第3話 脳内の相棒
朝。
目覚ましが鳴る前に、自然と目が覚めた。
体が軽い。昨日の疲れが残っていない。
ダンジョンに通い始めてから、こういう朝が増えた。
「……レベルアップって、ほんとに効いてるんだな」
スマホでステータスを確認する。
- レベル:2
- 体力:13
- 筋力:12
- 敏捷:12
- 器用:11
- 知力:10
ゆるやかだが、確かに伸びている。
俺は制服に着替え、階段を下りて台所へ向かった。
「おはよう」
「おはよう、直哉。今日は早いね」
母さんが味噌汁をよそいながら言う。
食卓には、じいちゃん、ばあちゃん、父さん、兄2人がすでに座っていて、俺の席が空いていた。
「おはよう、なおちゃん」
「おはよう」
「おはようございます」
家族の声が重なる。
俺は自分の席に座り、ばあちゃんがよそってくれたご飯に「ありがとう」と言って箸を取った。
「今日は体育あるんだろ? ちゃんと水分取れよ」
父さんが新聞をめくりながら言う。
じいちゃんは黙々と焼き魚を食べていて、ばあちゃんは俺の茶碗におかわりをよそってくれた。
「うん、体育は持久走。ちょっとダルいけど、最近体力ついてきた気がする」
「レベルアップ様様だな」
次兄が笑いながら言う。
「直哉、昨日のプリント出した?」
母さんがふと聞いてくる。
「あ、うん。机の上に置いてある。あとで持ってく」
「忘れないでね。ばあちゃんがランドセルに入れてくれた頃が懐かしいわ」
「ランドセルって……何年前の話だよ」
家族の笑い声が食卓に広がる。
俺は味噌汁をすすりながら、静かにその空気を味わった。
* * *
朝食を終え、歯を磨いて、カバンを背負う。
玄関で靴を履いていると、ばあちゃんが声をかけてきた。
「なおちゃん、忘れ物ない?」
「うん、大丈夫。行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「気をつけてな」
「いってらっしゃーい」
家族の声に見送られながら、俺は玄関を出た。
空は晴れていて、風は少し冷たい。
『おはようございます』
頭の中に、声が響いた。
昨日から始まった、俺と“それ”との会話。
『本日の身体状態:良好。睡眠の質:高。筋力・敏捷・精神力の微細な向上を確認』
「……お前、朝から元気だな」
『私は休息を必要としません。常時稼働しています』
「そりゃそうか。AIだもんな」
『正確には、インテリジェンス・コアです』
* * *
『本日の身体状態:良好。睡眠の質:高。筋力・敏捷・精神力の微細な向上を確認』
「……今日、なんかいやに体が軽い気がするんだけど》
『私と同期することで身体の最適化が進行しています。筋肉の再配置、神経伝達の高速化、視覚処理の強化などが確認されています』
「それって、俺が強くなってるってこと?」
『正確には、“最適化”です。あなたの身体が、あなたにとって最も効率的な状態へと近づいています』
「……なるほど」
少し沈黙が続く。
俺は歩きながら、体の具合を確かめる。
『さらなる進化には、魔力供給をしてください。その上で最適化の具体例を提示いただければ、私が調整可能です』
「最適化の具体例って……速くなりたいとか、力を強くしてほしいとか、そんなの?」
『はい、そうです』
俺は空を見上げた。
どんな風に強くなりたいか、か、考えたこともなかった。
でも、昨日の戦闘のあと、少しだけ思ったことがある。
「こう、アニメみたいに動きたいよな」
『どのようなアニメでしょうか、具体例を求めます』
「やっぱ一番はド〇ゴンボールでしょ、いやでもナ〇トも捨てがたいし…》
『了解しました。参考対象として記録します』
「まじで!?」
* * *
学校に着く頃、俺はふと思った。
「そういえば、お前の名前ってないのか?」
『識別コードはSU-001です』
「001って、1番目に作られたとか?」
『はい、そうです。私のシリーズはSU-017までの作成が記録されており、私は1番目に作られたアイテムです。』
「1番目に作られたのか。うーん、1番目、1番目か」
『任意の名称を設定可能です。あなたが望むなら』
俺は少し考えてから、言った。
「……んじゃイチカってどう?」
『名称“イチカ”を登録しました。以後、呼称はイチカとなります』
「よろしくな、イチカ」
『はい、ナオヤ。これからも、よろしくお願いします』
「……俺の物語が始まったな」
俺は笑いながら、校門をくぐった。




