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現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
第3層“起” 魔素能力者

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第24話 新たなる力

朝の光が差し込む、キックボクシングジム「Strike Edge」。

直哉はいつものように、受付で会員証を提示し、リングのあるメイントレーニングエリアへと足を踏み入れた。


「おはようございます、神谷くん。今日も来てるね」

「はいっ!今日も元気に殴られに来ました!」

(『殴られることを目的にするのは、いささか本末転倒では……』)


ジム内ではすでに数人の会員がシャドーやサンドバッグ打ちに励んでいた。

直哉はまず、リングの外から先輩たちのスパーリングを観察する。

鋭いローキック、的確なジャブ、そして一瞬の隙を突いたカウンター。


(……やっぱすげぇな。動きの無駄がない)


(『観察による学習は有効です。特に、重心移動と間合いの取り方に注目してください』)

「了解。……よし、俺もやるか」


直哉はミット打ちの順番を待ち、トレーナーに声をかけた。

「お願いします!」


「おう、じゃあ今日はコンビネーション中心でいくぞ。ワンツー、ロー、ミドル!」

「はいっ!」


パンッ、パンッ、ドンッ!

直哉の打撃がミットに吸い込まれるように決まる。

身体強化は使っていないが、日々の鍛錬と最適化された動きが、確実に成果を出していた。


(『筋力制御、安定しています。反復による神経回路の強化が進行中』)


その後もミット打ちは続き、トレーナーが満足げにうなずいた。


「おお、神谷。前よりずっと良くなってるな。

特にミドルのキレがいい。体幹が安定してきた証拠だ」

「本当ですか? やった!」

(『筋出力のバランスが整ってきています。フォームの安定性も向上中』)


「次、スパーリングいけるか?」

「はい、お願いします!」


対戦相手は大学生の先輩。体格も経験も上だ。

直哉は慎重に距離を取りながら、ジャブでけん制する。

相手のフェイントに一瞬反応が遅れ、ミドルキックをもらう。


「くっ……!」


だが、直哉もすぐに反撃。ローキックでバランスを崩し、ボディにワンツーを叩き込む。

攻防は拮抗し、互いに一歩も譲らない。


(『反応速度、前回比で6%向上。視覚情報の処理も安定しています』)


終盤、直哉は一瞬の隙を突かれ、ボディへの連打を受けて後退。

そのままロープに詰められ、最後はストレートでダウンを取られた。


「そこまで!」

「……ありがとうございました!」


悔しさはあったが、直哉の表情はどこか晴れやかだった。


(『敗北はしましたが、成長は明白です。接戦でした』)

「くそー、まだまだか」


* * *


翌日、直哉は藤堂武虎の実家が運営する《藤堂心眼流迅術》道場を訪れた。

ここでは、魔素による特殊能力の使用は禁止されているが、身体強化は許可されている。

つまり、合法パワーアップタイムだ。


「来たか、神谷」

「よろしく、トラ。今日こそは一本取る!」


「その意気やよし。だが、俺も手加減はしねぇぞ」


2人は黙礼し、構えを取る。

直哉は身体強化を発動し、筋肉の反応速度とバランス感覚を微調整する。


(『身体強化、安定稼働中。出力は通常の1.2倍に設定』)

「今日は、反応速度と回避を意識していくよ」

「上等だ。じゃあ、いくぜ!」


藤堂の踏み込みは相変わらず鋭い。

だが、直哉はその動きを見切り、最小限の動きで回避する。


「お前、前よりもずっと動きが洗練されてるな」

「ジムと道場、両方で鍛えてるからね」


藤堂の掌打が迫る。直哉はそれを紙一重でかわし、逆に肘打ちを繰り出す。

藤堂がそれを受け止め、2人の間に火花が散る。


「そこまで!」

藤堂の父親が声をかけ、模擬戦は終了した。

「だいぶ動きが様になってきたな、神谷」


「うん。でも、まだまだだよ。トラの表情、まだまだ余裕そうじゃん?」

「そりゃな。こう見えても10年修行してるんだぜ? こんなに直ぐ抜かされちゃ立つ瀬がないだろ」


「確かに。でもすぐ抜いてやる!」

「おう、楽しみにしてる」

(『次回は、持続的な身体強化と、瞬間的な出力変化の切り替えを重点的に訓練しましょう』)


* * *


週末、直哉は再びダンジョンへと足を踏み入れた。

今回は武虎とのペア探索。第3層の草原フィールドが、2人を迎える。


「今日もよろしく、トラ」

「おうよ。ガンガン金稼ごうぜ」


2人は連携を確認しながら、慎重に進んでいく。

草むらの影から、ゴブリンの群れが現れた。


「来たな……!」


直哉はただのバット(クリムゾン・インパクト)を構える。

武虎は構えを取り、断裂掌の準備を整える。


「右から回る!」

「了解!」


直哉が先行し、ゴブリンの1体に接近。

その動きを見切り、カウンター気味に一撃を叩き込む。


「クリムゾン!!」


直哉の気勢に合わせて、イチカがタクティカル・フォージを起動し、グレートソードモードにする。

そのまま回転し、2体目にも連撃を叩き込む。


そう、実は直哉は事前にイチカと相談しており、武器をふるう時のかけ声がクリムゾンだとグレートソードモード、インパクトだとモーニングスターに、クリムゾン・インパクトと叫ぶとハルバードモードにしてくれるのだ。

雄叫びと共に変化する武器。直哉の厨二心は爆進中だ。


「ふっふっふ……俺、もう主人公じゃね? いや、ラスボスでもいけるかも」

(『調子に乗ると、戦闘力が3%低下します』)


(「えっ、下がるの!?」)

(『はい。厨二病の過剰発動による集中力の乱れが原因です』)


(「……気をつけます」)


藤堂が笑いながら言った。

「お前、ほんと楽しそうだな」

「まぁね。強くなるって、楽しいよ」


その後も、2人は連携を取りながら複数のゴブリンを撃破していく。

直哉は《ジャック・イン・ザ・トラップメント》を使って敵の足を止め、武虎が断裂掌で粉砕。

まるでコンビ技のような連携が決まるたび、直哉は心の中でガッツポーズをとる。


(『連携精度、前回比で12%向上。戦術的な柔軟性も飛躍的に伸びています』)

「この調子なら、もっと深くまで行けそうだな」


「でも、今日はここまでにしとこう。無理は禁物だし」

「オッケー。……でも、次はもっと派手にいこうぜ!」


* * *


数日後、直哉は単独でダンジョンに潜っていた。

武虎との連携も楽しいが、やはり1人での探索には特別な緊張感と自由がある。


『周囲、敵性反応なし。現在地、第3層・南東エリア』

「よし、今日は1人でどこまで行けるか、試してみるか」


草原地帯を進みながら、直哉は慎重に周囲を観察する。

やがて、岩場の影に不自然な裂け目を見つけた。


「……あれ、洞窟?」

『確認します……この地形は、週に1度の環境リセット時に稀に出現する“洞窟型構造”です。出現確率はおよそ3.2%』


「マジか。レア地形ってやつか……行くしかないな」


洞窟の入口は狭く、しゃがんで通るほどだったが、中に入ると急に広がり、ひんやりとした空気が肌を撫でた。

足元には湿った苔、壁には淡く光る鉱石。

そして、奥からはかすかな足音と、かすれた唸り声が聞こえてくる。


「よし、行こう」


洞窟内は複雑に入り組んでおり、直哉は慎重に進んでいく。

やがて、前方に3体のゴブリンを確認。


「まずは……縛っ!」


1体に向かって素早く投げ、ゴブリンの動きを封じる。

直哉はその隙に突撃し、バットで一撃。


「おらっ!」


1体目を撃破。2体目が振りかかる棍棒を《エア・ガーディアン》で防ぎ、反撃。

3体目が突っ込んできたところを冷静に対処し、直哉の一撃で沈む。


『戦闘完了。消耗は軽微。進行を推奨します』


「この調子なら、奥まで行けそうだな……」


さらに進むと、またもやゴブリンの小隊。

今度は4体。だが、直哉は冷静に対応する。


《フラッシュ・ピン》で怯んだところを突っ込み、ハルバードモードで全員の足を薙ぎ払う。

負傷し動きが鈍くなったところを1体ずつ倒していく。


『戦闘効率、前回比で18%向上。敵の反応速度を上回っています』

「ふふっ、俺、強くなってるな……」


* * *


洞窟の最奥にたどり着いた直哉は、壁の奥に淡く輝く魔石の結晶群を見つけた。


「……魔石鉱脈?」

『高純度の魔石反応を確認。ですが、周囲に敵性反応あり。警戒を』


その言葉と同時に、暗がりから現れたのは、

ローブをまとったゴブリンマジシャン、全身を鎧で覆った重装備のゴブリン、そして通常型が2体。


「うわ、マジか……!」


直哉は即座に煙幕弾スモーク・カプセルを起動。

白煙が一気に洞窟内に広がり、視界を遮る。


『ホルダーのチャージを消費。煙の中に敵の輪郭を浮かび上がらせます』


煙の中、直哉の右目が淡く光を放ち、動きに合わせて光の帯を描く。


「くっ……右目が疼く……!」

『厨二病による戦闘力、3%上昇を確認』


「ツッコミ早いな!?」


煙の中、敵の輪郭が青白く浮かび上がる。

直哉はそのシルエットを頼りに、まずは通常型の1体に接近し、バットを振り下ろす。


「そこだっ!」

一撃で沈める。続けて2体目にも飛びかかるが——


「っ、くそ!」


煙の中を、弧を描いて飛んでくる魔弾。

マジシャンの《マジック・ミサイル》は、煙を意に介さず、直哉を正確に狙っていた。


変幻武器タクティカル・フォージモーニングスターモード発動』

「どっせい!」


イチカが即座に武器をモール形態に変形させ、直哉が振り抜く。

魔弾が砕け、光の粒となって霧散する。


『重装型を分断します』


イチカの指示と同時に、《ジャック・イン・ザ・トラップメント》が重装型と通常型の間に展開され、時間を稼ぐ。

直哉はその隙に、残る通常型を1体仕留める。


だが、煙が徐々に晴れていく。


「イチカ、スモークは!?」

『ホルダーのチャージが切れました。ポーチから魔石をチャージ中ですが、間に合いません』


「くそっ……!」


煙が晴れ、視界が開ける。

重装型ゴブリンとマジシャンが視線を交わし、連携して動き出す。


重装型が唸り声をあげ、全身がパンプアップする。

その巨体が突進し、斧を振り下ろす。直哉はギリギリで回避するが、すぐにマジック・ミサイルが飛んでくる。


「うわっ、またかよ!」

『回避優先。左へ跳躍を』


直哉は跳ねるように左へ飛び、辛うじて直撃を避ける。

だが、重装型の追撃が止まらない。斧の連撃、踏み込み、体当たり。

その合間を縫って、マジシャンの魔弾が要所要所で飛んでくる。


「くっ……!」


少しずつ傷が増えていく。

直哉は息を切らしながら叫ぶ。


「イチカ、チャージはまだか!?」

『あと……26秒です』


「長ぇよ!」


重装型の斧が、再び振り下ろされる。

直哉はバットで受け止めるが、衝撃で吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。


『25、24、23……』

「くそっ……!」


直哉は立ち上がり、再び構える。

だが、体力は限界に近い。重装型ゴブリンが咆哮を上げ、突進してくる。


『15秒……』


斧が振り下ろされる。直哉は反応が遅れ、目の前に刃が迫る。


「——っ!」

その瞬間、世界が止まった。


『時穿つクロノス・ハック発動』


直哉の左目に幾何学模様が浮かび、燐光が瞬く。

世界が粘性を帯び、水中のようにゆっくりと動き出す。

斧の軌道が視界に刻まれる。


「……見える!」


直哉は身をひねり、紙一重で回避。

反動を利用してバットを振り上げ、重装型ゴブリンの脇腹に叩き込む。

鈍い衝撃音。

だがゴブリンは呻きながらも、盾を旋回させて直哉の頭部を狙う。


「見えてるんだよっ!」


直哉はしゃがみ込み、盾をかわしつつバットを下段から突き上げる。

ゴブリンの顎に命中、牙が飛び散る。

しかし、ゴブリンは怯まず、斧を逆袈裟に振り下ろす。

直哉は軌道を読み、バットを横薙ぎに振って斧を弾き飛ばす。

火花が散り、金属音が洞窟に響く。

直哉が動くたびに左目の燐光が軌跡を描き、まるで時を切り裂く光のように宙を走った。


「まだだッ!」


ゴブリンが膝蹴りを繰り出す。直哉は腹に衝撃を受け、肺が焼けるような痛みが走る。

だが、踏み込み返し、バットを全力で振り抜く。


脇腹、肩、膝、顎――鉄塊が連撃を刻み、ゴブリンの装甲が砕けていく。

最後の一撃が頭部を直撃。鈍い破砕音と共に、巨体が崩れ落ちた。


砂塵が舞い、直哉は荒い息を吐きながらバットを肩に担ぐ。


「……またせたな」


残るはマジシャン1体。

直哉は深呼吸し、冷静に距離を詰める。


マジック・ミサイルをバットで迎撃しながら、一閃。

ローブの下から飛び出した杖を弾き飛ばし、最後は腹部に一撃を叩き込む。


「……終わった……」

直哉は膝をつき、荒い息を吐いた。


『直哉、ステータスを確認してください』

「え?」


『時穿つクロノス・ハックが発動できた理由が、そこにあります』

直哉はスマホを取り出し、ステータスを確認する。


【神谷直哉のステータス】

レベル:9

体力:30

筋力:31

敏捷:36

器用:24

知力:21

特殊能力:現象伝導フェノメナル・リンク、時穿つクロノス・ハック

内在魔素:7 / 128

内在魔素イチカ:12 / 42


「……内在魔素が、2つ?」

『あなたの成長に伴い、私のための魔素領域が独立しました。

これにより、大幅な内在魔素を獲得できました』


「つまり、俺は“もう1人分”の魔素を持ってるってことか……」

『はい。今後は、この2人分の内在魔素を考慮した戦術を組み立てましょう』


「……すげぇな、俺たち」

『えぇ、これでもっと強くなれます』


* * *


疲れた身体に鞭を打ち、直哉は魔石鉱脈に近づいた。

壁一面に広がる結晶は、まるで星空のように輝いていた。


「……これが、魔石鉱脈……」


手をかざし魔石になるよう意思を込めると鉱脈から8等級魔石が、次々と落ちてくる。

全部で14個の魔石をポーチに収めた。


「おぉ、すげぇ。これでいくらだ?」

『おおよそ3万円ほどでしょうか』


「あれ、この前の魔石溜まりのほうがすごかった?」

『はい、あそこから入手できたのは7等級でした。

7等級は8等級の10倍近い価格で取引されています。

第3層から7等級の魔石が出ることはあまりないようなので、運がよかったのでしょう』


「それでも十分だな」


『しかしホルダーのチャージも必要ですし、何よりヤスに魔石を提供しなければなりません』

「そっか、無限収納か。楽しみだな!」


『回収完了。これで、無限収納の試作に一歩近づきましたね』

「よし……帰ろう」


洞窟を後にしながら、直哉はふと振り返った。


「次は、もっと深くまで行ってやる。……待ってろよ、ダンジョン」

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