第44話 初陣で砕陣
最近の直哉だが、もっぱら強くなるために探索を行っている。
もともとはバイトの代わりに探索をしていたが、前回の砦イベントの報酬で、口座残高は三桁万円近くになった。
けれど高校2年生――あれ、そんなに使いたいものがない。
服もスマホも十分だし、ゲームは家でできる。
むしろ、一生懸命お金を稼ぐより、藤堂道場で魔素の特訓をしたほうがいいんじゃないか?そう考えて、放課後は藤堂道場で修行の毎日だ。
魔素の枯渇、回復、模擬戦を繰り返す日々は、精神的にかなりきつい。
全身の魔素を絞り切って、ゼロに近い状態で膝をつくことも珍しくない。
それでも、成果は確かに出ている。
ダン活アプリで確認できる魔素量が、ほんの少しずつだが上昇しているのだ。
数字が増えるたび、努力が報われる感覚がある。
さらに、身体強化の基礎も進化してきた。
通常の身体強化をさらに強化した、――身体強化:剛。
これを使うと、今まで2割増しだったステータスがなんと5割増しになるという、チート技だ。
加えて、岩陣、砕陣、瞬陣、技陣、謀陣といった特化型も日替わりで練習するようになっている。
藤堂の道場は、まさに魔素の総合格闘技場だ。
毎日が限界突破の連続で、直哉の技量は確実に上がっていった。
* * *
週末、直哉は第3層の草原フィールドに向かった。
第3層はゴブリンの住処――ゴブリン、弓兵、ライダー。そして、稀にホブゴブリン。
どれも集団で動くため、索敵は慎重に行う必要がある。
「さて……今日は剛の初実戦投入だ。やるぞ、イチカ!」
『えぇ、お任せください。サポート体制は万全です』
直哉は草原を歩きながら、耳を澄ませる。
風に混じって、かすかな声――ゴブリンの甲高い鳴き声が聞こえた。
だが、姿は見えない。丘を迂回し、慎重に進む。
足音を殺し、草を踏む音すら最小限に抑える。
視線を左右に走らせながら、岩陰や木立を利用して移動する。
時折、遠くに黒い影が見えるが、数が多いときは無理に近づかない。
「……いた。3体。ゴブリンと弓兵、それにライダーか」
距離はまだある。
直哉は身を低くして、岩陰に隠れる。
弓兵の視線を避けながら、呼吸を整えた。
* * *
「よし、いくぞ――身体強化:剛!」
『ステータス上昇率約1.5倍。良好です』
魔素を体から迸らせ一気にトップスピードまで加速し、ゴブリンに接近。
ライダーが反応するより早く、バットを横薙ぎに振るった。
――ドゴッ!
ゴブリンが吹き飛び、地面に叩きつけられる。
普段よりも深い衝撃。確かに強い。
弓兵が矢を放つ前に、イチカが反応し煙幕弾を発動。
白煙が広がり、視界を遮る。
「ナイス、イチカ!次はライダーだ!」
煙を抜け、剛を乗せた一撃を叩き込む。
馬代わりの獣が悲鳴を上げ、ライダーが転げ落ちた。
* * *
戦闘後、身体強化:剛を切る。
直哉は深呼吸し、再び索敵を開始する。
しばらく探していると、遠くで複数の声が重なる。
ゴブリンの群れだ。
「……やばい、数が多いな」
『右奥に窪みがあります、そこに身を潜めてください』
直哉は窪みに身を潜め、息を殺す。
ゴブリンたちがすぐ近くを通り過ぎる。
心臓が跳ねる音がやけに大きい。
群れが去った後、直哉は慎重に移動を再開する。
だが、次に現れたのは――ホブゴブリン。
通常のゴブリンより一回り大きく、筋肉質。
手には鉄製の棍棒を持っている。
「よし、……次はこいつだな」
* * *
『ホブゴブリンの周囲に敵兵なし、チャンスです』
「いくぜ、剛!!」
直哉は再び身体強化:剛を発動する。
全身に圧がかかり、筋肉が膨張する感覚が走る。
しかし、ホブゴブリンも直哉の動きに反応し棍棒を振り下ろす。
それに合わせるように直哉が叫ぶ。
「クリムゾンッ!」
掛け声に合わせ、イチカが即座に反応する。
『タクティカル・フォージ、起動――グレートソードモード、展開します』
バットにグレートソードを象ったエネルギーフィールドが形成された瞬間、直哉は息を呑んだ。
――今回のグレートソードは一味違う。
いつもは白いエネルギーフィールドで形成される刃が、真っ赤に輝いているのだ。
赤い光が脈打ち、空気がブブブブブッと震える。
「な、なんだこれ……!」
戸惑いながらも、直哉は迫る棍棒に向かって剣を振り抜いた。
――ズガァン!
ホブゴブリンの棍棒があっけなく砕け、そのまま勢いで胴を切り裂いた。
巨体が地面に崩れ落ちる。
直哉は呆然と立ち尽くす。
『変幻武器のエネルギーフィールドに砕陣の特性を付与してみました』
「してみました、ってお前……」
『変幻武器に砕陣の特性を付与することで、攻撃力が1.32倍になることを確認。
よい成果です』
「いや、すげぇけれども! ……成果とかそういう問題じゃねぇだろ!」
* * *
その後も何度か戦闘をくり返し、魔石も増えホクホク顔の直哉だが。
『内在魔素の残量が27です。
身体強化:剛を使った場合、15.3秒で魔素が枯渇します』
「さすがにちょっと調子乗りすぎたか……」
剛と砕陣の連続使用で、足も若干もつれる。
『左前方、33メートル先に敵です』
「まずい……隠れるぞ!」
直哉は岩陰に転がり込み、息を殺す。
すぐ近くをゴブリンの群れが通り過ぎる。心臓が跳ねる音がやけに大きい。
時どき瞑想も行って魔素の回復を図るが、いつもと環境が違うためか、回復速度が遅い。
少し魔素が回復したところで、帰還ゲートへ向う。
途中で会敵したゴブリンに殴りかかるも、2体目のゴブリンを倒したところで、再び魔素が枯渇。
通常の身体強化も使えず、素の能力値で必至に戦う。
「くそっ……身体強化なしだときっつい!
イチカ、最短で安全な道をナビゲートしてくれ」
『承知いたしました』
這う這うの体で帰還ゲートへ駆け出す。
途中、足がもつれて何度も転び、ゴブリンに追われながら、なんとか脱出に成功した。
* * *
帰宅後、直哉はベッドに倒れ込みながらイチカと話す。
「いやぁ楽しかったけど、さすがにはしゃぎすぎたな……」
『ですが、収穫は大きいです。剛の実戦適用、砕陣との連携――全て有効でした』
「だな。身体強化:剛も少しだけ慣れてきた。
次からはイチカのサポートなしでも発動できそうだ。」
『そうですね、では次は攻撃や防御に合わせて砕陣や岩陣をサポートします』
「俺の魔素が枯渇しない程度で頼むぜ」
『大丈夫です、まずは私の魔素を使ってサポートします』
直哉は笑った。
今日の発見は価値がある――そう思えたからだ。




