第50話 イレギュラー討伐任務①
是非、ブックマークか評価を。
私にガソリンをください!!
ダンジョン課からメールが届いたのは、昼食を終えて少し気が抜けたタイミングだった。
件名は「イレギュラー個体の討伐依頼」だ。
> 『第3層にてイレギュラー4体が徒党を組み、探索者を襲う事態が発生しています。
>魔素能力者による討伐チームを編成します。
>報酬は1体につき50万円。
>参加可否をご返信ください。』
文面を読みながら、この前の戦いを思い出す。
グリグリとズクズク、モルバグ、そしてズゴル。
前回いいようにやられた光景が脳裏に甦る。
まともに戦えば命がいくつあっても足りない――そう悟った相手だ。
思わずスマホを握る手が止まる。
だが、その躊躇を断ち切るように、イチカが静かに言った。
『仲間がいれば勝てる可能性は大幅に上がります。藤堂様を誘いましょう』
「そうだよな、よしトラを誘ってみよう」
その言葉に背中を押され、俺は武虎――トラにメッセージを送った。
> 「おっす。来週にイレギュラー討伐の依頼が来た。
>一緒に行かないか?」
数分後、返ってきたのはいつもの調子の軽いメッセージだった。
> 「へー、面白そうだな。もちろん参加する。後で詳しく聞かせろよ」
その一言で、胸の奥の重さが少しだけ軽くなる。
ダンジョン課に「2名で参加希望」と返信すると、すぐに返事が届いた。
> 『承知しました。他にも魔素能力者を募り、4名編成のチームとします。
>決行は1週間後。詳細は追って連絡します。』
「篠原さんや最上さんが来るのかな……?
まぁ、とにかく1週間後だ。それまでトラと特訓しておいたほうがいいな」
『そうですね。
あと安田様に依頼し、発明品の補充が可能かも確認しましょう」
「あー、そうだったな。ヤスに謝らないとな」
* * *
会議室に入ると、すでに3人が集っていた。
俺、武虎、最上さん。
そして見知らぬ青年――指川さんだ。
黒髪を後ろで束ね、落ち着いた雰囲気をまとった青年だ。
視線は鋭いが、どこか静かな湖面のような冷静さがある。
職員が資料を配りながら説明を始めた。
「すでに情報を入手しているかもしれませんが、第3層で確認されたイレギュラー4体が徒党を組み、探索者を襲うという事態が発生しています。
皆さんには、この事態をぜひ終息させていただきたいと考えております。
情報の第一提供者である神谷様の報告により、4体すべてが魔素能力者であることが判明しております」
職員は続けて、4人を順に紹介した。
「最上様、指川様は第3層での探索経験が2年以上あります。
藤堂様、神谷様は半年に満たないながらも、高い評価を得ております。
特に神谷様は、先日の砦イベントにおいて主ゴブリンを討伐されました」
俺は慌てて手を振った。
「トラが……いえ、藤堂も参加していれば同じことができたはずです。
こいつは俺より強いんです」
武虎が鼻で笑う。
「いわゆるライバルってやつです」
最上が笑い、指川は手を挙げ挨拶を返した。
* * *
職員が説明を続ける。
「グリグリとズクズクは毒を塗った2本のダガーを使ってきます。
グリグリは防御に長けており、ズクズクは死角を取るような行動を取ることが多いようです」
俺も補足する。
「特にグリグリが挑発みたいな技を使ってきて、それを使われると目を離せなくなっちゃうんです」
「はい、その隙をついてズクズクが攻撃してくる、という作戦を取ってきます。
またズクズク自体も影から影に移動する能力があり、突然死角から現れる、という報告も上がっています」
「影移動……厄介だな」
「次に後衛のズゴルとモルバグです。
ズゴルは正確無比な弓を使ってきます。
1秒間隔での速射が可能で、最大射程は500メートルほどと考えられます。
また矢を魔素で生成しており、散弾タイプの矢も放ってきます」
さらに補足する
「あと、大量の矢を降らせる技も使ってきました」
「そのようですね。
他の探索者からの報告はありませんが、かなりの広範囲攻撃のようです」
俺は思い出しながら言った。
「50メートルか100メートルか……ちょっと切羽詰まっててちゃんと見れてなかったんですが、広範囲にかなり大量の矢が降ってきました」
(『あの技はチャージが必要なようです。
おそらく空に向かって12射することで発動すると考えられます』)
(了解)
「えっと、これは不確実なんですが、あの広範囲攻撃は、溜める感じで空に向かって12発くらい射ってました」
最上がうなずく。
「なるほど、溜めが必要な技なのね。
そしたら使う暇を与えないくらいプレッシャーをかければいいわね」
職員が続ける。
「モルバグも同様です。
誘導性のある雷球を複数、最大3つまで放ってきます。
ただし、こちらは残弾があるようです。
1度に12個までストックさせることができ、使い切るまでは新しいストックはできないようです」
俺は付け加えた。
「あと、こいつも広範囲の攻撃をしてきました。
雷雲を呼んで大量の雷を降らせる感じです」
指川が腕を組む。
「どちらかというと、後衛の方がやっかいなのか……
身体能力はどうだった?」
「実際に目の前で戦ったのがグリグリとズクズクですけど、どちらも僕と大きな差はなかった気がします。
多分、身体強化:剛を使えば上回れる感じです。
ただ、ダガーの使い方が上手くて、なかなか攻撃を当てられませんでした」
武虎が言う。
「なるほどな。
強敵に違いないが倒せないってほどでもなさそうだ」
最上がうなずく。
「ただ、連携されるとやっかいね。
少なくとも前衛、後衛を分断しましょう」
武虎が手を挙げた。
「どうだろう、俺と神谷に前衛をやらせてくれないか?
後衛がいるのは塔の上と空なんだろ。
俺たちじゃ接近するのに苦労しそうだ」
最上が即答する。
「そうね、そしたらあなた達2人がグリグリとズクズク、私がズゴル、指川さんはモルバグでどうかしら?」
指川が静かに頷く。
「僕もそれで大丈夫ですよ。
相手も多少使えるようですが、格の違いというやつをみせてやりましょう」
「なら決まりね」
全員が頷いた。
* * *
俺は付け加える。
「ズゴルの住処には閃光の罠を仕掛けてあります。
ただし、効果はちょっと薄いかもしれないっす」
最上が首を傾げる。
「それはなぜ?」
「いや、あいつなぜか目を布で覆ってたんです。
たぶん、見えていないのかも。いや、でも狙いは正確だったしな……」
最上が顎に手を当てる。
「視覚を補助する魔法的なアイテムなのかもしれないわね。
もしくは、能力を強化するためにデメリットを課しているのか。
まあどちらにしても試してみましょう、やらないよりはいいわ」
「了解っす」
(『罠の効果が薄い場合でも、敵の動きを一瞬止める可能性があります。
その一瞬が勝敗を分けることもあります』)
(そうだよな。タイミングは射程に入るギリギリか?)
(『えぇ、それがいいでしょう』)
職員が資料を閉じ、会議の終わりを告げる。
「以上で情報の共有を完了します。
皆さんの健闘を祈ります」
会議室の空気が少しだけ緩む。
最上が伸びをしながら言った。
「さて……あとは本番ね。
正直、気が抜けない相手ばかりだから、油断だけはしないようにしましょう」
指川が静かに続ける。
「500メートル付近が最大射程のようですし、そこまでは普通に進みましょう。
敵の一撃目を合図に僕がモルバグに、最上さんがズゴルに突っ込みます。
藤堂君と神谷君は、おそらくそこに襲ってくるであろうグリグリとズクズクを迎撃してください」
「了解っす」
「わかった」
「じゃあ行きましょうか」
最上が笑い、武虎が拳を突き出し、指川が静かに頷く。




