第62話 周回
是非、ブックマークか評価を。
私にガソリンをください!!
会津ダンジョン第3層。
硫黄の臭いが漂い、赤黒い岩肌が熱を帯びていた。
地鳴りとともに倒れ込むのは、直前まで猛威を振るっていた超巨大ゴーレム。
武虎の断裂掌が胸部を貫き、巨体は力を失って崩れ落ちた。
「……ふぅ、止めは刺したな」
武虎は肩で息をしながらも勝利を確信する。
直哉はその隣で魔石を拾い上げる。
「時間的に次が最後ぐらいか?」
「だな」
武虎は岩に腰を下ろし、熱気を帯びた風を受けながら答える。
* * *
会津に来てから6日目。
当初はスキーをしながらダンジョンに潜る予定だったが、超巨大ゴーレムの旨みに、毎日のようにダンジョンに来ていた。
「昨日が4体で、今日はここまでで5体か」
「だいぶ効率化できたよな」
「1体で魔素が10近くあがるのは旨いよな。なぁ神谷は魔素どのくらい上がった?」
「俺は、ここに来る前が360ぐらいだったんだけど、今は503だ」
「おぉ、もう500超えたのか」
「トラは?」
「俺は来る前が650ぐらいで、今が792だな。いやぁだいぶ上がったぜ」
「くぅ、相変わらず魔素量多いなぁ」
「そりゃ、10年修行してるからな。
でも神谷もすげーぜ。まだ魔素覚えて1年経ってないんだろ?
多分、お前と会った頃の俺より魔素量多いぜ」
直哉は少し照れ笑いを浮かべる。
(『誇っていいです。平均的な成長速度を大幅に上回っています』)
(……イチカ、そういうのを人前で言わなくていいから)
(『安心してください。藤堂様には聞こえていません』)
直哉は内心で苦笑しながらバットを握り直した。
* * *
地響きが再び山間を揺らす。
火口の縁から黒い影が立ち上がる。
赤熱した岩を押し分け、溶岩の熱を纏いながら形成されるのは――再び超巨大ゴーレム。
先ほどの個体よりもさらに禍々しく、岩肌には赤い亀裂が走り、内部から灼熱の光が漏れていた。
「来たな……時間的にも最後の一戦か」
武虎が拳を握る。
「だな、行こう!」
直哉は足を踏み出す。
* * *
ゴーレムの腕が振り下ろされる。
ドガァァァンッ!
地面が抉られ、火山灰が舞い上がる。
直哉は軽やかにかわし、武虎は断裂掌で反撃。
岩肌が砕け、破片が飛び散る。
だがゴーレムは構わず、咆哮を上げる。
その声は火山の噴気と混じり、山間全体を震わせた。
「神谷、右から来るぞ!」
「わかってる!」
直哉は魔素を集中させ、バットを構える。
ゴーレムの巨腕が振り抜かれるが、直哉は地面を滑るように回避し、武虎は蜻蛉飛びで上空へ躍り出る。
「断裂掌ッ!」
武虎の掌打が肩口を砕き、岩片が飛び散る。
だがゴーレムはなおも足を振り上げ、地面を蹴り砕いた。
ドガァァァンッ!
衝撃で足場が崩れ、直哉は跳躍してかわす。
* * *
(イチカ、合わせろ! 剛も重ねる!)
(『了解。モーニングスター展開、砕陣を同期させます』)
「うぉぉぉぉぉ!」
直哉の全身に青い魔素が爆ぜ、身体強化:剛が発動する。
筋肉は鋼のように硬質化し、骨はしなやかさを保ちながらも強靭さを増す。
それに合わせて――。
『時穿つ瞳発動』
イチカの声が脳内に響き、直哉の左目に幾何学模様が浮かぶ。
世界は粘性を帯び、水中のように鈍く流れ始めた。
火山灰の舞い上がりも、ゴーレムの巨腕の振り下ろしも、すべてが遅延する。
「アクセル・バーストッ!!」
直哉の身体が光の矢となり、時間を裂いて突き進む。
青いオーラが爆ぜ、剛の力でバットは岩を砕く鋼鉄の塊と化す。
同時に――。
(『変幻武器、モーニングスターモード展開!』)
武器がモーニングスターを象ったエネルギーフィールドが展開される。
『身体強化【砕陣】』
赤いオーラがモーニングスターに渦巻き、直哉の青い閃光と共鳴する。
「うおおおおおっ!!」
瞬閃四連撃による、神速の四連撃がゴーレムの胸部へ叩き込まれる。
ズガガガガァァァァァンッ!!
轟音が空気を震わせ、衝撃波が山間を揺らす。
青と赤のオーラが交錯し、胸部に巨大なクレーターが穿たれた。
内部のコアが露出し、次の瞬間――砕け散る。
青白い光が爆ぜ、赤熱した岩が崩壊を始める。
時間が通常の速度へと戻った。
「……決まった!」
直哉が息を整えながらつぶやく。
「ふぅ、お疲れ。こいつで最後だな」
武虎が笑う。
(『見事でした。瞬閃四連撃と砕陣の同調は完璧です』)
(……ありがとな、イチカ。変幻武器と【砕陣】の相性はやばいな)
火山の山間に静寂が戻る。
赤熱した岩は崩れ落ち、硫黄の匂いが漂う中、夕陽が差し込んで2人の影を長く伸ばしていた。
熱風に吹かれながらも、直哉と武虎の胸には確かな達成感が刻まれていた。
「魔素も十分上がったし、これで修行は一区切りだな」
武虎が肩を回す。
「そうだな……でも、まだまだ強くなれる気がする」
直哉はバットを握り直し、笑みを浮かべる。
(『魔素量は十分です。次は技術の精度を磨きましょう』)
(あぁ、わかってる。……楽しみだな)
火山の噴気が静まり、灰色の空に赤い残光が広がる。
2人は互いに視線を交わし、次なる挑戦を胸に刻みながら山を後にした。




