第51話 イレギュラー討伐任務②
是非、ブックマークか評価を。
私にガソリンをください!!
「……あの塔です」
俺は小声で呟き、背後を振り返る。
「あそこか。」
3人が頷く。
塔までの距離はおよそ1キロ。
俺たちは慎重に足を進めながら、作戦を確認する。
「たぶん500メートルぐらいのとこまでいけば攻撃してくると思います」
俺がそう言うと、指川が頷きながら続ける。
「それじゃ、敵の攻撃を合図に行動開始しよう。
まずは煙幕。そして僕と最上さんが塔に突っ込む。
塔に仕掛けた罠は、僕らが突っ込んだ5秒後ぐらいに発動してほしい」
「わかりました。俺とトラはここで迎撃ですね」
「そうね、まだ姿が見えないけど、グリグリとズクズクも近くにいる可能性が高い」
武虎が短く答える。
「へへ、ワクワクするぜ」
最上が笑い、剣の柄を軽く叩いた。
「作戦通り、ズゴルは私、モルバグは指川さん、よろしくね」
「えぇ、任せてください」
冷たい風が頬を切り、塔の影が不気味に伸びる。
俺たちは息を潜め、塔へと歩を進めた――。
* * *
俺たちは草原を進む。
風が草を揺らし、時折、岩や茂みが視界を遮る。
塔までの距離は残りわずか。
「……そろそろだな」
俺は小さく呟き、ホルダーに指をかける。
500メートル地点に差し掛かった瞬間、空気が裂けた。
――ヒュンッ!
矢が草を切り裂き、岩を砕く。
破片が頬をかすめ、耳に鋭い音が突き刺さる。2本目、3本目――矢羽根が風を裂く音が連続して響いた。
「来たわ、散開!」
最上の声と同時に、全員が地面を蹴った。
矢が地面を抉り、茂みを貫く。
1本、2本、3本……数える暇もない。
俺はホルダーから煙幕弾を抜き、地面に叩きつけた。
――ボンッ!
白煙が爆ぜ、鼻を刺す硝煙の匂いが広がる。
視界が一瞬で閉ざされ、塔の影が霞む。
さらに3発を投げ込むと、煙が草原を覆い、風に乗って渦を巻いた。
「今よ!」
最上が地面を蹴り、塔へ一直線に駆ける。
指川は指先を振り、岩が浮かび上がる。
その上に飛び乗り、空へ舞い上がった。
(「……3、2、1、イチカ、今だ」)
(『閃光罠、発動します』)
5秒後きっかりに、塔の4階で閃光が弾ける。
ここから細かい様子は見えないが、あとは2人に任せるしかないだろう。
俺達の役目は――
煙が晴れると、正面から2体のゴブリンが駆け寄ってきた。
「トラ、やるぞ!」
「おう、楽しくなりそうだぜ」
――ここだ
* * *
ズゴルは崩れた塔の4階、外壁に設けられた狭い足場に立っていた。
弓を構え、矢を次々と放つ。
その動きは無駄がなく、まるで機械のようだ。
「……スバヤイ」
ズゴルの目が細められる。
最上は「身体強化:極」を発動し、塔に駆け寄る。
「塔まで500メートル、15秒もあれば着く、待ってなさいよ……!」
ズゴルが塔から正確無比な矢を放つ。
1本目の矢を身をひねってかわす。
2本目は草に潜りこむ様に、地面すれすれまで体を倒して躱す。
3本目もまた、素早いステップで回避。
「やるじゃない、でも遅い遅い遅いぃ!」
最上の口角がわずかに上がる。
矢も止まらない。
4本、5本、6本――、時にはショットガンのように分裂する矢も、最上は素早い動きで難なくかわしていく。
しかし残り100メートル。
矢の速度が増し、回避だけでは追いつかない。
最上は剣を抜き、9本目の矢を弾いた。
金属音が塔に響く。
10本目、11本目――剣で逸らしながら、さらに加速する。
12本目、足場を蹴って跳躍し、13本目は塔の突起を掴んで体を回転させながら回避。
「16本目……お待たせ!」
最上が最後の矢を弾き飛ばし、塔の外壁を蹴ってズゴルの足場に飛び込む。
剣と弓がぶつかり、火花が散った。
ズゴルは弓を捨てず、棒術のように振り回す。
「さぁさぁ、もう撃たせないわよ!」
最上が剣を振り抜き、鋭い斬撃を連続で繰り出す。
動きは疾風のごとく、足場を蹴るたびに鉄板が軋む。
「……テゴワイ!」
ズゴルが弓で受け止めるたび、衝撃が腕を痺れさせる。
「クラエ!」
ズゴルが回転しながら最上の攻撃をかわし、床に転がっていた袋を拾い上げる。
次の瞬間、袋を裂き、目潰しの粉を投げつけた。
白い粉が舞い、視界が一瞬で白く染まる。
「ちっ……!」
「ソコダ!」
バシュバシュバシュ!
ズゴルは視界の乱れを利用し、一瞬の間に3射の速射を行う。
鋭い3撃が最上の顔、肩、腹を狙うが、剣が火花を散らして全てを弾く。
ズゴルはすぐさま横薙ぎに弓を振り回す。
最上は半歩下がり、打撃を逸らすと同時に逆袈裟に斬り込む。
「グムム……!」
ズゴルは弓で受け止めるが、最上の剣が2連撃を繰り出す。
「マダダ」
ズゴルは必死に防御に回り、弓を振り回し、時には生成した矢を突き出して距離を取ろうとする。
しかし、最上の踏み込みは止まらない。
1撃、2撃、3撃――剣閃が増え、ズゴルの防御は乱れ始める。
ズゴルは焦り、足場を蹴って回転しながら攻撃するが、最上は剣で受け流し、逆に反撃を浴びせる。
「遅い、遅いわね。そんな速さじゃあくびがでるわよ!」
最上の声が挑発するように響き、剣がさらに加速する。
ズゴルは完全に防御に追い込まれ、弓で必死に受け止めるが、衝撃で足場がきしむ。
その瞬間、ズゴルは生成した矢で壁際のロープを切る。
――ガシャン!
床板が跳ね上がり、仕掛けが作動する。鉄片や木片が飛び散り、視界をさらに乱す。
ズゴルはその隙をついて、崩れた壁から外へ飛び降りた――。
「逃がすか!」
最上が足場を蹴ると同時に、ズゴルは落下しながら魔素を練り、矢を生成。
空中で弦を引き絞り、射掛けようとした瞬間――ズゴルが目を見開く。
最上が「身体強化:極」を発動した。
落下するズゴルの速度を超え、キーーンという澄んだ音と共に、最上は空気を裂いて急接近。
「ナ……!?」
ズゴルの驚愕が声になる前に、最上の剣が閃いた。
すれ違いざまに3閃――斬撃が稲妻のように走り、ズゴルの身体を切り裂く。
「ミゴトダ……」
ズゴルの声が風に溶け、ポリゴンとなり弾ける。
最上は剣を振り払い、ふわりと着地した。
そして、わずかに笑みを浮かべ、呟く。
「……その程度の速さじゃ、足りないわね」
* * *
指川は岩を操り、空を駆ける。
意思の指先の力で岩を浮かせ、その上に立ち、まるで大空を支配する指揮者のように指を振る。
周囲の岩や木片が次々と宙に舞い、盾となり、槍となり、矢となってモルバグを狙う。
モルバグも空に浮かび、稲妻を帯びた杖を構え、背後に12の雷球を浮かべていた。
雷球は青白い光を放ち、空気を震わせる。
――雷球が飛ぶ。
1発、2発、3発。雷光が空を裂き、岩を砕く。
轟音が草原に響き渡る。
指川は即座に岩をぶつけ、相殺する。
岩片が弾け、火花のように散る。
「まだまだ!」
指川の指が舞う。
岩、木片、折れた枝、地面の石塊――そこら中のものが宙を舞い、雨のようにモルバグへ殺到する。
モルバグは雷球を操り応じる。
雷球が突き刺さり、岩を粉砕する。
「グッ……!」
モルバグが歯を食いしばる。
だが、指川の攻撃は止まらない。
岩槍が突き、木が弾丸のように飛び、岩が稲妻を受け止める。
「どうした? その程度か!」
指川の声が空に響く。
モルバグは防御に追い込まれ、雷球を次々と消費していく。
「ムン!」
モルバグが杖をグルグル回すと、背後の雷球が一斉に稲妻を放つ。
12本の雷光が直線的に走り、空を裂いた。
「おっと!」
指川は岩を盾にし、土壁を瞬時に形成して防御する。
「雷球は追尾してくるけど、3発しか同時に撃てない。
稲妻は追尾しないけど、大量に攻撃できる。
どうして、どうして、いい能力してるじゃないか」
指川は岩を乗り換え、空を舞いながら反撃を続ける。
大量の攻撃が再びモルバグを襲うが、稲妻で迎撃され決定打には至らない。
「もう少し大きいの行ってみようか!!」
指川が魔素を強くすると、地面が轟音を立てて裂け、家ほどもある巨大な岩がせり上がってきた。
岩肌が光を反射し、まるで大地の牙が天を衝くかのようだ。
「さぁ、これは受けとめられるかな!」
指川が挑発するように笑う。
モルバグは歯を食いしばり、背後の12の雷球を一斉に輝かせた。
「ガゥ!」
時計盤のように配置された雷球がグルグル回り、稲妻がガトリングガンのように連射され空を裂く。
轟音と閃光が交錯し、巨大な岩を迎撃する。
岩片が弾け、砂煙が舞う。
「やるなぁ……」
指川が笑みを浮かべる。
「これは疲れるから、あんまりやりたくないんだけど、さっ!」
指川の指が地面を指した瞬間、魔素が走り、草原が震える。
「僕が操れるのは塊だけじゃないんだよ」
地面が盛り上がり、土砂が渦を巻く。
まるで意思を持つように、9本の土砂の柱がウネウネとうごめき、空を突く。
直径5メートル、長さ20メートルの巨柱が、獣のようにモルバグを狙う。
「さぁ、これはかわせるかな?――九柱戯!!」
指川の声が轟き、土砂の柱がモルバグに襲いかかる。
「グガァァァァ!」
モルバグは必死に稲妻を放つが、砂が電撃を吸収し、攻撃を殺す。
「ガッ……!」
その瞬間、1本の柱がモルバグに直撃し、そのまま巻き込もうとする。
「グォォ!」
モルバグは必死に逃げようとするが、2本、3本と柱が殺到する。
9本の柱が入り乱れ、モルバグを完全に包囲。
「終わりだ……!」
指川が指を振り下ろす。
土砂の柱が絡み合い、最後には巨大な土の球となり、モルバグを圧し潰す。
――ドォォォンッ!
土の球が地面に落ち、轟音が草原を震わせた。




