表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
第3層“承” 魔素修行

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/51

第42話 武虎という男

冬の朝は冷たい。吐く息が白く溶け、教室の窓ガラスには薄い曇りがかかっていた。

俺はペンを走らせながら、心の中で小さく笑った。

(……やばい、これ、マジで効く)


魔素を脳に集中させると、視界が澄み、理解度が上がる。

公式の意味が直感で理解でき、記憶が水を吸うスポンジみたいに染み込んでいく。

学業については、知力に寄せた身体強化をすることで、理解力や処理能力が大幅にアップすることを発見。

それを使い、成績がぐんぐんと上がっている。


(『直哉、これは本来の用途ではありません』)

耳元でイチカの声が響く。冷静だが、わずかに呆れを含んでいる。


(わかってるけど、これすごいんだよ。昨日の小テスト、自己最高点だぜ?)

(『……魔素修行になるなら、黙認します』)

(だろ? 脳の処理速度も鍛えられるし、一石二鳥ってやつだ)


イチカはそれ以上何も言わなかった。

俺はペンを走らせながら、心の中でガッツポーズを決める。

学業も探索も、どっちも成果を上げる――それが今の俺のテーマだ。


探索の方も順調だ。

砦攻略でレベル12に上がり、昨日の探索で13に到達。

ステータスは大幅に上昇し、魔素量も増えた。


レベル:11→13

体力:37→48

筋力:38→49

敏捷:45→57

器用:30→39

知力:28→38

特殊能力:現象伝導(フェノメナル・リンク)時穿つ瞳(クロノス・ハック)瞬閃四連撃(アクセル・バースト)

内在魔素:185→292

内在魔素イチカ:92→136


(『現在、レベル13。

第3層平均に近づきつつあります』)


(レベル10を超えてから、ステータスの上がり方が倍ぐらいになってない?)

(『はい、そのようです。

レベル10までは平均2.8でしたが、10以降は平均4.7です。

これらも第3層と第4層の探索者の力が違う理由の1つだと思われます。』)


(敏捷も57か。アクセル・バーストの速度も上がるな)

俺はスマホを閉じ、深く息を吐いた。


(アクセル・バーストも同時に4連撃まで出来るようになった。夜の部が楽しみだぜ)

夜になれば――藤堂道場の夜の部だ。

そこが、今の俺にとって最大の修練場になる。


* * *


夜の道場は昼とは別世界だった。

畳の匂いに混じる鉄の匂い、空気の重さ、張り詰めた緊張感。


藤堂道場の「裏」と呼ばれる門下生たちには昼の部と夜の部がある。

昼の部は魔素を使い始めた人たちが多く、夜の部は魔素能力者のベテランが多い。

そのため、夜の部では第4層に潜っている探索者も参加しており、とてもレベルが高い。


俺は道場の隅でストレッチをしながら、心臓の鼓動を感じていた。

(……やっぱり、空気が違う)


第3層の探索者なら、今の俺でも五分に渡り合える。

だが、第4層の連中は――まるで別の生き物だ。

一歩踏み込むだけで、空気が裂ける。

視線を合わせるだけで、背筋が冷える。


「神谷、準備はいいか?」

藤堂武虎――心眼流迅術の使い手であり、俺の友達でありライバルだ。

今のところ模擬戦では俺が全敗している。


原因は魔素量だ。

身体強化が途中で切れてしまうこと、そして武虎の身体強化の使い方がうまいこと。

ステータス差は縮まってきたが、魔素量の差が圧倒的で、まだ勝てない。


俺は立ち上がり、深く息を吐いた。

「よし、今日こそ勝つ!!」

武虎が笑う。

「お、今日はやる気だな。負けたらジュース奢りな」

「勝ったら倍返しだ」

軽口を交わしながら、畳の中央へ歩み出る。


* * *


お互いが身体強化を発動し、魔素が渦巻く。

「始め!」

号令と同時に、武虎が踏み込む。

掌底が風を裂き、俺の胸を狙うが、ほんの少しだけ体を動かし打点をずらす。


「お、今日は本気モードか?」

武虎が笑う。

「当たり前だろ。そろそろ一発くらい入れたいんでな!」


攻防が始まる。

掌底を受け止めるたび、骨が軋む。

(……まだ押されるか!)

俺は呼吸を整え、次の一手を試す。


(イチカ、最上さんが言ってた強度のやつ、できるか?)

(『了解。魔素の出力をサポートします』)


白いオーラが瞬時に凝縮し、炎の揺らめきが爆ぜて、噴き上がる奔流へと変貌する。

ゴォウッ――低い轟音が空気を震わせ、圧縮された力が肌を焼き、血管を駆け抜ける。

(……これが“強度”か!)


次の瞬間、俺は踏み込み、武虎の掌底を弾き返した。

白いオーラが噴き出すように揺らめき、腕に力が宿る。

「おっ、やるな!」

武虎が笑う。


俺はさらに一歩踏み込み、拳を鳩尾へ――武虎がわずかに後退する。

(……いける!)

その一瞬だけ、俺が優勢だった。畳が軋み、空気が震える。


武虎の口元がわずかに笑う。

「お前、急に強くなったな。チートでも使ったか?」

「努力だよ、努力!」


だが――代償は大きかった。

(『内在魔素の消費率が通常の3倍です』)

(わかってる……でも、今は押し切る!)


攻防を続けるうちに、内在魔素の残量が半分を切った。

このままだと押し切れる感じがしない。

(……もう一手、見せるしかない)


(イチカ――やるぞ!)

(『合わせます。時穿つ瞳(クロノス・ハック)発動』)


直哉の左目に幾何学模様が浮かび、燐光が瞬いた。

世界が粘性を帯び、水中のようにゆっくりと動き出す。

武虎の動きが鈍り、掌底の軌道が見える。

俺は敏捷特化の身体強化を最大まで引き上げ、踏み込んだ。


「アクセル・バースト!」

青いオーラが爆ぜ、空間に青の軌跡を刻む。

1閃、2閃、3閃、4閃――

肩、鳩尾、脇腹、膝。

不可避の連撃が空間を裂き、雷鳴のような衝撃が畳を震わせる。


だが――

武虎の口元が、ほんのわずかに笑ったように見えた。

瞬閃四連撃(アクセル・バースト)を発動した瞬間、俺の世界は加速し、武虎に俺の動きが見えない――はずだった。

なのに、武虎には余裕があった。

それを証明するように、白いオーラが黄色く変わり、まるでゴムを殴ったように衝撃が通らなかった。

有効打撃が入ったのは肩だけだ。


「神谷が何か企んでるのはわかったが、まさか見えないほどの神速の攻撃とは驚いた」

武虎は肩を軽く回しながら笑う。

「でも、オーラを防御に寄せれば、あとは気合でなんとかなるんだよ!」

その言葉と同時に、武虎が反撃する。


武虎が素早く前へ踏み込む。

俺は拳を構えたまま応じるが、身体強化の残り時間が急速に削れていくのを感じる。


身体強化の強度を高めたことで魔素の消費は激しく、時穿つ瞳(クロノス・ハック)でさらに限界が近い。

(……やばい、もう切れる!)


武虎はそれを見抜いていた。

「ほら、足が止まってるぞ!」

掌底が肩を打ち、俺は踏み込みで応戦するが、次の瞬間には武虎の膝蹴りが鳩尾をかすめる。

畳が軋み、息が詰まる。

俺も拳を返すが、黄色いオーラに阻まれ、衝撃は吸収される。


攻防が続く――3合、4合、5合。

そのたびに、俺のオーラは薄れ、動きが鈍る。

(……やばい、これ以上は)


最後の掌底が頬を打ち、視界がぼやける。

決着は、武虎の冷静な間合い管理と、俺の魔素切れによって静かに下された。


* * *


「……くそ、また負けた」

俺は畳に倒れ込み、荒い息を吐いた。

武虎が笑って手を差し伸べる。

「でも、面白かったぜ。お前、確実に強くなってる」

「強くなっても勝てなきゃ意味ねぇよ」


「そう簡単にやられてたまるかよ。

それに昼の部じゃ、そこそこいいとこまで行けるようになったんだろ?」

「まぁね」

俺は武虎の手を握り、立ち上がった。


「次は勝つ」

「その意気だ。でも負けたからジュース奢りな」

「くっそ!!」

笑い合いながら、次こそはと心の奥で決意を固めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ