第55話 会津スキー旅行
是非、ブックマークか評価を。
私にガソリンをください!!
『……スノーパルの予約、完了しました。
宿泊プランは朝夕食付き、ゲレンデまで徒歩5分のホテルを選択しました』
「お、サンキュー、イチカ」
スマホ画面に表示された値段を見て、俺はため息をついた。
「……1週間滞在って、やっぱり結構な出費だな」
『交通費、宿泊費、レンタル費用を含めると、合計で約15万円です』
「15万……! いや、まあ、スキー旅行だし仕方ないけど……」
「遠征行く前に第3層、何回か行かないとな。
旅費分は絶対取り返す」
俺は拳を握った。
『集落の情報があれば、レベル上げも捗ります。
情報をチェックしておきます』
こうして、俺と藤堂は2週間の間に5回、第3層へ潜った。
2人合わせて合計150体以上のゴブリンの掃討、そして運がいいことに鉱脈も採掘できた。
報酬は順調に積み上がり、旅費の倍近くを稼げたので、余剰分は新ダンジョン用に保管することにした。
* * *
旅行当日。俺たちは深夜のスノーパルに乗り込んだ。
指定席に腰を下ろすと、ヤスが早速お菓子を広げる。
「いやぁ、こういう旅はお菓子が必須ですぞ」
ヤスが満面の笑みで、膝の上に広げたコンビニ袋をガサガサと漁る。
袋からはポテチ、チョコ、そしてさきイカが顔を覗かせていた。
「ポテチ、チョコ、さきイカ、どれでもどうぞ」
彼は得意げに差し出す。
「お前、遠足かよ」
武虎が呆れたように笑うが、結局チョコを一粒つまんで口に放り込む。
窓の外では、深夜の街並みが流れていく。
車内は暖房が効いていて、ほんのり甘いお菓子の匂いが漂っていた。
「スキー、楽しみだな。毎年行ってるけど、やっぱり移動の時はワクワクするぜ」
武虎が腕を組み、ニヤリと笑う。
「俺は久々だな。
でも、身体能力が大分上がってるから滑れると思うんだよな」
直哉もちょっとワクワクしている。
背もたれに寄りかかりながら、スマホを指で軽く弾いた。
「確かになぁ。なんだかんだ、俺らって全力で走ったら時速70キロ近くでるもんな」
武虎が笑いながら言う。
「半年前からは想像できないよ。
我ながらよくここまで強くなれたよな」
窓の外を見ながら、しみじみと呟く。
街灯の光が流れ、ガラスに映る自分の顔が少し誇らしげに見えた。
「いいことじゃねぇか」
「スキーも楽しみだけど、新しいダンジョンも楽しみだよね」
直也はちょっと上ずった声で言った。
未知の領域への期待も入っているからだろうか。
「お、出たな探索脳。だがわかるぜ」
武虎が肩をすくめる。
口元には同じ熱が宿っていた。
「イレギュラーとかいないのかな。
あとで調べてみよう」
「ふふふ、情報収集は拙者にお任せを。旅行中もアンテナは張っておりますぞ」
そんな無駄話をしながら、俺たちはお菓子を食べ、笑い合った。
やがて「寝ておこう」という流れになり、俺たちは座席を倒して目を閉じる。
* * *
朝。会津のスキー場に到着した俺たちは、ホテルに荷物を預け、早速ゲレンデへ。
「うお、雪すげぇ……!」
「コンディション最高だな」
武虎と俺はスキー経験者。
板を履き、ストックを握ると、自然に体が動く。
「じゃ、行くか!」
「おう!」
俺たちは軽快に滑り出し、風を切る感覚を楽しむ。
上級コースも楽々だ。視界に広がる白銀の世界、最高だ。
一方、ヤスはというと――。
「ひ、ひぃ……! 足が……足が勝手に……!」
へっぴり腰で必死にバランスを取っている。
「おいヤス、腰引けすぎだろ!」
「笑わないでくだされ! 拙者はそんなに経験がないのです!」
武虎が爆笑する。
「その格好、スキーというより田植えだな!」
「くっ……こんなこともあろうかと。
むふふふふ、これの出番ですね!」
ヤスがストックを取り出した。普通のストックではない。
持ち手の部分に奇妙な装置が付いている。
「むふふふ、これは倒れん棒です。
体の傾きを自動計測して、倒れそうになったら壁を作って倒れるのを防ぐ優れものですぞ」
「お前、そんなもん持ってきてたのかよ!」
俺が目を丸くすると、ヤスは胸を張ってストックを掲げた。
「蜻蛉飛びを参考に開発しました。これで倒れずに行けますぞ!」
眼鏡の奥の瞳がキラリと光り、得意げな笑みを浮かべる。
ヤスはストックを雪面に突き、勢いよく滑り出した――が。
「……あれ? 曲がれない……?」
身体を傾けて曲がろうとした瞬間、ストックの装置が反応し、側面に壁が出現。
曲がろうとする度に壁が作られ、邪魔される。
進路が固定され、ヤスは直滑降で猛スピードに乗った。
「おいヤス! 止まれ!」
俺が叫ぶと、ヤスは顔を引きつらせながら絶叫した。
「とととと、止まらんでござる!!」
声が裏返り、必死に足を動かすが――。
「ほら、ハの字だ、ハの字!」
武虎が並走しながら叫ぶ。
「くぅぅぅ、足が、言うことを聞いてくれないですぞ!」
ヤスの声は半泣きだ。
雪煙を巻き上げながら、一直線に加速していく。
「よし、待ってろ、横から……」
俺が追いつこうとした瞬間――。
「だ、大丈夫です! こんな時のために緊急道具も用意しているのですぞ!」
ヤスが震える声で叫び、ポーチから球体を取り出した。
「これは防御壁の強化版、防御膜です。全方位防御が可能なのですぞ!」
装置が展開し、ヤスの身体をバルーンのような膜が包み込む。
――が、そのまま転がり落ち、ゲレンデをゴロゴロと転がっていく。
「うわっ、転がってるぞ!」
「丸いからな……」
武虎が呆れ顔でつぶやく。
「止まらんでござる!」
「止まるどころかスピード上がってるぞ、あれ」
「人が少ないコースでよかったな……」
俺たちは必死に追いながら、笑いをこらえる。
バルーンは段差に乗り上げ――。
「あ、飛んだ」
「飛んだな」
空中でグルグル回転し、バウンドし雪煙を巻き上げながら麓へ着地。ようやく止まったヤスは無傷だったが、目をぐるぐる回していた。
「……うぅぅ、ひどい目にあいました……」
ヤスが雪の上でぐったりと呟く。
「お前、時々バカだよな……」
俺はため息をつきながらも、笑いをこらえきれなかった。
* * *
そんなこんなありながらも、俺たちはスキーを満喫した。
夜、ホテルのレストランで夕食を囲む。
「いやぁ、楽しかったですな……」
「お前の発明品、全部失敗だったけどな」
「失敗は成功の母です。
ナオヤ氏に渡した道具も、あのような紆余曲折があった結果なのです」
「おぅ、そうだったのか。
ありがとな」
ヤスは胸を張り、次の発明品を取り出した。
「ところでタケトラ氏、これをどうぞ」
「ん? なんだこれ?」
「蜻蛉飛びです。ナオヤ氏から羨ましがっていたと聞きまして、拙者が準備しました」
武虎の目が輝く。
「マジか! 俺も使えるのか?」
「はい。ナオヤ氏のはインナーソールですが、タケトラ氏は素手でも戦うことがある、と聞きました。
なのでブレスレットとアンクレット。手と足、どちらでも出せるようにしてあります。」
「おぉ、サンキュー、助かるよ……!」
「トラ、その発動、結構難しいぜ。
できなかったら俺に聞いていいんだからな」
「へっ、言ってくれるじゃねぇか。
すぐ使いこなしてやるぜ」
「そういえば、ダンジョンのイレギュラーモンスター情報を調べましたぞ」
「お、出たか?」
「残念ながらイレギュラーはいませんでした。
しかし、第3層の入口近くにリホップ型の超巨大ゴーレムがいるようです」
武虎が眉を上げる。
「巨大ゴーレム? レアドロップとかあるのか?」
「いえ、倒しても特に何も起きず、魔石の大きさも通常種とあまり変わりません。
そのため大変不人気なのです。
ただし強さは桁違いらしいので、修行にはもってこいですぞ」
「なるほど……腕試しにはいいな」
「それと、会津ダンジョンのマップ情報も送っておきます。
第1層、第2層はオープンになっておりますが、第3層は散らばっていた情報をかき集めて作成しましたぞ。
第3層のマップは30%程度しか埋まりませんでしたが、超巨大ゴーレムの場所もポイントしてありますぞ」
スマホに通知が届き、俺はマップデータを確認する。
「……お前、ほんと準備いいな」
俺は笑った。
ヤスのこういうところ、本当に頼りになる。




