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現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
第3層“承” 魔素修行

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第49話 進化の兆し

是非、ブックマークか評価を。

私にガソリンをください!!

草原の茂みをかき分けながら、直哉は息を荒げて出口へ向かっていた。

背後からは、かすかに金属音と衝撃音が響いてくる。


「イチカ……聞こえるか……? 返事してくれよ……」

返事はない。

ただ、遠くで続く戦闘音だけが、イチカの沈黙をより不安にさせた。


直哉は草むらに身を潜めながら、出口へ向かって慎重に進む。

4体のイレギュラーから逃げ切ったとはいえ、まだ油断はできない。


「イチカ……頼むよ……返事してくれ……」

呼びかけても、返事はない。

胸の奥が冷たくなり、喉が引きつる。


しばらく続いていた戦闘音が――

突然、ぷつりと途切れた。


「……イチカ?」

嫌な汗が背中を伝う。


「イチカ!!」

叫び声は草原に虚しく反響する。

返事がない。


「イチカぁぁぁ!!」

その瞬間。


『はい、直哉。聞こえています』

あまりにも落ち着いた声が、耳元で響いた。


「……は? お、お前……!」

『お待たせしました。リモート操作にリソースを割いていたため、返事ができませんでした』


直哉はその場にへたり込みそうになる。

「驚かすなよ……! 何かあったのかと……!」


『私の機能は直哉の意識と結びついています。直哉が死なない限り、私も消滅しません』

「いや、そういう意味じゃねぇんだよ……! ……まぁ、無事ならいいけどさ」

胸を押さえながら、直哉は深く息を吐いた。


『まずはダンジョンを出ましょう。

内在魔素が枯渇しており危険です。

それと――第3層で確認したイレギュラー4体が明確に連携していました。

これは異常事態です。ダンジョン課に報告する必要があります』

「……ああ、そうだな」


直哉はうなずき、出口へ向かって歩き出した。


* * *


ダンジョン入口に転送された瞬間、直哉の身体を淡い光が包んだ。

空気が変わり、痛みがすっと消えていく。

裂けた皮膚が閉じ、内出血が引き、痛みが消えていく。

焼け焦げた腕も、毒刃で切られた肩も、すべて元通りになった。

「……はぁ……助かった……」


『直哉、生命反応が安定しました。これでダンジョン課へ向かえます』

「おう。行くか」


ダンジョン課の建物に入ると、受付の職員が直哉の姿を見て驚いたように目を見開いた。


「お疲れさまです。第3層で異常があったと伺いました。詳しくお話を聞かせていただけますか?」

会議室に案内され、直哉は椅子に腰を下ろす。

イチカは念話で直哉に語りかける。


(『直哉、私が観測した情報を順に伝えてください』)

(「わかった」)


職員がメモを構え、直哉は口を開いた。

「まず、第3層で弓のイレギュラー、そいつを倒しに行ったんです。」

「《千弓鬼》ズゴル、ですね?」

「えぇ、そいつです。

いろいろ調べて塔にいるって情報を見つけたんで」

「なるほど」


「ただ、昨日は見つからなくて。

でも塔に痕跡があったんで、今日もう1度行ったんです。そしたら……」

「……?」

「イレギュラー4体が出てきたんです」


「4体のイレギュラー!?

まさか、《雷環》と《双牙兄弟》が?」

「はい、そいつらです。

何とか逃げられたんですが、ものすごい手ごわくて……」


職員は目を見開き、深刻な表情でうなずいた。

「……それは重大な情報です。

イレギュラー同士が連携する例は、ほとんどありません。すぐに上層部へ報告します」


直哉はそのまま言葉を続けた。

報告は細かく続き、戦闘の様子、敵の動きなど、すべて記録された。


* * *


帰宅した直哉は、ソファに倒れ込むように座った。

イチカのホログラムが目の前に浮かぶ。


『では、反省会を始めましょう』

「おう……まずは良かった点からだな」


『直哉の判断速度は向上していました。特に瞬陣と蜻蛉飛び(フリップ・ターン)の回避は見事でした』

「まぁ、あれがなきゃ死んでたしな」


『矢と雷球に対する対処も素晴らしかったです』

「だろ? 俺、あの瞬間だけは天才だったわ」


『調子に乗らないでください』

「はいすみません」

イチカは淡々としているが、どこか呆れたような雰囲気が漂っている。


「イチカの煙幕弾(スモーク・カプセル)音響デコイ(チューチュー・ボット)の連携もよかったよな。

あれで初動の包囲が崩せた」

『ありがとうございます』


「あとさ、謀陣だっけ。

あれ、凄いな。頭が冴えて、見えないところも見えるようになるというか」

『えぇ、側頭葉と後頭葉を集中的に強化しました。

視覚情報と聴覚情報が強化されたことにより、周囲の情報収集能力が大幅に上がったと想像します』


「さすがだな。

で、悪かった点は……山ほどあるんだろ?」

直哉は苦笑しながら促す。


『はい、山ほどあります』

「やっぱりか……」


イチカは淡々と指摘を始めた。

『まず、イレギュラーが4体集まっていることを想定していませんでした。

前例がなくとも想定すべきでした』


直哉はソファに沈み込み、天井を見上げながら苦笑する。

「いや、あれはさすがに予想できないだろ」

『いえ、そういったことまでサポートするのが私の役目です』


イチカの声は淡々としているが、どこか「当然です」という圧がある。

「うーん、そんなもんなのか」

直哉は頭をかきながら、なんとなく納得したような、していないような曖昧な表情を浮かべた。


「あと必殺技だな。

やっぱり初見だと対応できないことが多すぎる」

直哉は腕を組み、悔しさと疲労が混ざったため息をつく。


『こればかりは経験を重ね、対応力をつけるしかないでしょう。

ですが、精神系の攻撃への対処が必要です』


「ズクズクの挑発だよな?」

『グリグリです』


直哉は思わず眉をひそめる。

「似たようなもんだろ。

なんだよ、グリグリとズクズクって!」

『ゴブリンの名前に文句を言っても解決しません』


「まぁでもあいつらの技、どれもやばかったな。

今考えても、よく逃げれたよ」

直哉は思い返すだけで背筋が冷える。

あの矢衾と雷撃の嵐は、今でも脳裏に焼き付いている。


『第3層から連係する敵がメインとなっています。

やはりソロでは難しいのかもしれません』

「トラと一緒に潜る頻度を増やしたほうがいいかもな」

『えぇ、そうですね。

それと攻撃力不足も課題です』


直哉は苦笑しながらバットを見下ろす。

「たしかに、グリグリの防御が突破できなかったな……」

瞬閃四連撃(アクセル・バースト)の改善も必要です。

神速の攻撃とは言え、瞬きする程度の時間が発生しています。

それに反応できる敵には対応されてしまう可能性があります。

技を進化させる必要があります』


イチカの分析は鋭い。

直哉は思わず背筋を伸ばす。

「進化か、でもどうする?」

『時を止めるのです。

そうすれば、まさに防御不能の技に進化するでしょう』


直哉の目が輝く。

「時間を止めるか。そりゃいいな!」

『試行錯誤は必要ですが、魔素を使えば実現できる可能性は高いです』


直哉はふと思い出したように身を乗り出す。

「あー、そうだ、忘れてた!

最後のあれ、いったい何だったんだよ!?」

『分身です』

イチカはさらりと言う。


「分身?」

『はい、魔石とホルダーから大量の魔素を抽出し、作成しました。

アイデアは、直哉のマイリストにあったアニメを参考にしました。

我ながらよい出来だったと評価しています』


直哉は目を見開き、思わず立ち上がる。

「おまっ、人のマイリストを勝手に!」

『性的趣向を見ることは忌避されることが多いと把握しています。

そのため、そういった領域にはアクセスしていませんのでご安心ください』


「安心できないよ!」

直哉は頭を抱えた。


イチカは話題を切り替えるように、少しだけ声のトーンを落とした。

『それと、発明品の使用タイミングについても改善が必要です』


直哉はビクッと肩を跳ねさせる。

「うっ……来たか」

『状況判断や身体強化だけで済む場面でも発明品を使っていました。

結果として、消耗が激しくなりました』


イチカの言葉は淡々としているが、どこか呆れが混ざっているようにも聞こえる。

「いや、あれは……反射的に……」

『反射的に使うのはやめてください。

素早く能力特化の強化を発動できるよう、練習が必要です』


直哉はしゅんと肩を落とし、素直にうなずいた。

「……はい」


『直哉、ダン活アプリを開いてください』

「ん、何かあるのか?」

直哉はスマホを取り出し、画面を開く。

イチカは淡々と続ける。


レベル:13

体力:48

筋力:49

敏捷:57

器用:39

知力:38

特殊能力:現象伝導(フェノメナル・リンク)時穿つ瞳(クロノス・ハック)瞬閃四連撃(アクセル・バースト)

特殊能力イチカ分体生成(アバター)

内在魔素:212

内在魔素イチカ:136


「え、アバター?」

直哉は目を丸くする。


『はい。

逃走した際に使用したものが技として固定されたようです』

イチカはどこか誇らしげだ。

直哉は呆れ半分、感心半分でため息をつく。

「……なんか、すげぇことになってきたな」


『では――反省会は以上です。次は改善に取り組みましょう』


直哉はバットを握り直し、決意を込めて頷いた。

「おう。次は絶対、勝つぞ」

『はい。次は勝ちましょう』


その声は淡々としているのに、不思議と温かかった。


* * *


翌日。

第3層では、4体のイレギュラーが別の探索者たちを襲っていた。


3人組の探索者が慎重に草原を進んでいた。

だが、突如として狙撃される。


なんとか防ぐも、地面から飛び出した2つの影が探索者に襲いかかる。


逃げようとした瞬間、進路を塞ぐように矢と雷球が襲いかかる。

攻撃のタイミングも一致しており、3人は防戦一方のままリエントリーエリアに転送された。


被害は探索者側のみ。

イレギュラーはほとんど傷を負っていなかった。


* * *


また別の時には、2人組の探索者が戦っていた。

だが、相手は4体。


2人を分断するように動き、影から影へと移動する双子。

上空から雷球を放つモルバグ。

遠距離から矢を撃ち込むズゴル。


数十秒で戦闘は終わった。

こちらも、イレギュラー側の損害はほぼゼロだった。


* * *


ダンジョン課の会議室では、職員たちが報告書を前に沈黙していた。


「……4体が連携して探索者を狙っている。しかも少人数を優先的に……」

「対策を考えなければなりませんね」


「このままでは犠牲者が増える。早急に対策班を編成する必要がある」

4体のイレギュラーがもたらす脅威は、すでに無視できない段階に達していた。


物語は、次なる危機へと進んでいく――。

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