第52話 イレギュラー討伐任務③
是非、ブックマークか評価を。
私にガソリンをください!!
草原に漂っていた煙が、ゆっくりと薄れていく。
直哉は、視線を塔の方へ走らせた。
「……あれ、最上さんと指川さんか?」
煙の切れ間から、2つの影が見えた。
この一瞬で指川は200メートルほど進み、最上は300メートルほど進んでいた。
「すげぇ……この一瞬であそこまで……」
だが、感心している暇はなかった。
右前方――草むらの向こうに、2つの影が揺れている。
「……あれ、だよな」
武虎が低く呟く。
直哉も同じ考えだった。
グリグリとズクズク。
あの双子のゴブリンが、こちらを見てニヤニヤしている。
「行くぞ!」
直哉は地面を蹴り、武虎もすぐに続く。
相手もこちらに気づき、影が揺れ、一直線に向かってくる。
距離が縮まるにつれ、2匹の顔がはっきり見えた。
グリグリは相変わらずの大柄で、筋肉の塊。
ズクズクは細身で、影のように揺れる。
そして――
「オマエ……マタ……」
「コロ、ス……コロ、ス……!」
片言のカタカナ混じりの声。
直哉の胸に、あの日の屈辱が蘇る。
「……ッ!」
気づけば、直哉はグリグリへ突っ込んでいた。
「ばか、落ち着け!」
武虎の声が背後から飛ぶが、もう止まれなかった。
* * *
グリグリがニヤリと笑い、ズクズクが影のように揺れる。
次の瞬間、2匹はまるで一体化したかのように入れ替わり、攻撃と防御を切り替えながら迫ってきた。
「くっ……!」
直哉は一瞬だけ突出してしまったせいで、双子の連携に翻弄される。
グリグリの短剣を避けたと思えば、ズクズクの短剣が死角から飛び出す。
ズクズクを狙おうとすれば、グリグリが壁のように立ちはだかる。
『落ち着いてください。すぐ藤堂様が追いつきます』
イチカの声が脳内に響く。
呼吸が整い、視界が少しだけ広がった。
その直後――
「神谷、つっこむな!」
武虎が追いつき、戦場は2vs2の構図になった。
だが、状況は簡単には好転しない。
「ミロ……ミロ……!(俺を見ろ)」
視線が固定され、ズクズクの動きが完全に読めなくなる。
影が揺れたと思った瞬間、死角から短剣が閃いた。
「っぶな……!」
直哉が身を捻ってかわす。
武虎が怒鳴る。
「神谷、そのでけーのが邪魔だ! 2人で集中するぞ!!」
「わかってる!」
2人同時に踏み込み、グリグリへ攻撃を仕掛ける。
だが――
「アアアアア……アイアンズ!(鉄壁の腕)」
ドプンッ!
魔素で作られた巨大な手甲を纏った4本の腕が背中から生える。
まるで鉄壁の盾が倍に増えたような圧迫感。
ガキィィンッ!
4本の腕が重なり、巨大な手甲が火花を散らす。
直哉の一撃も、武虎の蹴りも、ほとんど有効打にならない。
「ちっ……硬すぎだろ!」
「くそ、もう一回!」
2人は息を合わせて再び踏み込む。
だが、攻防を何度繰り返しても結果は同じだった。
攻撃を入れようとすれば、ズクズクが影から飛び出して邪魔をしてくる。
「チョロ……チョロ……!(影から影へ)」
短剣が横から滑り込み、攻撃の軌道を逸らす。
武虎が蹴りを放てば、影が揺れ、ズクズクが足元を狙ってくる。
完全な連携。
完全な防御。
完全な死角。
「くそっ……どう突破すんだよ、これ……!」
* * *
「まだ、まだまだぁ!」
直哉は身体強化を発動する。
武虎も同時に身体強化を使い、2人でグリグリとズクズクに迫る。
「おらぁっ!」
直哉がグリグリの正面へ踏み込み、バットを叩き込む。
だが、4本の魔素の腕が盾のように重なり、衝撃を吸収する。
武虎が横から蹴りを入れるが、ズクズクが影から飛び出し、短剣で軌道を逸らす。
「チョロ、チョロ……!(影から影へ)」
「ウゴ、ク……!」
ズクズクの動きはまるで煙のように掴めない。
影から影へ滑り込み、死角から攻撃を仕掛けてくる。
直哉はそれをギリギリで避けつつ、グリグリの防御の隙を探す。
武虎が拳を叩き込み、直哉がその隙にバットを振るう。
しかし、グリグリは4本の腕を自在に動かし、まるで6本腕の巨人のように攻撃を受け流す。
「くそっ、硬すぎる!」
「焦るな! 動きは読めてきてる!」
武虎が叫び、再び踏み込む。
直哉も呼吸を整え、ズクズクの影の動きを追う。
だが、2匹の連携は崩れない。
ズクズクが影から飛び出し、直哉の足元を狙う。
武虎がそれを蹴り飛ばすが、グリグリがすぐに前へ出て壁になる。
「ミロ……ミロ……!(俺を見ろ)」
俺を見ろが発動し、視界が引っ張られる。
ズクズクの影が揺れ、死角から短剣が迫る。
「くっ……!」
直哉は紙一重で避けるが、攻撃に転じる余裕がない。
「ちっ……このままじゃ埓があかねぇ!」
武虎が息を吐き、直哉と背中合わせになる。
* * *
「身体強化:剛で一気に決めるぞ。タイミング合わせろ!」
武虎の声に、直哉はうなずく。
呼吸を合わせ、魔素の流れを整える。
「……今だ!」
2人同時に身体強化:剛を発動。
筋肉が爆発するように膨れ、地面が沈む。
「行くぞおおお!」
直哉たちは一気に攻勢に転じた。
グリグリの鉄壁の腕を力で押し込み、ズクズクの影の動きも追えるようになってくる。
だが――
ズクズクが影から影へを直哉たちの足元に使う。
「くっ……!」
踏み込んだ瞬間、足首に冷たい感触が絡みついた。
影だ。
ズクズクの影から影へが足元に発動し、足が影に飲み込まれそうになる。
「またかよ……!」
直哉が足を振り払うと、影がドプンッと揺れて消える。
だが――
その先の踏み込みも狙われ、また影に飲み込まれそうになる。
「ちっ……!」
跳んで避けた瞬間、また別の影が揺れる。
ドプンッ。
ドプンッ。
ドプンッ。
影が波紋のように広がり、直哉の足を狙っては消え、狙っては消える。
「しつけぇんだよ……!」
踏み込もうとするたびに影が絡みつき、加速が殺される。
武虎が横で攻撃に入ろうとしても、ズクズクが影から飛び出して邪魔をする。
「チョロ……チョロ……!(影から影へ)」
影が揺れるたびに、足元をすくわれるような感覚が走る。
「くそっ、また足だ……!」
直哉が苛立ちを噛み殺したその瞬間――
(『影から影への分析完了』)
(まじか!?)
(『発動タイミングで警告を上げます』)
(ナイス、イチカ!)
直哉の攻撃に合わせて、イチカの警告が響く。
(『右足』)
「くっ、こっちか!」
影が揺れ、直哉は踏み込みをずらして回避する。
2撃目に入ろうとした瞬間、また影が波打つ。
(『左後ろ、低い影』)
「ちっ、危ねぇ!」
直哉は身を沈め、ズクズクの短剣を紙一重で避ける。
さらに踏み込んだ3撃目――
影が直哉の足元で大きく膨らんだ。
(『正面、足元! 深い影です!』)
「うおっ、と……!」
直哉は跳び上がり、ギリギリでかわした。
(よし、慣れてきた、イチカ、次いくぜ!)
(『わかりました、合わせます』)
直哉がズクズクに向かって走る。
(『左足』)
イチカの警告が脳内に響く。
直哉は即座に蜻蛉飛びを足元に発動、影の妨害を無効化する。
「ナ、ヌ……!」
ズクズクが驚いた瞬間、
「同じことがいつまでも通じると思うなよ!」
直哉から青いオーラが噴き出る。
「身体強化:剛!!」
(『時穿つ瞳、身体強化:【謀陣】発動』)
直哉はズクズクに飛び掛かる。
「チョロ……チョロ……!(影から影へ)」
ドプンッ。
ズクズクが影に潜り込む。
「出てきたところをガツンとだ、集中、集中しろ」
(『右後ろ草陰』)
「こっちかぁぁ!」
蜻蛉飛びを発動し、地面を這うように飛ぶ。
ズクズクの頭が影から浮かんでくる。
「逃がすか、アクセル・バースト!!」
影から出てきたズクズクの顔に驚きが浮かび、再び潜ろうとするが間に合わない。
神速の4閃がズクズクの頭部に集中し、砕く。
ズクズクがポリゴンとなってはじけ飛んだ。
「よし……!」
武虎がそれを見て、拳を握りしめた。
「俺も負けてらんねぇぜ!」
武虎は断裂掌を発動。
足にも瞬陣を纏わせ、猛攻を開始する。
「オラァァァ!」
武虎の掌打がグリグリの鉄壁の腕を削り取る。
魔素の腕が砕け、再生し、また砕ける。
だが、再生速度が徐々に追いつかなくなっていく。
「アアアアア……!」
グリグリが吠えるが、武虎の攻撃は止まらない。
正面、横、後ろ、上。
素早い動きを活かして、四方八方から猛攻を叩き込む。
そして――
武虎の断裂掌によって強化された双掌が、グリグリの胸に深く叩き込まれた。
「ガ……ッ……!」
巨体が揺れ、膝をつき、そのまま地面に倒れ込む。
「……やった、のか?」
直哉が息を吐く。
ズクズクはポリゴンとなって弾け、グリグリもポリゴン化し風に溶けた。
武虎が肩で息をしながら、直哉の背中を叩いた。
「お前、突っ込みすぎなんだよ……!」
「悪い……でも、勝てたな」




