【閑話】第3話 帝国の野望
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オルティア帝国・中央魔導塔。
黒い稲妻が刻まれたような尖塔が高空を突き刺すようにそびえ立つその建造物は、
帝国の歴史と権威、そして底知れぬ野心の象徴だった。
千年を超える魔導文明の集積地。
帝国の魔導士であれば誰もが一度は憧れる場所であり、
同時に“秘密と陰謀”が渦巻く禁断の心臓部でもある。
塔の最上階には、窓のない円形の部屋。
無数の魔刻文が淡く光り、中央には古代から続く儀式台が置かれていた。
その上に静かに鎮座しているのは――
「移送門を封印した“封印核”の1つ」
深淵のような黒色。その中心には揺らめく銀の靄。
封印が作動したときに生じた“異質な魔力反応の塊”で、
触れれば微弱な心拍のような波動を返している。
魔導院長――ガルゼン・ローヴァは、
深い皺に影を宿した眼差しでその核を見下ろした。
「……これが、エルド・フェルミナの残した“封印核”のひとつか」
その声は驚きでも恐れでもない。
ただ、欲望を押し隠した確信だけが滲んでいた。
側近の魔導士が緊張した声で続ける。
「封印核は世界中に散らばりました。
位置は完全に不明……魔力痕跡も不安定で、我々の測定装置では追えません。
地脈との同調も途中で切断されており――」
「分かっておる」
ガルゼンは手で制した。
薄い唇がゆっくりとつり上がる。
「ならばこそ――冒険者に任せればよい。
“地図にない場所”を踏破し、
“まだ見ぬ存在”を見つける……
あの連中の本領はそこにある」
彼が指を鳴らすと、
重厚な扉が、地の底から唸るかのような重低音と共に開いた。
* * *
入室してきたのは3人。
その空気だけで、この場の緊張が1段階引き締まった。
### レイ・カルナス(元S級)
黒い外套に巨大な大鎌。
闇夜に溶けるような佇まいの男。
元Sランク冒険者で、怪物をも切り伏せる冷徹な判断力と技量を持つ。
### ティア・レヴァンテ(B級)
紅い瞳を持つ考古学者であり、
遺跡の罠、古代文字、魔術構造の解析に長ける天才探索者。
そして何より――
夢の羅針盤の使い手だ。
という特異な特殊能力を持っていた。
夢の羅針盤はどのようなものでも、その位置を知らせてくれる、という能力だ。
その探査能力は右に出るものはいないと言われており、帝国の諜報部隊も舌を巻くほどであった。
### ドロス・ハーガン(S級)
鉄の皮膚を持つと噂される男。
大型魔獣を素手で殴り飛ばし、
竜種の牙さえへし折る“戦闘狂”。
常に無邪気な笑みを浮かべているが、
その拳で破壊できないものはないと言われている。
* * *
ガルゼンは3人を見渡し、低く告げた。
「諸君の任務はただ1つ。
世界に散った“封印核”をすべて回収することだ。
それが何であれ、どんな状態であれ、必ず持ち返ってほしい」
ティアが眉をひそめた。
「……封印核。
一体何を封印して――」
「理由を知る必要はない」
老魔導院長の声は冷たかった。
「わかったわ。
報酬は前もって言った通りでいいのよね?」
「もちろんだ。全力を尽くしてほしい」
「それじゃ早速見ますか」
ティアは息を吸い、手に魔素を集中させる。
「……始めるわ」
目を閉じる。
「夢の羅針盤」
次の瞬間、部屋の空気が一変した。
魔力の流れが渦を巻き、両腕から魔刻文が薄く発光し、
ティアの周囲に円環状の幻像が広がる。
その中心には――“縮尺された世界地図”。
半透明の立体投影として浮かび上がり、
その上には17の“光点”が瞬いていた。
レイが低く呟く。
「これが……封印核の場所か」
ティアはわずかに眉をひそめながら言う。
「ええ……場所は世界中に散らばってる。
この光点のひとつひとつが封印核の反応……」
だが、声が震えていく。
「でも――見て。
いくつかは……“動いてる”わ」
レイとドロスが目を見開いた。
「動いている?」
ドロスがあっけらかんと続ける。
「つまり……誰かが持って歩いてるか、
モンスターの腹にでも入ったってことか?」
ティアは首を横に振る。
「それなら“歩くような軌跡”になるはず。
でも、この光点は……まるで“泳ぐ”みたいに、
地脈の中を滑るように動いている……」
レイが険しい表情で言う。
「核が……生き物の魔力と結合したのかもしれないな」
「……まだあるの」
ティアの声には、先ほどまでとは違う“恐怖”が混じっていた。
「しかも2つの封印核……
おそろしく濁った光があるの。
光と言うより……“濁流の塊”。
他の核とは、まるで別物……
何かが……苦しんでる“声”みたいなのが聞こえる……」
「声?」
レイが反応した。
ティアは震える唇を押さえ、首を傾げた。
「説明できない……
それは生き物の声じゃない。
でも“物”の反応とも違う。
心の欠片……残響……
……とにかく気持ち悪いの」
ガルゼンは冷笑を浮かべた。
「問題ない。
核が何であろうと――回収すればよい。
あとは我々が解析する」
レイは表情を変えないが、
ティアは不安そうに、ドロスはわずかに険しい表情になる。
胸の奥に浮かんだのは、
漠然とした警告めいた感覚。
――触れてはいけないものでは?
そんな思いが頭をかすめる。
だが任務は始まってしまった。
冒険者たちは視線を交わし、
不安と決意を胸に、部屋を後にする。
円卓に残った封印核だけが、
まるで彼らの背中を嘲笑うように、
淡い脈動を静かに繰り返していた。




