第46話 塔の決戦
是非、ブックマークか評価を。
私にガソリンをください!!
「よし、今日こそ倒す。
今日はいるだろ。
なぁいるよな、イチカ!」
『落ち着いてください。
昨日の様子から、塔を住処にしている可能性は非常に高いです。
あとはタイミングだけでしょう』
「くそー、今日はいてくれよー」
直哉は心の中でそう繰り返しながら、バットをグルグル回しながら再び塔へ向かう。
前回は肩透かしを食らってしまった。
帰り道に、ついでとばかりにゴブリン狩りで憂さを晴らした結果、魔石は43個貯まった。
ホルダーのチャージも13回分フル充填した。
これ以上ないほどの万全の状態だ。
イチカの声が脳内に響く。
『魔石のチャージは十分です。
おそらくイレギュラー個体は、以前の2つ頭と同程度の実力のようです。
落ち着いて叩けば勝機はあります』
「わかってる。今回は身体強化:剛もあるしな。
イチカもいいタイミングで砕陣を頼むぜ」
『お任せください』
* * *
塔のシルエットが視界に入る。
距離は約1キロ。直哉は身を低くし、茂みに紛れながら慎重に進む。
「大分近くなってきたな」
『はい、残り500メートル。ここからは索敵範囲に入る可能性があります』
イチカの警告に、直哉は息を整えながら頷く。
その瞬間――
キラッと光が走った。反射的に身を捻ると、魔素で形成された矢が地面に突き刺さり、石片が飛び散った。
「っぶねぇ!」
『回避成功。
ですが、すでに位置を特定されていたようです。
速やかに接近してください』
「わかった!」
直哉は全力疾走に切り替える。
距離500メートル、今なら40秒もあれば到達可能だ。
走りながらイチカに声を掛ける。
「イチカ、残り200メートルになったらスモークを撒く。タイミングは任せるぜ」
『了解しました』
* * *
走りながら、直哉は矢の速射に驚愕した。
耳を裂くような鋭い風切り音が、ほぼ1秒間隔で迫って来る。
塔の上から放たれる矢は、どれも正確無比。
わずかなブレもなく、直哉の急所を狙い撃っていた。
普段なら回避だけで精一杯だが、今回はイチカの冷静なアドバイスがある。
『左へ2歩、次は跳躍!』
その声に従い、直哉は紙一重で矢の軌道を外す。
矢が頬をかすめ、熱を帯びた風が皮膚を焼くように過ぎる。
1射ごとに命を奪う精度を秘めているその矢を、直哉は全速力を維持しながら、なんとか回避する。
矢が唸りを上げて迫る。
直哉は地面を蹴り、蜻蛉飛びで身を翻した。
背中すれすれを白光の矢が抜け、地面に突き刺さる瞬間、石片が弾けて頬をかすめる。
「っ……!」
息を吐く間もなく、次の矢が来る。
「ガーディアン!!」
掛け声とともに、ホルダーから防御壁が射出され展開。
青色の半透明なエアバックが瞬時に立ち上がり、矢を包み込むように巻き取る。
だが、矢の嵐は止まらない。
次の矢が迫る。
直哉はバットを握り直し、軌道を逸らすようにそっと傾ける。
金属音と共に矢が軌道を逸れ、破片が散弾のように飛び散る。
頬に熱い痛みが走り、視界の端で地面が抉られる。
「くそっ、速ぇ……!」
それでも足は止めない。
『あと作戦地点まで28メートルです。
……正面に今までと違う魔素反応、注意してください!』
「なんだ……!?」
放たれた矢が空中で白光を放ち、散弾のように分裂した。
10数本の光片が扇状に広がり、直哉を包囲するように迫る。
「うぉぉぉ、まじ、かよっ!!」
『直哉、右斜め前へ! 全力で!』
イチカの声に反応し、直哉は地面を蹴り、バットで一片を弾き飛ばしながら滑り込む。
背後で炸裂する衝撃が、熱風となって背中を押した。
「面白ぇ……!」
息を荒げながらも、直哉の胸は高鳴っていた。
矢の嵐を突破しながら、心の奥で強敵との対峙に昂ぶる感覚が芽生えていた。
『作戦地点まで、あと8メートル。
煙幕弾を使います』
「あぁ、頼ん……」
だが――その瞬間、
轟音と閃光が視界を焼いた。
* * *
爆発の衝撃で地面が揺れ、直哉は思わず膝をつく。
耳鳴りが響き、視界は粉塵に覆われる。
「な、何だ今の……!?」
『わかりません。ですが、一瞬、稲妻のような光を検知しました』
粉塵が収まると、地面は黒く焼け焦げ、草は炭のように崩れ、ところどころから白い煙が細く立ち上がっている。
爆発の衝撃で土がめくれ上がり、浅いクレーターが点在し、焦げた草の匂いが鼻を刺した。
「……なんだよ、これ……」
直哉は息を呑む。
足元の土はまだ熱を帯び、踏みしめるたびに靴底がじりじりと焼ける感覚が伝わってくる。
『塔の5階に新たな敵影です』
それを聞いて5階に視線を上げるとそこには――
稲妻を帯びた杖を握る、小型のゴブリンが立っていた。
杖の先端には青白い雷光が脈打っている。
4階部分には――
巨大な弓を構えた長身のゴブリン。
目隠しの布を巻き、静かに弓を引き絞っている。
その弓は、常識外れの3メートル級。
弓を引くと、白い光が凝縮されていくのが見える。
おそらく、こいつが狙撃してきたゴブリンなのだろう。
「おいおい……なんで2体もいるんだよ」
直哉が呟いた瞬間、背後から足音が迫る。
振り返ると――
似た顔のゴブリン2匹が両手に毒の滴るダガーを構え、駆け寄ってくる。
どちらのゴブリンにも、全身に蛇がのたうったような入れ墨を入れている。
「おいおいおい、なんだよ、これ」
『いずれからも魔素反応を確認。
姿形もデータベースと一致します。
《雷環》のモルバグ、《千弓鬼》ズゴル。
そして《双牙兄弟》グリグリとズクズクです』
「ばっか、イチカ!
名前なんてどうでもいいじゃん、なんで全部ここにいるんだよ!
どうすんだよ!?」
《双牙兄弟》グリグリとズクズクが、毒刃を握りしめたまま距離を詰めてくる。
20メートルほどの距離まで近づいてくると、2体は速度を緩め、互いに視線を交わす。
左右に広がり、塔を起点に円を描くようにゆっくりと包囲を形成し始めた。
その背後、塔の方でバリバリと音がする。
視線を上げると、雷を帯びた杖を握るゴブリンが宙に浮かび上がっていた。
ローブの裾が風に舞い、杖の先端から青白い稲妻が迸る。
ゴブリンは無言のまま、ゆっくりと高度を上げ、直哉を見下ろす位置で静止する。
杖を時計回りに回すと、後を追うように12個の雷球が時計盤のように並び、バリバリと音を立てる。
「……マジかよ」
直哉の喉が乾く。
「囲まれた……」
直哉は歯を食いしばり、バットを握りなおす。
《双牙兄弟》グリグリとズクズクは少しずつ距離を詰め、《雷環》のモルバグは空中から包囲を狭めていく。
塔の上では、巨大な弓を構えた《千弓鬼》ズゴルが、白光の矢を引き絞り、狙いを定めている。
四方から迫る殺気。
草原は静まり返り、風の音すら消えた。




