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現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
第3層“起” 魔素能力者

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第23話 妄想から始まる必殺技開発計画

布団に入ったのは夜の23時過ぎだった。だが、神谷直哉の脳内はフルスロットルだった。


トラの断裂掌ブレイクハンド。トラの父親が使った流転嵐舞テンペストヴェイル

そして今まで見てきたアニメの数々の必殺技——か○はめ波、螺○丸、デ○ロイト・スマッシュにレ○プロ・バースト。

いやいや、領○展開なんかしちゃったりして……。


「……俺も、あんな技が使えたらな……」


妄想が止まらない。

脳内では背景が爆発し、敵が驚愕し、風が巻き起こる構えが再生される。


イチカの念話が響く——……いや、響かなかった。


(『……』)


いつもなら「直哉、睡眠は重要です」と言ってくるはずなのに、今回は沈黙。

もしかして、呆れているのかもしれない。


直哉は天井を見つめながら、いつまでもニヤニヤしていた。


* * *


放課後、直哉はヤスとファミレスで合流した。

ヤスはメニューを開きながら、ちらりと直哉の顔を見て言った。


「ナオヤ氏、寝不足の顔してますぞ。さてはゲームのやりすぎですかな?」


「いや、ゲームじゃなくて……必殺技の妄想で寝てない」

「……それはそれで重症ですな」


直哉は水を一口飲んでから、真顔で語り始める。


「俺さ、たぶん格闘技のプロレベルで動けるんだよね。

3層での戦闘でもそうだったし、ジムでのトレーニングでも、トレーナーが驚いてた。

身体能力だけなら、世界チャンピオン級かもしれない」


ヤスは目を細めて言った。

「ほほう、……冗談を言っているわけではなさそうですな」


「集中すると、周りがスローモーションになることがあるし、空中での動きもかなり自由になってきた。

だからさ、アニメみたいな戦い方がしたいんだ」


ヤスはうなずく。

「それはいわゆる、ゾーンと呼ばれる現象ですな。

プロスポーツ選手でも時々体験することがあるようです。

時間の流れが遅く感じられ、判断力と反応速度が極限まで高まる状態です」


「ゾーン……」


「脳の処理速度が一時的に上がり、視覚や聴覚の情報が鮮明になる。

ナオヤ氏の場合、身体能力の向上と相まって、より強力なゾーン状態に入っている可能性がありますな」


(『ゾーン状態は、身体最適化と連動することで、さらに安定した発動が可能です』)

イチカの念話が補足する。


「それって、未来予測みたいなこともできるってこと?」

「実際は筋肉や眼球の動き、その他様々な情報を総合的に判断して予測をしているそうです。

格闘技の達人は、無意識にそれを行っていると聞いたことがあります」


「なるほど……俺も3層で戦ったとき、敵の動きが“見えた”瞬間があった。あれって、そういうことだったのかも」

「ふーむ……それに魔石の力を相乗効果させれば、本当の未来予知が可能になるかもしれませんな。

いっそのこと、その現象に名前をつけてしまい定義してしまうことで、再現性が高まるかもしれません」


(『定義された現象は、必殺技として構築可能です。魔素の最適化により、発動条件を明確化できます』)


「……名前か。《予知閃》とか、《フェイズ・リーディング》とか……」

「《クロックシフト》も捨てがたいですな。時間を操るような響きがありますぞ」


「それなら、《タイム・ブレイカー》とか、《未来視》とかもありじゃない?」

「《未来視》……厨二感が強いですが、嫌いではないですぞ」


「《未来視》……みらいし、そうですぞナオヤ氏!」

「ん、なに?」


「魔眼です、魔眼。未来を見通す魔眼です」

「魔眼か、それがあったな!」


「そうですね、時穿つクロノス・ハックなんかどうですかな?」

「おぉー、かっこいいな!」


「魔石の力で未来を見れるかはわかりませんが、目を輝かせたり、幾何学模様を描いたりはできるはずです。

それに合わせて神経の伝達速度をあげることができれば、意図的にゾーン状態をつくることは不可能ではないですぞ」


直哉の脳裏には、決め台詞のあとに瞳に幾何学的な文様が浮かび上がり、敵の攻撃をひらりひらりと回避する自分の姿が描かれる。

「いいな、それ。めっちゃいい!」


(『……妄想の暴走ですね』)

イチカの念話が、やや呆れたように響く。


(『ですが、魔眼のような演出を伴う視覚強化は、魔素による神経最適化と組み合わせることで、実用性を持たせることも可能です。

視覚情報の処理速度を上げ、予測演算を補助することで、擬似的な未来視として必殺技に昇華できる可能性があります』)


「つまり、魔眼を名乗ってもいいってことか……!」

「名乗るだけなら自由ですぞ。あとは実際に“見える”かどうかですな」


「よし、いつでもゾーン状態になれるように、いや、クロノス・ハックを発動できるように練習だな!」


2人は笑いながら、ナプキンに構えや動きの図を描いていく。


* * *


「でもさ、未来予知だけじゃなくて、もっと派手な技も欲しいよな。例えば、空間を切り裂くような斬撃とか」

「《ディメンション・スラッシュ》ですな。あるいは、重力を操る《グラビティ・コア》」


「爆発系もいいよな。《スーパーノヴァ》とか」

「それ、もはや魔法ですぞ」


「いや、魔石があるなら、物理法則をちょっと曲げるくらいできるんじゃないのか?」

「……それは確かに。魔石の応用次第では、現象の再現も可能ですからな」


直哉はふと、思い出したように言う。

「そういえばさ、最近の発明品ってどう? 新しいの、何かできそう?」


ヤスは少し間を置いて、静かに答えた。

「実は今、無限収納のようなアイテムを作れないか、試行錯誤しているのですぞ」


* * *


「無限収納……それ、めっちゃ便利じゃん! 探索中に荷物気にしなくて済む!」

「そうでしょう。ただ、かなりの数の魔石が必要になる見込みです。

しかも、構造が複雑で、空間の安定化処理に時間がかかるのです」


ヤスは申し訳なさそうに言葉を続けた。

「そのため、しばらくは他の発明品の提供が止まりそうです。申し訳ありませんな……」


直哉は笑って肩をすくめた。

「問題ないよ。俺も最近、格闘ジムに通ったりして地力を上げてるから。

アイテムに頼らず、自分の力で戦えるようになってきてるし」


「それは頼もしいですな。ナオヤ氏の成長速度は、もはや人間の域を超えているかもしれませんぞ」

「いやいや、まだまだ。でも、無限収納が完成したら、俺の装備ももっと自由になる。楽しみだなぁ」


「期待してくだされ。完成した暁には、ぜひ最初の使用者になっていただきたい」


* * *


ファミレスを出た後、夕焼けの中で直哉はつぶやく。

「俺、もっと強くなりてーなー」


『えぇ、直哉なら強くなれます。ですが、焦らずに。

今後の活動計画を提案します。平日は主にジムや道場に通い、基礎技術を向上させましょう。

休日はダンジョンに潜り、実践訓練を行います。睡眠中は、これまで通り身体の最適化を継続します』


「なるほど……地道に積み上げていくってことか」

『えぇ、そうです。まずはレベル10を目指しましょう。』


直哉はうなずきながら、夕焼けの空を見上げながら腕を振り上げた。

「《スーパーノヴァ》!!!」

『往来ではやめてください……』


そして、また一晩、妄想の中で戦い続けるのだった。

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