表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
第3層“起” 魔素能力者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/44

第39話 砦攻略戦 ― 灰燼と疾風と瞬閃

是非、ブックマークか評価を。

私にガソリンをください!!

階段を駆け上がった瞬間、鼻を突く悪臭が襲ってきた。

血と腐敗臭、獣の体臭が混ざり合い、喉の奥に重くまとわりつく。

視界に広がったのは――賽の目状に区切られた居住区。

小さな部屋が並び、壁には黒い手形がべったりと貼り付き、乾いた指跡が不気味に残っていた。

腐った食料と毛皮の切れ端が床に散乱し、湿った空気が靴底にまとわりつく。


「6部隊に分かれろ! 手前からシラミ潰しだ!」

リーダーの号令が飛び、探索者たちが即座に動く。


篠崎は中央突破の部隊へ。

「俺は真ん中だ。派手にやるぜ」

最上は右翼の高速掃討部隊に加わり、栗色の髪を揺らして笑った。

「じゃ、左は任せたわよ」


俺は左翼の部隊に配置された。

5名の探索者とともに、暗い通路へ踏み込む。

ホルダーを確認し、深く息を吐いた。

煙幕弾(スモーク・カプセル)閃光弾(フラッシュ・ピン)無限拘束ジャック・イン・ザ・トラップメント――すべてチャージ済みだ。

(よし、いっちょやってやりますか!――)


* * *


通路は規則正しく区切られており、部屋ごとに異様な光景が広がっていた。

腐った食料が散乱する部屋、毛皮が積まれた部屋、血溜まりが広がる部屋――

どこも不潔で、獣の臭気が鼻を突く。


最初の部屋を蹴破った瞬間、ゴブリンの咆哮が響く。

閃光弾(フラッシュ・ピン)を投げ、視界が白く染まる。剣士が斬り込み、槍兵が突き刺し、俺もバットを振り抜いた。

腕に伝わる骨の感触が、戦場の現実を突きつける。


次の部屋では弓兵が待ち構えていた。矢が飛び、壁に突き刺さる。

俺は煙幕弾(スモーク・カプセル)を投げ、白煙が視界を覆う。

その隙に剣士が突進し、弓兵を斬り伏せる。

槍兵が残り2匹を串刺しにし、腐臭がさらに濃くなった。


さらに進むと、寝床らしき部屋でホブゴブリンが槍を構えていた。

慣れた身体強化で素早く動き、槍を回避。

バットをモーニングスターモードに変換し、全力で振り抜く。

筋肉が悲鳴を上げるほどの衝撃が腕に走り、敵の胴が砕けた。

ポリゴンが壁に飛び散り、黒い手形に重なる。


その後も、ゴブリンの群れを閃光弾や煙幕で視界を奪い、探索者が一気に突入。

俺も加わり、バットを振り抜くたび、腕が痺れ、呼吸が荒くなる。

(『現在、5部屋目を制圧。敵は合計29体掃討済み。残り探索範囲は約38%と推定されます』)

(……まだ半分以上あるのかよ)


さらに進む。

(『7部屋目を制圧。敵は合計49体掃討済み。残り探索範囲は約24%』)

(よし、あと少し!)


数分後、通路は静寂を取り戻した。

壁際の血の手形が、戦場の異様さを際立たせていた。


(『左翼前方の掃討完了。中央十字路で各部隊と合流しましょう』)

(よし、行くぞ――)


* * *


左右の部隊が次々と合流してきた。

最上の部隊は血に染まった剣を携え、息を整えながら駆け込む。

「右は片付いたわ!」

最上が声を張り、栗色の髪を揺らす。


左翼の俺たちも合流し、剣士が肩で息をしながら笑った。

「こっちも終わりだ!」

34名の探索者が、十字路に集結、空気が一気に張り詰める。


中央部――大きな十字路に、簡易バリケードが築かれていた。

木材と鉄板を組み合わせた防壁、その背後には巨大なバリスタと魔法陣。

ゴブリンの群れが牙を剥き、こちらを睨んでいる。


その場に、篠崎が一歩前に出た。

「……めんどくせぇな」

肩を回し、息を吐くと、口元に笑みを浮かべる。

「任せな」


その瞬間、彼の体を熱波が覆った。

空気が歪み、視界が揺らぐ。

灰燼と化せ(インフェルノ・ロード)

低く呟いた声とともに、篠崎の全身から赤熱のオーラが噴き出す。

鉄の匂いと焦げる匂いが混ざり、周囲の温度が跳ね上がった。

石畳が赤く染まり、空気が焼ける音が耳を打つ。


ゴブリンたちが一斉に吠えた。

「ギギャァァァッ!」

バリスタが唸りを上げ、巨大な矢が篠崎へ向かって放たれる。

同時に、弓兵が矢を雨のように降らせ、マジシャンが詠唱を終えた火球を解き放つ。

炎の渦、氷槍、雷撃――あらゆる攻撃が篠崎を飲み込もうと殺到した。


だが、そのどれもが、彼の歩みを止めることはなかった。

矢は空中で溶け、液体金属となって床に滴る。

火球は触れた瞬間に蒸発し、氷槍は赤熱の空気に触れた途端、白い蒸気を残して消えた。

雷撃すら、篠崎の周囲で火花を散らし、力を失って霧散する。


彼はただ、歩いていた。

剣を振るうこともなく、盾を構えることもなく、ただただ前進する。

熱波が彼の周囲を渦巻き、空気を歪め、敵の攻撃を無意味に変える。

その姿は、まるで無人の野を行くがごとく――絶対的な支配者の歩みだった。


ゴブリンたちは恐怖に駆られ、次の手を打つ。

「ギギャァァァァッ!」

最後の手段と言わんばかりに、群れが一斉に突撃した。

槍を構え、剣を振りかざし、牙を剥き、篠崎を押し潰そうと殺到する。

その足音が地面を震わせ、空気を裂く。


だが、それすらも無意味だった。

篠崎の周囲に渦巻く熱波が、突撃したゴブリンを瞬時に焼き尽くす。

皮膚が泡立ち、骨が赤く染まり、次の瞬間には塵――ポリゴンの残骸となって消える。

悲鳴は炎に呑まれ、声を上げる暇すらない。


何をやっても、篠崎の歩みは止まらない。

再びバリスタの矢が放たれるが、空中で溶けて滴り落ちる。

魔法が幾度も撃ち込まれるが、炎の壁に触れた瞬間、力を失って消える。

ゴブリンの群れが次々と突撃するが、炎の渦に呑まれ、灰となって散る。


篠崎は歩き続けた。

その歩みは、ゆっくりと、しかし確実に――絶望を刻むように。

敵の抵抗は激しさを増すが、そのすべてが無意味に終わる。

彼の周囲には、焼け焦げた鉄片と灰だけが残り、炎の熱気が空気を支配していた。


そして、ついに篠崎はバリケードの前に立った。

片手をかざす。

その瞬間、炎が噴き出し、轟音が十字路を震わせた。

炎の奔流が壁を呑み込み、木材を灰に変え、鉄板を赤く溶かす。

ゴブリンの断末魔が煙に消え、視界は赤と黒に染まった。


篠崎は振り返り、笑みを浮かべた。

「まぁこんなもんだ」

ちょっとコンビニ行ってきた、とでも言わんばかりな気軽で、しかし絶対的な力を示す響きを持っていた。

「疲れたから、あとはよろしくな」


炎の王が去った後、十字路には静寂が戻った。

だが、その静寂は、篠崎が刻んだ圧倒的な力の証だった。


* * *


砦の奥、大きな指令室に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。

前方からこれまでにない威圧感と殺意が伝わってくる。


中央には2体の主ゴブリン――

1体は黒鉄の鎧に鉄柱のような棍棒。

盛り上がる肩は岩塊のようで、鎧の隙間から覗く筋肉が脈打つたび、血管が蛇のように走る。

黄色い双眸が獲物を射抜き、熱い吐息が床を焦がす。


もう1体は異様に長い四肢。

骨ばった腕に戦斧を逆手に握り、灰色に乾いた皮膚の背から棘のような骨が突き出している。

動くたび、軋む骨音が神経を削る。

狂気と知性が入り混じった目は、まるで「殺す」という概念だけで作られたかのようだ。


――そして、その外周を取り巻くのは60体ほどのゴブリン、ホブゴブリン、ゴブリンマジシャン。

壁際には煤で黒く焦げた魔法陣が並び、床には急ごしらえの釘付き障害物が散乱している。


探索者たちは陣形を整え、今か今かと号令を待つ。

その緊張を裂くように、探索者のリーダーが声を張り上げた。

「――全員、突撃!」


同時に、指令室の奥で主ゴブリン2体が応えるように雄叫びを上げる。

「グォォォォォォォッ!」

石壁が震え、取り巻きのゴブリンたちが吠え返す。

武器と武器がぶつかり合う硬い音、火球の爆ぜる衝撃、焦げた肉と鉄の匂いが混ざって鼻を突く。


序盤は探索者側が有利だった。

盾兵が押し込み、槍が膝を裂き、後衛の矢がマジシャンを次々と射抜く。

「押せ! このまま突破する!」

戦線が前へと押し広がる――


――だが、その光景を見た主ゴブリン2体が、再び雄叫びを上げて戦線に突入した。

黒鉄の鎧の巨躯が鉄柱を振り上げ、もう1体は長い四肢で戦斧を引きずりながら前へ。

一歩で床が砕け、衝撃波が前衛を弾き、隊列が歪む。

混戦が一気に深まり、叫びと火花が渦を巻いた。


その渦の縁から――最上が歩み出る。

「……大きいだけね」


彼女の気配は、奇妙なほど静かだった。

次の瞬間、疾風。

キーーンという甲高い音と共に空気が切り裂かれ、視線が追いつく前に輪郭が流れる。

長い四肢の主ゴブリンが戦斧を振り下ろすより速く、最上の刃が白い稲光となって喉元に走る。


1拍。喉が開く。

2拍目に至る前に、刃が返って頸椎を断つ。


――だが、最上の動きは止まらなかった。

その刹那、彼女の体は疾風を超え、稲光の連なりとなる。

目にも止まらぬ速さで、刃が空間を刻み続ける。


肩、腹、脚、背、腕――

斬撃が連鎖し、金属音と肉の裂ける音が重なり、戦場の喧騒を一瞬かき消す。

一撃ごとに血飛沫が弧を描き、赤い霧が視界を覆う。

その数――22。

一呼吸の間に、22の閃光が走り、主ゴブリンの巨体は細切れに刻まれていく。


膝が砕け、腕が飛び、胴が断たれ、最後に頭部が粉砕される。

肉片と鉄片が床に散り、血が釘付き障壁を赤く染める。

音が遅れて耳に届き、戦場が再び喧騒を取り戻した時――

そこに、主ゴブリンの形を留めるものは何一つなかった。


最上は鞘に刃を収める仕草で、戦場の混沌から切り離されたかのように立っていた。

周囲の混戦は続く。

だが、彼女の一撃――いや、22撃で、中心の重石が1つ、完全に消えた。


――残る主ゴブリンが俺の正面へ踏み込む。

黒鉄の鎧、鉄柱の棍棒。

踏み込み一歩で床が砕け、破片が弾丸のように跳ねる。

衝撃波が頬を裂き、血の味が口に広がる。

背後ではホブゴブリンの突撃、横からはマジシャンの火球が尾を引き、戦場の音が重層的に押し寄せる。


「速っ……!」


盾を割る音、槍が滑る金属音、矢が羽根を震わせる微かな風切り。

蜻蛉飛び(フリップ・ターン)でかわし、バットで棍棒の角度を殺す。

腕の骨が震え、視界の端が赤く滲む。

援護の矢が敵の肩を穿ち、槍が膝を狙う――それがなければ、今ので終わっていた。


(『特訓の成果を見せる時です』)

(わかった、イチカ――合わせろよ!)

(『お任せください』)


「うぉぉぉぉ!」

敏捷特化の身体強化が発動し、直哉の体は風を纏ったかのように軽くなる。

青い魔素が全身を包み、冷光が皮膚を走る。

筋肉はしなやかに、骨は弾力を帯び、重力すら味方にしたかのような感覚。


その瞬間、主ゴブリンが猛攻を叩き込んできた。

棍棒の打ち下ろし――床が爆ぜ、破片が弾丸のように四方へ飛び散る。

横薙ぎ――空気が裂け、衝撃波が盾兵を薙ぎ払い、金属音が耳を刺す。

肩打ち――鉄柱が唸り、視界が赤い残光で染まる。


だが、直哉は一切怯まない。

イチカが発動した時穿つ瞳(クロノス・ハック)の効果で、世界は粘性を帯び、水中のように鈍く流れていた。

火球の尾が長く伸び、矢の軌跡も摘めそうなほど遅い。

あれほど速かった敵の棍棒も、今や余裕をもってかわせる。


直哉は呼吸するように回避する。

1歩目――風を裂き、足裏で床の亀裂を捉える。

2歩目――影に潜り、腰をひねって衝撃波を抜ける。

3歩目――死角へ滑り込み、棍棒の殺意を背後に置き去りにする。


肩を抜き、腰を回し、視線だけで回避線を描く――そのすべてが、直哉にとっては自然な動作だった。

まるで、世界が彼に合わせて遅れているかのようだ。


敵の棍棒が振り抜け、肘が開いた――その瞬間、直哉は踏み込む。

「そこだぁぁ!!」


まるで直哉が分身したかのように、3つの軌跡が時差なく重なり、空間を裂いた。


1閃。肩を断つ。

2閃。鳩尾を刻む。

3閃。頸椎を断ち切る。


3つの衝撃が同時に走り、巨体が理解するより早く、力が抜け膝が砕ける。

棍棒が手から滑り落ち、床に鈍い音を残す。


時間が通常の速度へと戻った。

(『理想の全包囲攻撃にはまだほど遠いですが……』)

(あぁ、でも今はこれがベストだ)


直哉はバットを肩に担ぎ、わざとらしく口角を上げる。

「名付けて、瞬閃三連撃(アクセル・バースト)!」


血の霧が静かに落ち、戦場の喧騒が再び押し寄せる――。

最上が剣を払ってこちらを見やり、口元にわずかな笑み。

「終わったわね」


俺は肩で息をしながら頷いた。

「……はい、終わりました」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ