第48話 殺意の嵐
是非、ブックマークか評価を。
私にガソリンをください!!
「……っはぁ、はぁ……」
直哉は荒い息を吐きながら、肩に走る痛みに顔をゆがめた。
血が草を濡らし、腕には焼け焦げた痕が残っている。
矢の傷、雷球の痕、毒刃の切り傷――体にはどんどん傷が増えていく。
『直哉、魔素残量は68%。このままではじり貧です』
「わかってる……でも、ここで終わるわけにはいかねえ!」
視線の先では、グリグリとズクズクが再び距離を詰めてくる。
その背後で、ズゴルの弓が白光を帯び、モルバグの雷球がうなりを上げていた。
四方から殺意が迫る――まるで出口のない檻だ。
「……イチカ、アクセル・バーストいくぞ」
『グリグリですか?』
「ああ、そうだ。あいつさえ倒せば、まだ逃げる目がある」
『わかりました、一撃で決めましょう』
「ああ、頼むぜ相棒。
行くぞ……!」
直哉は地面を蹴り、グリグリの横にいる“ズクズク”に仕掛ける。
させまいと、グリグリが能力を発動する。
「ミロ……ミロ……!(俺を見ろ)」
「それを待ってたよ、イチカ!」
『時穿つ瞳発動』
直哉の左目に幾何学模様が浮かび、燐光がまたたいた。
世界が粘性を帯び、水中のようにゆっくりと動き出す。
グリグリのいやらしい嗤い顔もはっきりと見える。
「アクセル・バースト!」
『身体強化【砕陣】』
瞬閃四連撃の青いオーラが弾け、イチカが発動した砕陣の赤いオーラがバットに渦巻く。
「うおおおおっ!」
決まった、と思った瞬間――
ズクズクが低くつぶやいた。
「チョロ……チョロ……!(影から影へ)」
ドプンッ!
まるで水に潜るように、ズクズクの身体が影に沈み込む。
その影に触れていたグリグリも同時に影へと吸い込まれ、直哉の必殺の四連撃は、空を切った。
「なっ……!?」
次の瞬間、2体は草原の別の影から姿を現した。
「嘘だろ……!」
* * *
直哉が呆然と立ち尽くした、その刹那――
考える暇も与えないかのように、4体が一斉に動いた。
ズゴルが低くつぶやき、弓を引き絞る。
ギィィンッ!
弦が悲鳴を上げ、矢が空へと放たれた。
1射、2射、3射――矢は光を纏いながら空中で滞留し光が重なるごとに、空が白く染まっていく。
同時にモルバグが杖を背後に浮かぶ雷球に振り下ろした。
ドンッ!1時の位置の雷球が消える。
ドンッ!2時の位置の雷球が消える。
ドンッ!3時の位置の雷球が消える。
鈍い衝撃音とともに次々と消え、空に黒雲が渦を巻き始める。
雷鳴が低く唸り、空気が焦げる匂いが漂った。
視線を走らせると――双子の姿がない。
「……っ!」
グリグリとズクズクは、影に沈んでいた。
まるで水に潜るように、ドプンッ!と影が波紋を広げ、2人の気配が消える。
その瞬間、ズゴルの矢が12本目に達し、
バチィィィンッ!
光が弾け、空を覆う矢衾へと変貌した。
同時に、12の雷球が黒雲に変わり、
ゴロロロロッ! バリィィィンッ!
稲妻が草原を焼き尽くす勢いで降り注ぐ。
「っ――!」
直哉の視界が殺意で埋め尽くされる。
矢の雨、雷の奔流――
足が一瞬、止まった。
(『動いて! 死にます!』)
イチカの声が脳内に炸裂する。
「くそっ……!」
『空に活路!』
「わかった!」
イチカの言葉を信じ、蜻蛉飛びを使って空に向かって駆ける。
『時穿つ瞳、身体強化【謀陣】発動』
時間が軋み、世界がスローモーションに変わる。
矢の軌道が線となり、稲妻の放電がゆっくりと蠢く。
直哉の脳が冷たく研ぎ澄まされ、脱出ルートが鮮明に浮かび上がった。
「……見えた!」
直哉はさらに空を蹴る。
迫り来る矢衾を――
「切り裂け、クリムゾン・インパクト!」
『変幻武器ハルバードモード展開』
バットをハルバード型のエネルギーフィールドが纏う。
刃が唸りを上げ、
ザシュッ! ザシュッ!
矢を切り落としながら、時に盾にしながら空を駆け抜ける。
死角で稲妻が轟き、
バリィィィンッ! ゴロロロロッ!
雷光が草原を焼き尽くす。
だが謀陣によって知覚能力が上がっている直哉は瞬陣を発動し、さらに蜻蛉飛びで軌道を変える。
その速度は稲妻をも凌駕し、
ヒュンッ! ヒュンッ!
雷撃を紙一重でかわす。
直哉が矢を切り裂きながら空を駆け抜ける中、視界の端で白光が弾けた。
「っ――!」
いくつもの矢がさらに散弾矢となって直哉の視界を埋める。
時穿つ瞳で時間が遅く見えても――
「かわしきれな―!」
『身体強化【岩陣】』
バチィィィンッ! ガキィィィンッ!
光の矢が瞬時に展開された黄色いオーラによって威力が大幅に減る。
「助かった……!」
ダメージが無いわけではないが、耐えられないほどでもない。
『左上、身体強化【瞬陣】』
「了解!」
直哉は再び蜻蛉飛びで宙を舞い、戦場を駆け抜ける――。
世界が再び通常の速度に戻った瞬間、背後で雷鳴が轟き矢の雨が草原を抉った。
* * *
「っぐ……!」
地面に着地すると、腕に焼ける痛み、肩に走る激痛――いくつもの傷が増えている。
時間にしてほんの数瞬の矢衾と稲妻との邂逅だったが、それを直哉は必死に駆け抜けた。
「……なんとか、避け切った……!」
4匹もあれを避けられると思っていなかったのか、呆然としているように見える。
その時、イチカの念話が響いた。
『直哉、いい手があります。
説明している時間はありませんが、全てのチャージと魔石を使ってしまいますが、逃げられる可能性は33%です。
実行してよいですか?』
「……33%?」
直哉は息を呑む。
「挑発は?」
『なんとかできると思います』
「わかった……やってくれ!」
『了解。私が煙幕弾を使ったら、帰還ゲート方向へ全力で走ってください。
身体強化:剛と【瞬陣】を使えば、追い付かれないはずです』
「……了解」
『カウントダウン開始――3、2、1』
バァンッ!
煙幕弾が炸裂し、白煙が草原を呑み込む。
「うおおおおっ!」
直哉は身体強化:剛【瞬陣】を発動し、脚に力を込めて地面を蹴った。
ドンッ!
草原が流れ、風が耳を裂く。
白煙を切り裂きながら疾走する感覚――だが、背後で何かが動いた。
気のせいか、自分の体から黒い影が逆方向に走ったように見えた。
「……今の、何だ?」
問いかける暇もなく、背後で雷鳴が轟き、
ゴロロロロッ! バリィィィンッ!
矢が空を裂く音が耳を刺す。
金属が弾けるような衝撃音が混じり、戦場の殺意が煙の奥で蠢いていた。
だが――煙から抜けた瞬間、直哉は異変に気づいた。
「……戦闘音?」
背後から、ガキィィンッ! ザシュッ!と金属音と衝撃音が響いてくる。
それは、誰かが必死に戦っている音だった。
「なんだ……?」
直哉は走りながら振り返った。
そこには――もう1人の自分がいた。
煙の中で、双子と激しく戦っている。
「……あれはなんだ、イチカ!」
問いかけるが、返答はない。
「イチカ……!?」
耳に響くのは、戦場の轟音だけだった。
* * *
直哉は戦闘圏外まで逃げ、膝に手をついて荒い息を吐いた。
草原の風が頬を撫でるが、その音さえ遠く感じる。
「イチカ、答えろ!」
だが――沈黙。
耳に響くのは、自分の荒い呼吸と、遠くで轟く雷鳴だけ。
「……イチカ?」
もう一度呼びかける。
返答はない。
直哉は走りながら、何度も問いかけた。
「イチカ! 聞こえてるだろ!」
「返事しろよ……!」
声が嗄れ、喉が焼けるように痛む。
それでも――沈黙。
胸の奥に冷たいものが広がっていく。
「……まさか」
直哉の脳裏に、一つの可能性が浮かぶ。
――さっき自分から出た黒い影は、何らかの方法で分離したイチカなのでは?
だが、もしそうなら……イチカは、戻らないのか?
「……嘘だろ」
直哉は足を止め、振り返った。
煙はまだ遠くで渦を巻き、雷光がその奥を照らしている。
戦闘音が途切れない――金属がぶつかる音、衝撃音。
「イチカ……?」




