第61話 夢への一歩
是非、ブックマークか評価を。
私にガソリンをください!!
翌朝。
ホテルのレストランには、窓から差し込む柔らかな朝日が広がっていた。
雪山の冷気を遮る暖房のぬくもりと、焼き立てのパンや味噌汁の香りが漂う。
(『研究資料のデータ化は完了しています。スマートフォンにメールを送っているので、安田様にお渡しください』)
(おぉ、早いな、もう終わったのか!)
(『はい、私はできるサポートですので』)
(はいはい、サンキュ)
直哉はスマホを取り出し、ヤスへ向けて言った。
「昨日の研究所で見つけた書物、文字化したデータをメールで送っておいたよ」
ヤスは驚いたように目を瞬かせ、すぐにスマホを操作する。
受信したメールを開くと、古代文字を解読したテキストが並んでいた。
武虎もチラッと覗き込むが、すぐに肩をすくめて朝食へ戻る。
「ふーん……俺にはよくわからん。まぁ、ヤスが喜ぶならいいんじゃねぇか」
焼き魚をほぐしながら、あまり興味なさそうに言った。
一方のヤスは、数行読んだだけで目を見開いた。
「……これは……!」
箸を持ったまま固まり、食事を忘れて画面に釘付けになる。
瞳が高速で左右に動き、まるで文字を吸い込むように読み進めていた。
そこでヤスがふと顔を上げ、直哉へ問いかける。
「ナオヤ氏……仕事が早いですな。
もうちょっと時間がかかるかと思ったのですが……?」
直哉は肩をすくめ、曖昧な笑みを浮かべる。
「魔石でグワーッと願ってみたら、なんかできたんだよ。俺もよくわからないんだけど」
「ほほぅ、魔石は何でも使えると言いますが、そういうことにも使えたんですな」
「いや、そんなことより、どうなんだよ内容は?」
直哉はごまかすようにヤスを促す。
「むふふふ、これはすごいですぞ、革命が起きるかもしれません」
ヤスは興奮を隠せない様子で、再び画面へ没頭した。
「おい、ヤス。ご飯食べないのか?」
直哉が声をかける。
「そうですな」
空返事が返ってきて、箸は動かない。
「いや、食べてないだろ」
「そうですな」
「食べろって……」
何度かやり取りをしてようやく箸を動かすが、数秒で一気に食べ終えると、椅子を勢いよく引いた。
「ちょっと部屋に戻るでござる!」
言うが早いか、一目散に部屋へ駆けていった。
直哉と武虎は顔を見合わせ、苦笑する。
「……完全にスイッチが入ったな」
「だな。あれはもう止まらん」
* * *
朝食を終え、2人が部屋へ戻ると――。
そこにはノートPCに向かうヤスの姿があった。
画面にはびっしりとコードが並び、指は信じられない速度でキーボードを叩いている。
キーを打つ音はまるで機関銃の連射のようで、画面の文字列が滝のように流れていく。
「ほうほう、それこれがこうなって……!」
「いやいや、こうか……!」
「むふふふ、これで……!」
その声は次第に高まり、奇声混じりになっていく。
「ぬぉぉぉぉ! 来た来た来たぁぁ!」
背筋は微動だにせず、目は画面に釘付け。
瞳は左右に走り、コードの一行一行を舐めるように追っている。
時折、眉間に皺を寄せ、次の瞬間には口元が緩み「よし!」と叫ぶ。
「ふぉぉぉぉ! 動く、動くでござる!!」
興奮のあまり、椅子をガタガタと揺らしながら打ち続ける。
キーを叩く音とヤスの奇声が混じり合い、部屋全体が異様な熱気に包まれていた。
直哉が声をかけても、武虎が肩を叩いても、空返事しか返ってこない。
「……今日はずっとこの調子だろうな」
武虎が呆れたように言う。
「だね。んじゃ俺らは予定通り超巨大ゴーレム行くか」
直哉もうなずいた。
ヤスはその間も、
「あひゃひゃひゃ! 世界が変わるぞぉぉ!」
と叫びながら、コードの海に没頭していた。
* * *
相談していると、直哉の脳裏にイチカの声が響く。
(『超巨大ゴーレムについて新しい情報を共有します。
探索者フォーラムや複数の記録を照合した結果、あの個体は約1時間ごとにリホップするようです』)
直哉はうなずき、武虎へ向き直る。
「なぁ、超巨大ゴーレムって1日1回じゃなくて、1時間に1回リホップするみたいだぜ。
どうせなら周回してみない?」
武虎は少し考え、ニヤリと笑った。
「確かに、前回の感じだとそこらのゴーレムと戦うより、ずっと修行になりそうだ。
戦い方を確立できれば周回できるかもな」
「だよな。魔素稼ぎにはもってこいだ」
「よし、決まりだ。準備して探索に行くぞ」
二人は装備を整え、荷物をまとめる。
バットと鉈を背負い、魔石を確認し、魔素の流れを整える。
準備が整うと、部屋のドアを開けた。
「ヤス、行ってくる」直哉が声をかける。
「気を付けるでござるよー」
ノートPCに向かう彼の指は止まらず、画面には新しいコードが次々と書き込まれていく。
その背中を見て、直哉と武虎は苦笑しながら部屋を後にした。
火山の噴気が待つダンジョンへ――新たな周回計画が始まろうとしていた。




