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現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
第3層“起” 魔素能力者

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第28話 死線を駆ける空中機動

炎の唸りが背後で膨れ上がり、巨大なファイヤーボールが発射される瞬間――

直哉は壁を睨み、歯を食いしばった。

「……くそっ!」


『足場を生成します』

「足場……?」


目の前に、青色の半透明なエアバックがふわりと浮かび上がった。

淡い光が脈打ち、宙に固定された踏み台のように輝く。

「……いいアイデアだ!」


直哉は武虎を背負ったまま、そのエアバックを蹴って跳躍。

イチカは即座に防御壁エア・ガーディアンを回収し、次の位置に再展開。

足場を出しては回収、また出す――その連続動作が、空中を駆ける軌跡を描く。


「身体強化、フルドライブ!」

直哉は屋根を蹴り、壁を駆け、宙に浮かぶ足場を踏みながら加速。

背後で爆炎が広場を飲み込み、赤黒い光が世界を染める。


最後のエアバックを蹴り、直哉は壁を越えて出口へ飛び込んだ――。

爆炎が背をかすめ、熱風が肺を焼く。

『残り魔素、8。ギリギリです』

「……っ、まだ……終わってねぇ……!」


直哉は武虎を抱えたまま、地面に転がり込む。

視界が赤く染まり、意識が遠のく中、イチカの声がかすかに響いた。

『脱出成功。安全圏まで、あと100メートル』


直哉は腰のポーチに手を伸ばし、あるだけの煙幕弾スモーク・カプセルを掴んだ。

「……これでありったけだ!」

煙幕弾スモーク・カプセルを周囲にばらまき、白煙がはぜるように広がる。

視界が一瞬で真っ白に染まり、ゴブリンたちの怒声が混乱に変わった。


「とまるな、とまるな、止まるな……!」

直哉は武虎を背負ったまま、煙の中を駆け抜ける。


風が頬を撫でる。だが、止まる余裕はない。

――ゴブリンは集落からあまり離れない。それは探索者の間で知られた習性だ。

距離を取れば、追撃は止まる。

「……走れ、走れ……!」


直哉は荒い息を吐きながら、草原をひた走る。


* * *


風が頬を撫でる。草原の匂いが、焦げ臭い煙を押し流していく。

直哉は茂みの影に身を滑り込ませ、武虎をそっと下ろした。

「……っ、はぁ……はぁ……」


肺が焼けるように熱く、全身が鉛のように重い。

武虎も肩で息をしながら、かすれた声を漏らした。

「……死ぬかと思った……」


イチカの声が静かに響く。

『敵の追撃は停止しました。』

「……助かった……」

直哉は荒い息を吐きながら、バットを握りしめた。


だが、このままでは動けない。

その時、暖かい光が直哉と武虎を包みこみ、傷が癒えていく。

直哉は頭の中でイチカに問いかける。


「……なぁ、魔石の回復って難しいんじゃ?」

『通常は専門的な医療知識が必要です。

しかし、情報収集の結果、軽度の損傷であれば修復できるようになりました』


「……お前、勉強したのかよ」

『はい。必要と判断しました』


「……マジか……」

直哉は呆れたように笑った。

「やっぱすげぇわ、お前……」


『魔石も戦闘中に回収済みです。

残量は危険域ですが、応急処置には十分です』

「……ははっ、助かる」


ホルダーにチャージされた魔石のエネルギーが癒しの光となり、直哉と武虎を包み込み、焼けるような痛みが少しずつ和らいでいく。

裂けた皮膚が閉じ、呼吸が楽になる。

筋肉の痙攣が収まり、視界がクリアになった。


「あーー、吐きそう……」

直哉はかすれた声でつぶやいた。


武虎もゆっくりと体を起こし、肩を回した。

「……動ける……まだ痛ぇけどな」


(『回復率、17パーセント。戦闘継続は推奨できません』)

「わかってる……でも、ここで止まったら……死ぬ」


直哉は立ち上がり、武虎を支えながらマップを確認する。

第3層入口まで、まだそこそこの距離だ。

「……行くぞ、トラ」

「おう……」


2人は生い茂る草に紛れながら、慎重に歩き始めた。


* * *


草原に出た2人は、慎重に歩き始めた。

遠くに第3層入口の転移ゲートが淡く光っている。

その光は希望の証であり、同時に、まだ終わっていない試練の予兆でもあった。


「……あと少しだな」

直哉は息を整えながら呟く。


武虎は肩で息をしながら、掠れた声で答えた。

「……ああ……でも、油断すんなよ」


イチカの声が頭の中に響く。

(『前方にゴブリン3体、距離42メートル、警戒状態です』)


「……戦うのは無理だな」

直哉は即答した。

(『左側の茂みに隠れてください。視線を遮断すれば、通過可能です』)


直哉は武虎を支えながら、茂みの影に身を滑り込ませる。

草の匂いが鼻を突き、湿った土が手に触れる。


ゴブリンの足音が近づき、視界の端に影が揺れる。

心臓の鼓動が耳に響き、汗が首筋を伝う。

「……頼む、気づくな……」


ゴブリンたちは通り過ぎ、暗闇に消えた。

直哉は息を吐き、武虎に視線を送る。

「……まだいけるか?」

「……ああ、動ける」

武虎は歯を食いしばりながら頷いた。


イチカが再び告げる。

(『次の分岐まで移動してください。敵の索敵範囲を回避するルートを提示します』)

「頼んだ」


2人は慎重に進む。

途中、何度もゴブリンの群れと遭遇したが、そのたびにイチカが最適な隠れ場所を提示し、やりすごした。

やがて、第3層入口の転移ゲートが視界に入った。

淡い光が揺らめき、出口への道を示している。


「……やっと……」

直哉は武虎を支えながらゲートをくぐった。


次の瞬間、視界が白く染まり、ダンジョン入口に転送される。

空気が変わり、痛みがすっと消えていく。

裂けた皮膚が完全に閉じ、筋肉の疲労も抜けていく。


「……治った……」

直哉はその場にへたり込み、深く息を吐いた。


武虎も隣で大の字になり、笑った。

「……死ぬかと思った」

「俺もだ……」


しばらく沈黙が続いた後、直哉が顔を上げる。

「なぁ、トラ……あれなんだよ? 虎の幻影のやつ!」


興奮気味に問いかける直哉に、武虎は苦笑した。

「……明日話そうぜ。今は……疲れた」

「……だな」


2人は笑い合い、別れた。

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