第30話 野営と発明品
是非、ブックマークか評価を。
私にガソリンをください!!
正午の光が教室の窓から差し込み、机の上に弁当の影を落としていた。
昼休みのざわめきの中、
俺はスマホをちらっと見て――息をのむ。
画面には、ダンジョン課からの通知。
《砦攻略イベント開催のお知らせ》
(『視線が通知に固定されています。興奮度、上昇中』)
(まあ、ちょっとな。こういうイベントは燃えるだろ)
(『砦攻略。建物内での戦闘では、配置や周囲環境が重要になります』)
(だよなー)
午後の授業を終え、帰り道。
俺は心の中で次の探索のことを考えていた。
砦攻略には参加する予定だが、レイドクエストになるらしい。
レイド――つまり、大人数での攻略だ。
しかし、今までほぼソロ、時どき武虎と探索したぐらいしか経験がない俺は、集団戦の経験が圧倒的に不足していた。
* * *
「ってわけで登録っと」
南西の岩壁地区――
鉱床があるらしく、週末の泊りがけの探索の募集に申し込んだ。
「泊りだから、親に言わないとなぁ」
『今までの実績から鑑みて許可いただけるでしょう』
「なんかさ、探索者になってから逆に規則正しくなってない?」
『睡眠の質が上がるように調整していますので、その分、体調がよくなっていることが影響していると思われます。
また身体能力が向上したことも関係しています』
「えっ、イチカそんなことしてたの?」
『はい、最適化の一部です』
……俺の生活、イチカに管理されてる説。
* * *
ところ変わって、ダンジョン前。
二週間前のボス戦が大量の経験値を持っていたのか、あの後すぐレベルが上がって、現在はレベル11だ。
レベル:11
体力:32→37
筋力:34→38
敏捷:39→45
器用:25→30
知力:23→28
特殊能力:現象伝導、時穿つ瞳
内在魔素:168 / 141→185
内在魔素:68 / 60→92
死戦が関係しているのか、ステータスの伸びがいつもは多くて3程度だったのに、倍近く伸びていた。
そして内在魔素の増加量もやばい。
身体強化の練度もあがっていて、前までは1割程度の強化だったが、今は2割近く強化される。
なので、体を慣らす意味も込めて、ソロでちょこちょこダンジョンの探索に行っていた。
「さぁ、週末のダンジョンだな」
『本日はPT探索です、大いに勉強しましょう』
週末の朝、第3層の入口付近で待ち合わせだ。
俺は指定された集合場所に向かいながら、胸の奥で小さな緊張を感じていた。
砦攻略は大規模な人数で行われることが予想される。
まだ数回しかパーティーを組んだことがないので、事前に練習しておこう、というわけだ。
(『心拍数が通常値より12%上昇しています。緊張と推定』)
(実況すんな……)
集合場所に着くと、すでに6人が集まっていた。
3人組が二つ――
なるほど、こういう構成か。
「おっ、君が神谷直哉くん?」
快活そうな青年が手を振ってきた。
短髪で笑顔がまぶしい。
「今日はよろしくな!」
勢いよく手を差し出され、思わず握り返す。
「よろしく……」
(元気すぎるな。こういうタイプ、嫌いじゃないけどペース乱されそうだ)
1組目のパーティーは剣、槍、弓の3人組だ。
まだ入り口付近だからなのか、あまり凄みのようなものは感じられない。
2組目は――
豪快な声とともに現れたのは、筋肉質で斧を担いだ男だ。
その後ろに、無言で立つ大柄な男。
ハンマーを肩に担ぎ、鋭い目で周囲を見渡している。
最後に、少し離れた場所で地図を確認していた青年が顔を上げ挨拶してくる。
こうして、6人+俺の臨時パーティーが揃った。
* * *
朝の空気は澄んでいて、遠くに見える岩壁が青空に映えていた。
俺たちは列を組み、岩壁地区へ向かって歩き出す。
道中、世間話も多く、かなりワイワイとした感じだ。
(なぁ、随分気を抜いてないか?)
(『そのための大人数なのでしょう。
それに皆さんかなりの実力者のようです。
おそらくほぼすべての人が直哉より腕がよいです』)
(えっ、まじか?)
(『はい、魔素を使えばその限りではなさそうですが、
素の身体能力はほぼ全員直哉より上ですね』)
(ちょっと天狗入ってたかもな、反省)
お互いに戦闘スタイルや、俺は発明品なんかの説明も加え、岩壁地区へと歩みを進めた。
* * *
夕暮れが岩壁地区をオレンジ色に染める頃、俺たちは探索を切り上げ、野営の準備に入った。
周囲は岩肌に囲まれた開けた土地で、風は冷たいが視界が広く、どこか安心感がある。
戦い抜いた疲労が足に残っていて、荷物を下ろすと腰がぐっと軽くなった。
「いやー、今日は濃かったな!」
1組目のリーダーが豪快に笑った。
「濃いというか、ゴブリン多すぎー」
「6回も襲撃されたぞ、普通はない」
「でも連携の練習になったな」
みんな口々に振り返りつつも、どこか満足げだった。
俺の胸にも、達成感のような温かいものがじんわり広がる。
「お前の防御壁、マジで助かったぞ!」
斧を持つ筋肉ゴリラ系の男が、俺の肩をバシッと叩く。
その衝撃で身体が一瞬前に傾き、思わずよろけた。
「ホブゴブリンの突進、あれ食らってたら俺の盾じゃ折れてた」
「防御壁だっけ? 衝撃吸収すごかったな」
「投網もヤバかった! あのゴブリン、本気で動けなくなってたし!」
「……あれは見事だった」
不意に飛んでくる称賛の声に、胸の奥がくすぐったくなる。
慣れてないせいか、顔が自然と熱くなった。
「え、あ……ありがとうございます」
どう返したらいいのか分からず、俺は視線を彷徨わせながら頭をかいた。
「よし、そろそろテント張るぞー」
「ああ。あと魔石でベッドも作る」
「え、ベッド? そんなことできるんすか?」
気が抜けて思わず声が裏返った。
「知らなかったの? 魔石は形をイメージするだけで簡易家具くらいならできるよ」
明るい声の女性が笑いながら言う。
「価値以上の変化は起きないけどな」
もう一人が、説明書のような口調で補足する。
(……ほんと、この人は教科書みたいだな)
「よし、俺のベッドはキングサイズだ!」
筋肉男が魔石を握りしめ、目を閉じて集中している。
その姿に、なんか“武将が必殺技を溜めてる時”みたいな迫力があった。
俺も魔石を握り、深呼吸する。
(ベッド……ふかふか……いや、ホテルみたいなやつ……)
イメージを強く抱いた瞬間、魔石がふわっと光を放ち、柔らかそうな白いベッドが現れた。
「おお……できた!」
思わず声が漏れる。胸がじんと熱くなる。
「初めてにしては上出来ね!」
写真を撮りながら女性が微笑んだ。その笑顔がどこか眩しい。
「よし、ベッド完成! 次は飯だ!」
筋肉男が威勢よく立ち上がり、魔石を握る。
「お前、ベッドより飯が先かよ」
「戦闘より飯だ!」
胸を張る筋肉男。食欲に全振りしている。
「そいやさ――」
筋肉男がぐっと俺の方へ向き直る。
すごい圧があって、思わず背が伸びる。
「直哉、カツドン作れるんだよな?」
「えっ……なんで知ってんの?」
さっき説明したはずなのに、急に振られると心臓が跳ねる。
「発明品の説明で言ってただろ!」
「写真撮る準備できてるよ!」
「……カツ丼?」
「戦闘後の補給としては悪くないな」
みんなの視線が集まり、期待が一気に押し寄せてくる。
ちょっとしたプレッシャーに、手汗がにじんだ。
「よし、やってくれ!」
筋肉男が身を乗り出す。近い。圧がすごい。
俺はホルダーから《カツドン・メーカー》を取り出し、魔石を握る。
深呼吸してイメージを固定し、力を込めた。
「いくぞ……カツ丼!」
――ポンッ。
湯気がふわりと立ち上り、温かい香りが風に乗って広がった。
一気に空気が「飯モード」に変わる。
「おおおおおおおお!!」
「撮った!」
「……うまそうだ」
途端に歓声が起きて、胸がくすぐったくなった。
「俺も!」
筋肉男が勢いよく魔石を握りしめ――
「カツ丼!!」
――ポンッ!
「できたあああ!」
子どもみたいな声を出して喜んでいる。気持ちは分かる。
「じゃあ私は親子丼!」
「カレーもいけるんだよな?」
待ちきれない様子で振り返ってくる。
「いける」
俺が答えるや否や――
「よっしゃ! 親子丼! カレー!!」
声が岩肌に響き渡った。
「……合理的だな」
「戦術的にも補給の効率が高い」
そんな分析も飛んできて、ちょっと笑ってしまう。
こうして、俺たちは魔石で生まれた丼物を囲んで食事を楽しんだ。
焚き火がゆらゆら揺れ、その光に照らされて仲間たちの影が踊る。
笑い声が途切れず、どこか温かい空気が漂う。
戦いの疲れが、胃の中の温かさと仲間たちの声でじんわり溶けていく。
孤独な探検も悪くないが――こういう夜は、もっと悪くない。
――これは、今日一番の癒しの時間だった。




