終わった。
だが、新たな挑戦はすでに始まっている。




