第35話 決戦前夜 ― 52名の集結②
是非、ブックマークか評価を。
私にガソリンをください!!
職員が作戦を発表する。
会議室は若干の緊張感に包まれているが、そこまでの重苦しさはない。
ここに集まった探索者の多くは、何度も同じような作戦会議を経験しているからだ。
ただ、直哉にとっては初めての砦攻略だ。
胸の奥がじわりと熱くなる。
緊張と期待が入り混じった感覚――それは、これまでの探索とはまるで違う重みを持っていた。
周囲を見渡せば、席を埋めるのは経験豊富な探索者ばかり。
年齢も装備も、自分より一段上の雰囲気をまとっている。
大人たちに混ざって行動することへの圧力が、肩にずしりとのしかかる。
そして、目の前のホログラムに映る砦の全景。
噂には聞いていたが、実際に目にするのは初めてだ。
青白い光が立体地図を浮かび上がらせ、城壁やバリスタの配置が精密に描かれている。
(……これがホログラムか。すげぇ……本当にゲームの世界みたいだ。)
興奮が、不安をほんの少しだけ押しのけた。
中央に砦の立体地図が青白い光を放ち、壁際に座る探索者たちの顔を淡く照らしている。
高さ約5メートルの城壁。
その上には無骨なバリスタが並び、砦の内部では魔石結晶が脈打つように光を放っていた。
(……まるで中世の要塞だ。いや、ゲームで見たラスボス前の城ってこんな感じだったよな。)
直哉は心の中で苦笑する。だが、笑っている余裕はない。
白衣を着た職員が前に出て、淡々と説明を始めた。
* * *
「バリスタは可能な限り残してください。
この砦では皆さんが占拠した後、次の改変まで職員が使用予定となっています」
「次の改変はいつぐらいになりそうなんだ?」
探索者の1人が低い声で問う。
「約1カ月後と推測されています。
幸いなことに砦はかなり大きいので、数十名の職員が詰めることになると思います」
(……改変が関係ある?)
直哉は眉をひそめる。
(『魔石結晶は魔石を産出し続けるという記録がありました。
おそらく、ダンジョンが改変されるまで砦を占拠し、魔石を効率よく採取するためでしょう』)
(なるほど……だから防衛設備を残すのか。)
(『はい。ちなみに、魔石結晶がどのように魔石を生み出しているのか、今だ不明です。
おそらくそういった現象の解析も同時に進めるのでしょう』)
(ふーん、そういうもんなのか)
* * *
職員がホログラムを操作し、砦に赤と青のラインが走る。
「第1部隊が第1陣です。
魔石を使い、城壁に向って3カ所のスロープを生成してください」
「突入後は城壁を駆け下り、城門を開放。
第2、第3部隊は解放された城門から砦内部へ突入します」
「魔素能力の3名は、城壁の掃討をお願いします。
城壁部には約30~50体のゴブリンと、それにマジシャンタイプが多くいるから気を付けてください」
ホログラムに青い矢印が走り、侵入経路が光る。
「城壁の東側は篠崎さん、西側は火野さん、正面は神谷さん――です。」
職員の視線が直哉に向く。
「了解しました。」
(……共同作戦か。砦攻略なんて初めてだし、しかも正面担当……。)
直哉は深く息を整えた。
胸の奥で緊張が静かに膨らむ。
「神谷さんにはベテラン3名を補佐につけます」
直哉は思わず聞き返した。
「補佐、ですか?」
「えぇ、神谷さんは砦攻略は初めてなので、戸惑うことも多いでしょう」
職員の視線が壁際に座る3人へと移る。
「彼らが補佐に入ります」
その言葉と同時に、3人が立ち上がった。
最初に口を開いたのは、長身で落ち着いた雰囲気の男だ。
「松岡だ。俺のこと、覚えてるか?」
直哉は彼らの顔を見た瞬間、記憶がよみがえった。
(……第3層に初めて来た時、誘ってくれたメンバーだ。)
初めての集落、初めての魔法。
ゴブリンからの飽和攻撃に四苦八苦していたあの場面――ファイヤーボールを矢で打ち抜き援護してくれた光景が脳裏に鮮明に浮かぶ。
「えぇ、もちろんです。
あの時はいろいろとありがとうございました」
「まさか、こうも早く共闘する時がくると思わなかったが、よろしくな。」
松岡は口角を上げて笑った。
「それにしても君、魔素使いだったんだね」
隣で水城と名乗った男が軽く肩をすくめる。
「はい、ようやく使い慣れてきたぐらいなんですが。」
「集落の時も動きがよかった。あの時より腕をあげてるんだろ?」
「なら大丈夫だ。お互い、また稼ごうぜ」
松岡が冗談めかして言う。
「はい、よろしくお願いします!」
(……この3人なら、きっと大丈夫だ。)
胸の奥に、わずかな安堵が広がる。
* * *
職員が再度ホログラムを操作すると、砦の内部構造が拡大表示された。
青白い光が会議室を照らし、複雑な通路と広間が立体的に浮かび上がる。
「砦内部を3つの主要区画に分けました」
職員の声が淡々と響く。
「第1区画は城門から続く前庭。
ここには敵の半数がひしめき合っており、主ゴブリンが1体確認されています。
最初の激戦になるでしょう」
(……半分って、かなりの数だな。)
直哉はホログラムを凝視する。
「第2区画は建物の一階部分です。
内部の様子は不明ですが、ここからも主ゴブリンの反応があります。
建物は高さ的に2階建てで、内部構造は複雑だろうと予測しています」
職員は指をさらに奥へと滑らせる。
「第3区画は建物の二階部分。
こちらも同様に中の様子は不明ですが、主ゴブリンの反応が2つ、そして中央部の奥に魔石結晶の反応が確認されています」
会議室に低いざわめきが走る。
(……2階に魔石結晶で主ゴブリン2体か。つまり、最後が一番きつい。)
直哉は無意識に拳を握った。
「第1区画を占拠したら、第3部隊が第1区画の維持に回ってください。
第1部隊と第2部隊は自由行動、探索者の判断に任せます。
各自、状況を見て最適な行動を取ってください」
* * *
職員がホログラムを閉じ、淡々と告げた。
「さて最後に、今回の砦攻略における報酬についてお伝えします」
会議室の空気が一瞬ざわめく。
「ゴブリンの討伐報酬についてですが、ご承知の通り、今回の砦には約1,000体のゴブリンが確認されています。
試算では、皆さんの分配額は 1人あたりおおよそ7万円前後になる見込みです」
(……7万円!?)
直哉は思わず息を呑んだ。
(『理由を推定します。
ゴブリンの魔石は1体あたり 2,000円から5,000円。
総数は約1,000体、参加者は約50名。
したがって平均値は約7万円。なお、これは“焼肉食べ放題を17回分”に相当します。』)
(……なんで焼肉換算!?)
(『検索履歴に“焼肉 食べ放題 おすすめ”が3件ありましたので、関連性を考慮しました』)
(やめろ!俺の検索履歴をネタにするな!)
職員は続ける。
「主ゴブリンの討伐報酬は1体につき10万円です。
さらに、砦の中心にある魔石結晶――こちらは大きさによりますが、
1人あたり20万円から50万円の価値になると予測されています」
会議室に納得するような雰囲気が流れる。
職員が淡々と補足する。
「合計すると、1人あたり27万円から57万円ほどです。
これに主ゴブリンの討伐報酬が加わります。」
その時、探索者の1人が腕を組みながらつぶやいた。
「……この砦は中規模だろ?
なら魔石結晶も中規模……おおよ合計40万弱ぐらいか。」
「はい、おそらくそうなると考えています。」
職員が頷く。
(……1,000体で中規模なのかよ!?)
直哉は驚愕する。
(『補足します。今回の報酬は、直哉の過去最高額と比較して約6.4倍です』)
(……6.4倍!?マジかよ……!)
直哉は思わず心臓が跳ねるのを感じた。
(『はい。6.4倍です。数字は嘘をつきません。
ですが、人間は数字に酔います』)
(……なんか説教っぽいな。)
(『浮かれすぎると、次の戦闘で“死亡フラグ”が立ちます。
ラノベ統計によると、こういう時に笑ってる主人公はだいたい刺されます』)
(やめろ!縁起でもないこと言うな!)
(『ジョークです。ですが、油断は本当に危険です。報酬は生きて帰ってこそ意味があります』)
(……死なないけど、確かにそうだな、わかったよ。でも6倍って……すげぇな。)
(『はい。すごいです。ですが、砦攻略時の死亡率は3割を超えるようです。
死なないようにすることの方が、もっとすごいです』)
(……お前、たまにいいこと言うな。)
(『ありがとうございます。記録しておきますか?』)
(やめろ!恥ずかしいから!)
(……よし、浮かれずにやるしかないな。)
直哉は深く息を吐いた。




