第57話 岩の軍勢
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私にガソリンをください!!
第2層の山道を登り続けるにつれ、空気が急に乾き、岩肌の色が鈍い灰色へと変わっていった。
直哉はその変化を肌で感じ取りながら、バットを握り直す。
武虎も鉈を肩に担ぎ、気を引き締めた表情で前を見据えていた。
山道は細く、左右は切り立った崖。
足元の岩は乾いてひび割れ、踏みしめるたびにザリッと音を立てる。
風が強く、砂が舞い、視界が揺らぐ。
(『第3層に入りました。足場が不安定ですので気をつけてください』)
イチカの念話が静かに響く。
直哉は小さくうなずき、武虎に聞こえないように息を整えた。
「ここからが本番って感じだな」
「まあ、どんなのが出てくるか楽しみだな」
武虎が笑った、その瞬間だった。
ゴゴゴゴゴ……ッ!
山道の上方から巨大な影が転がり落ちてくる。
「おいおい、いきなりかよ!」
岩の塊が高速で転がってきた。
直哉と武虎は左右に飛び退き、岩は2人の間を轟音とともに通過する。
転がり終えた岩が、ギギギ……と音を立てながら二足歩行の形に変形する。
丸い外殻が割れ、内部から人型の岩の巨体が姿を現す。
* * *
「変形かよ……!」
武虎が鉈を構えた瞬間、ゴーレムが地面を踏み砕きながら突進してきた。
直哉はバットを構え、拳を受け止める。
ガギィィンッ!
バットが岩の拳を弾き、火花が散った。
衝撃でゴーレムの腕にひびが走る。
(『右腕の関節部に亀裂あり』)
「おらぁ!」
直哉は踏み込み、ひびの入った関節へバットを叩き込んだ。
バキィッ!
腕が砕け、ゴーレムが体勢を崩す。
そこへ武虎が飛び込み、鉈を振り下ろした。
「どりゃああッ!」
鉈が岩の胴体に深く食い込み、ゴーレムは悲鳴のような音を立てて崩れ落ちた。
武虎は肩で息をしながら言う。
「弱くはないが、そこまででもないな」
直哉もうなずき、イチカの気配に意識を向けた。
(『まだ序盤です。油断しないように』)
* * *
山道を進むと、今度は2体のゴーレムが立ちふさがった。
「2体か……ちょうどいい。
トラ、どっちが先に倒すか勝負な!」
「おぉ、いいぜ。スタート!!」
2人は同時に地面を蹴り、ゴーレムへ向かって駆け出した。
距離が半分ほど縮まったところで――
「トラ、この勝負もらったぜ!
スモーク!!」
直哉が煙幕弾を発動する。
ボンッ!!
白い煙が爆ぜ、衝撃波とともに一気に視界を覆った。
「うおっ!? あ、てめーきたねぇぞ!!」
武虎の怒鳴り声が煙の中から響く。
直哉は笑いながら返した。
「ふはははは、勝負の世界は厳しいのだよ、トラ君!」
(『ホルダーのチャージを消費。煙の中に敵の輪郭を浮かび上がらせます』)
直哉の右目が淡く光り、煙の中に“光の線”としてゴーレムの輪郭が浮かび上がる。
「フッ……俺から逃げられると思うなよ……!」
(『厨二病による戦闘力、3%上昇を確認』)
「だからそのバフいらねぇって!」
直哉は光の軌跡を追い、ゴーレムの拳を紙一重で回避。
そのまま膝へバットを叩き込む。
ガキィッ!
ゴーレムがよろめく。
煙で視界ゼロ。
普通なら戦えない状況だ。
だが武虎は――
「おりゃ……ここだ!」
ゴーレムの拳が振り下ろされる直前、
空気の流れが変わる“わずかな圧”を肌で感じ取っていた。
煙の渦の流れ、
足音の反響、
岩が擦れる微かな振動。
それらを一瞬で組み合わせ、
武虎は拳を横へ避け、鉈を振り下ろす。
ガシュッ!
ゴーレムの腕が割れた。
直哉は横目でその動きを見て、思わず息を呑む。
(……え、なんで普通に戦えてんの!?)
自分はイチカのサポートで見えている。
だが武虎は完全に見えていないはずだ。
それなのに、通常時と変わらない精度で攻撃を避け、反撃している。
「くそっ……このままだと負ける!」
直哉はバットを構え直し、光の軌跡を追ってゴーレムの頭部へ一撃。
ゴシャァッ!
ゴーレムが崩れ落ちる。
「よし、倒した!」
すぐに武虎の方へ目を向ける。
* * *
武虎はゴーレムの拳を受け止め、
身体強化のオーラを強めて衝撃を殺す。
「ぬぅっ……!」
ゴーレムが後退しようとした瞬間、
空中で蜻蛉飛びを発動、三角飛びの要領でゴーレムの後ろに飛び込む。
「おらぁッ!」
鉈がゴーレムの首元を割り、岩片が飛び散る。
「よし、こっちは終わりだ!」
煙が晴れ、2人の視線がぶつかる。
「……倒した?」
「おう、倒した!」
ほぼ同時だった。
* * *
直哉は息を整えながら武虎に近づく。
「トラ……なんであの煙の中で普通に戦えるんだよ!
絶対勝ったと思ったのになー」
武虎は当然のように答えた。
「空気の流れだな」
「空気……?」
「ああ。煙の渦の切れ目、風の向き、足音の反響……
五感を研ぎ澄ませば、相手の位置も動きも全部わかる」
直哉は思わず息を呑む。
「……すげぇ……」
(『せっかく“戦術的スモーク”を披露したのに、上回れましたね……』)
(若干嫌味を感じたんだけど、気のせい……?)
(『……』)
武虎は鼻で笑いながら言った。
「まあ、勝負は引き分けだな」
「……次は負けないからな!」
* * *
戦闘を終え、山道をしばらく進む。
(『右側の岩壁の裏に細い道があります。
そのまま3メートルほど進み、崖を登ってください』)
「トラ、こっち。近道がある」
「お、マジか」
イチカの丁寧な案内が頭の中に響く。
直哉は何事もなかったかのようにうなずき、武虎へ自然に言葉をつないだ。
「ほら、こっちの岩の裏。ちょっと狭いけど、抜けられる」
「ほんとだ……よく見つけたな、こんな道」
「はは……まあ、ね」
直哉は内心でイチカに感謝しながら、あくまで“自分が知っていた”という体で先導していく。
(『次は崖を登ります。
左側の突起を使ってください』)
直哉はその指示を受け取り、自然な動きで足場を示した。
「ここ、登れる。足場がしっかりしてるから」
「お前……よく見つけたな」
崖はほぼ垂直で、ところどころに小さな突起があるだけ。
普通なら絶対に気づかない。
直哉は先に登り始め、指先とつま先だけで岩をつかんで進む。
武虎も続き、2人は慎重に崖を登り切った。
その先には、さらに狭い隙間があった。
「ここ、通るのか?」
「うん。横向きになればギリギリいける」
2人は体を横にし、岩壁に挟まれながら進む。
途中、岩が軋む音がして武虎が青ざめた。
「おい、これ本当に大丈夫か……?」
「大丈夫、大丈夫」
(『左側の岩が崩れやすいので右へ寄ってください』)
直哉はその指示に従い、武虎にも伝える。
「トラ、右寄りな。そっち崩れそうだ」
「おうよ」
隙間を抜けると、広い岩場へ出た。
* * *
岩場の中央に、5体のゴーレムが立ちはだかっていた。
そのうち3体が前へ進み出ると、互いの腕を絡め、岩が砕ける音を響かせながら融合を始める。
ゴゴゴゴゴ……ッ!
3体の岩塊がねじれ、押し潰され、再構築され――
やがて1体の巨大な合体ゴーレムが姿を現した。
背中にはドリル状の突起が複数生え、腕は太く、脚は柱のように太い。
「うお……かっこいい……!」
直哉の目が輝く。
武虎は呆れたように笑った。
「お前、テンション上がってんじゃねぇよ!」
通常型の2体は、左右から直哉たちへ迫ってくる。
直哉はバットを握り直し、低く呟いた。
「縛っ!」
ホルダーから2つの無限拘束を投げる。
鋼鉄の網が飛び出すように広がり、通常型2体の脚へ絡みつく。
ガシャァンッ!
鋼鉄の網が締まり、2体の動きが一気に鈍る。
ゴーレムたちは腕を振り回して抵抗するが、網はびくともしない。
「よし、動き止まった!」
直哉が武虎へ目配せする。
武虎も笑い、うなずき返した。
「先にこいつら片付けるぞ!」
2人は同時に駆け出した――その瞬間。
ズドォンッ!!
合体ゴーレムが巨腕を振り下ろし、地面を砕いて妨害してきた。
岩片が弾け飛び、進路を塞ぐように転がる。
「っと……!」
直哉は岩片の隙間を滑り込むように抜け、武虎は跳躍して岩を踏み台にし、かわす。
拘束された通常型2体は、網に絡まれながらも腕を振り回して抵抗していた。
「トラ、右のやつは任せた!」
「おうよ!」
2人は左右に分かれ、同時に踏み込む。
直哉はバットを肩に担ぎ、武虎は鉈を逆手に構え――
「行くぞッ!」
「おらぁッ!」
2人の攻撃が、拘束されたゴーレムの左右から同時に叩き込まれた。
バキィィンッ!!
バットと鉈がそれぞれに命中し、2体の通常型は左右へ弾け飛ぶように砕け散った。
残るは巨大な合体ゴーレム1体。
背中のドリル状突起が震え始める。
次の瞬間、突起が轟音とともに射出された。
ズバァァァンッ!!
岩がミサイルのように一直線に飛び、地面を抉りながら迫る。
「避けろ、トラ!」
「言われなくても!」
直哉は横へ転がり、武虎は地面を蹴って跳躍し、ミサイルを回避する。
着地した武虎が叫ぶ。
「神谷! 背中のあれ、撃った後は隙ができる!」
「了解!」
合体型は再装填のように背中を震わせている。
その一瞬の隙を逃さず、2人は同時に駆け出した。
「せぇぇいッ!」
直哉は正面から踏み込み、バットをフルスイング。
「どりゃああッ!」
武虎は側面から回り込み、鉈を振り下ろす。
バットと鉈が同時に命中し、合体ゴーレムの胸部に大きな亀裂が走った。
巨体が揺れ、岩片がパラパラと落ちる。
だが、合体型はまだ倒れない。
「まだまだッ!」
直哉は間髪入れず、2撃目を叩き込む。
バットが亀裂へめり込み、岩が砕け散る。
武虎も続けざまに鉈を振り抜いた。
「おらぁッ!」
鉈が肩口を裂き、腕の付け根まで深く食い込む。
合体ゴーレムが咆哮を上げた。
グォォォォォッ!!
背中のドリル突起が震え、1本が射出される。
「危ねぇ!」
直哉は地面を転がって回避し、
武虎は跳躍してミサイルをかわす。
着地した武虎へ、合体型の巨腕が振り下ろされた。
ドガァァンッ!!
「トラッ!」
「効かねぇよッ!」
武虎は身体強化のオーラを爆発させ、腕を受け止めながら鉈を逆手に持ち替え、そのまま肘の関節へ叩き込む。
ガキィィンッ!!
岩の腕に深い亀裂が走る。
直哉も背後へ回り込み、バットを構えて低く息を吸った。
「いっけぇぇぇッ!!」
3撃目のフルスイング。
バットが背中の装甲を砕き、内部の核へ届くほど深くめり込む。
合体ゴーレムがよろめく。
武虎が叫ぶ。
「直哉、合わせるぞ!」
「おうッ!」
2人は左右から同時に踏み込み、呼吸を合わせて武器を振り上げた。
「「せぇぇいッ!!」」
バットと鉈が、合体ゴーレムの中心核へ同時に叩き込まれる。
ガギィィィィンッ!!
亀裂が一気に全身へ走り――
ゴゴゴ……ッ!
巨体が震え、崩れ始め――
ドォォォォォンッ!!
合体ゴーレムは粉々に砕け散った。
砂煙が舞い、岩片が雨のように降り注ぐ。
静寂が戻る。
直哉は肩で息をしながら笑った。
「……よっしゃ!」
武虎も鉈を肩に担ぎ、満足げに頷く。
「なかなかだったぜ」
(『超巨大ゴーレムのエリアはすぐ先です』)
イチカの念話が静かに響く。
「マップみると、そろそろ超巨大ゴーレムの場所だな」
「よっしゃ、気合いれるぜ!」
直哉は武虎と視線を交わし、歩みを進めた。




