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現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
第3層“起” 魔素能力者

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22/43

第20話 断裂掌《ブレイクハンド》

さて、突然だが──探索者の能力について、少し比較をしてみようと思う。


いわゆる一般人は、レベル0から始まる。

これは、ダンジョンに入ったことがない人間の初期値であり、成人男性の平均ステータスはおおよそ「10」だ。

体力、筋力、敏捷、器用、知力──すべてが10前後。

つまり、普通の人間だ。


ダンジョンの第1層には、こういったレベル0からレベル3くらいの探索者がうろついている。

レベル3になると、平均ステータスは15程度まで伸びる。

これは、身体能力的にはプロスポーツ選手の入口、ぐらいだろうか。


強い。確かに強い。だが、一般人とそこまでかけ離れているわけではない。


しかし──これがレベル10ぐらいになると、話はガラッと変わる。


平均ステータスは30程度。

身体能力もオリンピッククラスを超えてしまう。

特に格闘技でいうと、世界チャンピオンでもいい勝負ができるか怪しいところだ。

いや、正直に言えば、勝てないだろう。


そして、俺──神谷直哉の話だ。


俺のレベルは7。だが、イチカのサポートによって、ステータスはレベル10弱の水準に達している。

全力で走れば100mは10秒を切る。身体強化をすれば、8秒を切れるだろう。

もちろん、そこらの格闘家では話にならないぐらい強い。


……とはいえ、俺はその力を日常で使う機会がほとんどない。学校くらいだ。

だが、学校ではイチカに「セーブしろ」と言われている。

だから、俺ツエーをしたことがない。


結果として──俺は、自分が一般人と比べてどれほど強いのか、正確に把握していなかった。


* * *


「お前さ、ちょっと自覚足りてねぇよ」

藤堂武虎は、俺の隣でストレッチをしながら言った。

筋肉質な腕をぐいっと伸ばし、関節を鳴らす音がやけに響く。


「え、何が?」

「いやさ、この前のゴブリン戦。あいつら、そこらの格闘家より強いぜ?」


「……マジで?」

「マジで。あいつら、ステータス20くらいあるぞ。パンチ1発で壁にヒビ入るし、動きも速い。

格闘ジム行ってるような奴らでも、ゴブリンと戦ったらボコられるぞ、たぶん」


「……それはそれでちょっと見てみたい気もするけど」

「お前、変な好奇心あるよな」


藤堂は笑った。俺もつられて笑う。

こういう会話ができるのは、彼が同年代で、しかも俺より大分強いからだ。

レベルは14。志素量は243。俺よりもかなり先を行っている。

本人曰く、普通の人より内在志素が高いらしい。


「うーん、俺ってそんな強かったのか。日常生活だとセーブしてるからなぁ」


「それが問題なんだよ」

「え?」


「お前、自分がどれだけ強いか、ちゃんと把握してないだろ。

学校じゃセーブしてるし、ダンジョン以外じゃ本気出せない。だから、実感がない」

「……まあ、そうかも」


「だからさ、今日はちょっと意識してみろ。お前の一撃が、どれだけの威力か。

どれだけの速さか。俺と並んで戦えば、わかると思うぜ」

「……了解」

俺はうなずいた。


(ジムとか行くのもいいかもな…)

(『そうですね、ナオヤの身体能力は一般人から逸脱しています。それを実感することも大事でしょう』)


* * *


「藤堂もゲートキーあるんだよね?」

「おぅ、もちろんだ」

とスマホを見せる。


「俺も持ってるから、ショートカットでいこうぜ」

「だな」


「まぁ2人いれば、ゴブリンくらいなら余裕だろ」

「何匹ぐらいまで同時にいけるかな?」


「うーん、5匹はいけるだろうけど、10匹超えるとやべぇだろうな」

ゲートに入る。

空間が歪み、ダンジョンの入口が開いた。俺たちはその中へと足を踏み入れる。


第3層、草原フィールド。空は青く、風が心地よい。

だが、油断は禁物だ。ここには、ゴブリンが徘徊している。


「さて、探すか」

「うん。今日は連携の確認もしたいしね」


「もうちょっと多めのグループいないかな」

「まぁ運だな」


* * *


最初に遭遇したのは、2体のゴブリンだった。

藤堂が前に出て、俺が後ろから援護する形で戦闘開始。


「右の奴、俺がやる!」

「了解!」


藤堂の動きは鋭い。古武術の型に則った踏み込みから、鉈を一閃しゴブリンの腹を切り裂く。

俺も左のゴブリンに向かって身体強化を発動し、バットで一撃を加えた。


「ナイス!」

「お前もな!」


その後も、2体、1体、さらに2体と、合計5体のゴブリンを倒した。連携は完璧だ。

藤堂の動きに合わせて、俺も自然と最適な位置に立てるようになっていた。


「マップによると、向こうに大き目の集落があるらしい。

あっちは避けないとだな。」

「オッケー、そしたらこっち行こうか。」


俺たちは岩陰や丘の裏を探しながら、ゴブリンの気配を探る。すると、茂みの向こうに4体のゴブリンが現れた。


「4体か……ちょうどいいな」

「よし、いくぞ!」


戦闘開始。


藤堂は鉈を構え、低く踏み込む。俺は身体強化を発動し、バットを握り直す。


「ちっ、やるじゃねぇか……!」

藤堂はゴブリンの爪による反撃を受け、腕に浅い傷を負った。


ゴブリンは間合いを詰めてくる。藤堂が3体に囲まれて苦戦している。

俺は目の前の1体にバットを叩きこみながら叫んだ。


「トラ、閃光いくぞっ!」

「了解!」


俺は腰のポーチから小型の発明品──閃光弾フラッシュ・ピンを取り出し、藤堂の周囲に向かって投げる。

ピンが地面に着弾した瞬間、閃光が炸裂。ゴブリンの視界を焼くように白く染め上げた。


発明品については事前に藤堂と話し合っており、使用タイミングや対策もばっちりだった。

藤堂は目を細めて閃光をやりすごし、ゴブリンが怯んだ隙に背後へ回り込む。


「もらった!」

鉈が一閃。ゴブリンは悲鳴を上げる間もなく倒れた。


1対1になればこっちのものだ。

残りの2体は危なげなく倒す。


「ふぅ……」

「ちょっと傷は負ったけど、まぁ勝てたな」


「やっぱり、これ以上来るとやばそうだな」

「うん。4~5体までが無理ない範囲だね」


「あぁ、油断はできねぇ。慎重に行こう」


* * *


「なぁ、藤堂って魔素を使って長いんだよね?」

「あぁ、もう10年だな」


「ってことは、必殺技って使える?」

「お前なぁ、前も言ったけど、そういうのはあんまり聞いちゃダメなんだって」


「いいじゃん、教えてくれよ」

「仕方ねぇな。

あぁ、いくつか使えるよ」


「まじか!なぁ見せてくれよ!!」


藤堂は呆れつつも自慢したい気持ちもあるのか、1つ見せてくれるという。

遠くに3体のゴブリンが見える。藤堂は鉈を腰のホルダーに納め、素手になる。


「え、武器使わないの?」

「まぁ見てろって」


藤堂は深く息を吸い、構えを取った。

身体強化のオーラが身体を覆っていたが、それが徐々に手に集中していく。

手に集まった魔素は徐々に赤色に変わっていく。

そして──黒い稲妻のようなものが、手に沿ってバリバリと走った。


「…いくぜっ」


藤堂の動きに合わせて、俺もバットを構えて駆け出す。

横目に藤堂の必殺技を見たが、圧巻だった。


ゴブリンが剣で攻撃してきた時──なんとそれを素手で迎え撃ったのだ。

切られる、と思った瞬間、赤色の魔素に当たった部分が消失した。


ゴブリンが驚いた隙をついて、藤堂は爪を立てるようにゴブリンの顔面を薙ぐ。

その部分が──消えた。


いや、正確には「抉られた」。

肉も骨も、何もかもが、そこだけごっそりと消失していた。


「それが藤堂の必殺技か、すげー」

断裂掌ブレイクハンドだ。なんでも消滅させる。

ちょっと時間がかかっちまうのが玉に疵だがな」


* * *


その後も、数体のゴブリンを倒しながら、俺たちは草原を進んだ。

藤堂は断裂掌ブレイクハンド以外にも必殺技をもっているようだが、他のは機会があればな、と笑って見せてくれなかった。


「今日は、こんなもんか。魔石も結構たまったな」

「うん。藤堂のおかげで、自分の強さをちょっと実感できた気がする」


「それならよかった。お前、もっと伸びるぜ」

「……ありがとう」


ゲートキーを使って帰還する直前、俺は空を見上げた。

青空の向こうに、まだ見ぬ第4層、第5層が広がっている気がした。


(俺も、もっと強くなりたい)

(『直哉、次は必殺技の開発ですね。魔素の流れを調整すれば、可能性はあります』)


「よし、やってみるか」

俺は拳を握った。

次は──俺の番だ。

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