第53話 次なる挑戦
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私にガソリンをください!!
崩れた塔の影が、夕暮れの光を受けて長く伸びていた。
瓦礫の隙間から吹き抜ける風が、戦いの余韻を冷たく撫でていく。
直哉は肩で息をしながら、塔に向かった。
腕には浅い切り傷、服の袖は裂け、血が乾いて黒ずんでいる。
隣を歩く藤堂も同じだ。
彼の前腕には斜めに走る切創、頬には赤い線が残っている。
「……なんとか倒せたな」
直哉が息を吐く。
「想像以上だったな。まさかあそこまでとは思わなかったぜ」
満足した戦いに満面の笑みを浮かべた武虎が応える。
直哉は肩で息をしながら、ふと顔をしかめた。
「……うわ、今さらだけど、なんか気持ち悪くなってきた」
武虎が眉をひそめる。
「毒が回ってきたんじゃないか?
たぶん身体強化を切ったからだろ。
身体強化を発動してる間は毒の回りを抑えられるんだ。
ちょっとでいいから、発動してみ。
楽になるはずだ」
「そうなんだ……」
直哉は短く息を吐き、再び身体強化を発動する。
体内に力が満ちる感覚が戻ると、吐き気が少し和らいだ。
「……ほんとだ、ちょっと楽になった」
その瞬間、脳裏に響く声があった。
(『毒素の分解は可能です。
時間がかかりますが、魔素を活性化させ治療を開始します』)
(傷を治すみたいに、毒も直せるのか?)
(『はい。自己治癒能力を補助し、毒素を分解します。
完全除去まで少し時間がかかりますが、問題ありません』)
(頼む)
(『了解しました。治療プロセスを開始します』)
直哉の体内で、微かな温もりが広がっていく。
イチカが魔素を使い、自己治癒能力をサポートしているのだ。
吐き気は徐々に薄れ、視界が安定していく。
武虎が横目で直哉を見て、口角を上げた。
「顔色、戻ってきたな」
直哉は苦笑しながらうなずいた。
* * *
視線を上げると、先に到着していた最上と指川が瓦礫の上に腰を下ろしていた。
2人とも服にわずかな埃をまとっているだけで、ほぼ無傷だ。
「お疲れ様」
最上が軽く手を振る。
「いやー、なかなか手ごわかったね」
指川も笑みを浮かべる。
「やっぱりすげぇな」
直哉は苦笑しながら近づく。
「……2人とも、余裕そうだな」
武虎が言うと、直哉もうなずく。
「結構やられてるね。強かった?」
直哉が頷く。
「2人の連携がやっかいでした。
固いし、うっとうしいぐらいチョロチョロするし。」
最上が瓦礫を蹴りながら笑う。
「まあ、特別依頼だし、そのぐらいないとね」
その言葉に、直哉は小さく息をついた。
確かに、緊迫した戦いだった。
反省点は山ほどある。
だが、手ごたえもあった。
レベル:13→14
体力:48→54
筋力:49→55
敏捷:57→65
器用:39→45
知力:38→44
特殊能力:現象伝導、時穿つ瞳、瞬閃四連撃
特殊能力:分体生成
内在魔素:292→361
内在魔素:136→173
「そういえば……俺、レベル14になった」
その一言に、3人の視線が一斉に集まった。
「おお、やったね!」
最上が笑顔で立ち上がる。
「おめでとう」
指川が軽く拳を突き出す。
そして、口元を緩めて言った。
「14か……動き、かなり良かったぞ。正直、もっと上かと思ったくらいだよ」
直哉は照れくさく笑う。
「うっす」
* * *
報告のため、4人はダンジョン課へ戻った。
事務的な手続きが淡々と進み、討伐報酬は銀行振込で処理される。
端末に映る数字を確認しながら、直哉は小さく息をついた。
「楽しかったし、実入りもいいし、最高だな!」
武虎が笑う。
カウンターの奥から職員が顔を出し、柔らかく笑った。
「本当にお疲れさまでした。今回の依頼、難度は高かったはずです。
4人とも、ありがとうございました」
最上が肩を回しながら応じる。
「どういたしまして」
指川も笑う。
「次も期待してていいよ」
軽く手を振り、2人は別れを告げる。
「じゃ、また次の依頼で」
残った直哉と藤堂は、並んで出口へ向かった。
夕焼けが街を染める中、2人の足音が静かに響く。
「なあ」
武虎が口を開く。
「今日の戦い、どうだった?」
直哉は少し考えてから答える。
「……やっぱまだまだだよな。
2人の戦いを見る暇なかったけど、見ただろ、無傷だぜあの2人」
武虎がぼやく。
「だよなぁ。塔の近くに直径7メートルぐらいのでっかい球できてたろ?
あれ指川さんがやったらしいぜ」
「えー、何がどうなってああなったんだ?
見たかったなー」
「4層とかだと、あんな規模の攻撃も防げないとやってけないんだろうな」
「どうすりゃあんなの防げるようになるんだか……」
直哉は少し笑って肩をすくめる。
「でも、身体強化:剛とか、能力特化の発動はかなりスムーズになってきた」
武虎は満足そうに頷く。
「確かに。お前の動き、かなり洗練されてきた。ズクズクの能力を捌いた時、正直驚いた」
直哉は笑う。
「トラこそ、断裂掌の発動スピード、段違いだったぜ?
あの速さ、前とは別物だ」
武虎は笑みを深める。
「はっはっは、親父に散々しごかれてるからな。
魔素量も上がってきてるし、断裂猛襲もかなり早く発動できるようになった。
……でも、お前の《剛》の維持時間も伸びたな」
「まあね。そろそろトラを追い抜くかもな」
「へっ、言ってくれるじゃねぇか!」
武虎が拳を突き出す。
「じゃあ、今度は2人で潜ってレベル上げでもするか」
直哉もそれに応え、拳を軽く合わせた。
「決まりだね」
夕陽の中、2人の影が長く伸びていく。
戦いは終わった。
だが、次の挑戦はもう始まっている。




