第19話 出会い
「49,600円……」
直哉はスマホの画面を見つめながら、思わずつぶやいた。
『直哉、それは先日の探索報酬ですね。探索時間は約2時間でした』
「時給換算したら、これってめっちゃ良くない?」
『確かに、一般的なアルバイトよりはるかに高収入です』
「これ、もしかして就職しないで探索者になるのもアリなんじゃ……」
『まだ高校生です。進路は慎重に』
「でもさ、イチカ。このまま続けたら、月に50万とかいけるかもよ?」
『……現実逃避はほどほどに。毎日放課後にダンジョンに行くのは現実的ではありません』
そんな妄想を抱きながら、直哉は回転寿司店に入った。
今日は、あの大学生――魔素を使う青年との約束の日だ。
店内は賑やかで、寿司がレーンを流れている。
「お、いたいた」
青年はすでに席に座っていて、直哉に手を振った。
「よぉ。こっちこっち」
「どうもっす」
席に座り、ひとまずお茶を注ぐ。
(『直哉、自己紹介は忘れずに』)
「えーと、改めて。神谷直哉です。高校2年です」
「俺は藤堂武虎。大学1年。よろしくな」
「よろしくです!」
ひとまず落ち着くためにもお茶をすする。
「でよ、神谷君も、これ使えるの?」
藤堂は人差し指を立て、魔素を集中させる。
指先にうっすらと光が宿る。
(『これは魔素の視覚化です。他人には見えません』)
「うん、見えるよ。俺も使える」
「お、やっぱりか。戦闘中も時々使ってただろ」
「最近使えるようになったばかりで、まだ練習中なんだけど」
「なるほどな。俺は古武道の家系でさ、親が魔素に目覚めてから、家で訓練されてたんだ」
「え、じゃあもう長いの?」
「おぅ、もう10年ぐらいだな」
「10年!? それって、ド〇ゴンボールみたいなことできたりする?」
「まぁ、似たようなことはできるよ。今度見せてやるよ」
(『興奮しすぎです。寿司が喉に詰まります』)
「うぐっ……あ、ありがとうイチカ」
「イチカって?」
「(やべー)え、あー……俺の脳内アシスタント的な?」
「なんだそりゃ」
(『気を付けてください。私の存在はイレギュラーなので、あまり言わないことをお勧めします』)
(わかってるよ)
その後も、魔素の話題で盛り上がり、寿司をつまみながら情報交換が続く。
* * *
「それで内在魔素?ってのが俺は8…」
「おぉっと、ストップ。その数字はあんまり言わないほうがいいぜ」
「え、なんで?」
「その数字って、何て言うんだろうな、いわゆる強さの指標みたいな感じなんだよ。
だからその数字だけで相手の強さがある程度予想できちまう」
「そうなんだ」
「まぁ今のところダンジョンで人に襲われるって話はほとんど聞かないから、そこまで気にすることはないのかもしれないけど。
やっぱり自分の手の内はあんまり明かさないほうがいいと思うぜ」
「確かにそうかもなぁ」
(『至極まっとうな指摘です。直哉、あなたは“手の内”を見せすぎです』)
(わかったよ、注意する!)
「で、その内在魔素を鍛える方法だろ? 一番はやっぱりモンスター退治だな。
あいつら倒した時に魔素が飛び散るらしくて、それを吸収しているんだってよ。
だから俺たちはレベルアップできるんだとさ」
「へー」
「あと魔素を使い切ることだな。
魔素って0になっても一晩寝れば回復するだろ?」
「そうですね」
「それを繰り返すだけでも少しずつだけど上限があがってくるぜ。
ただ、どこまでも上がるわけじゃなくて、レベルごとに上限があるんだよね。
レベル1の時は10まで、レベル2は20まで、みたいな。
まぁこれも人によって差があるみたいだけど。」
「なるほど」
「だから俺も魔素覚えて5年ぐらい経つけど、神谷君と最大値が違うかっていうと、5年経ったほどの違いはない気がするな」
「なぁなぁ、藤堂君の内在魔素っていくつなのよ?」
「うーん、まぁ別にいいか。人には言うなよ」
「もちろん!」
藤堂はダン活アプリを見ながら、「今は443だな」
「うぉ、まじか。すっげすっげ」
「親父はもっとすごくてさ。
もうすぐ第5層に手が届きそうなんだけど、親父が言うには、第3層の平均は300、第4層の平均は800ぐらいらしいぜ。
なんで、俺は3層以上、4層未満ってとこだな。
だからまずは3層でレベル上げながら4層を目指してる」
「へー」
「神谷君は何でダンジョンに?」
「特に理由はないんだよね。お金稼げるかなぁと思って。
でも最近は戦い自体楽しいし、魔素覚えてからはもっとだな」
「必殺技とかは?」
「うーん、それはまだまだ。
覚えたいけど、もっと基礎を積まないとって言われてる」
「なるほどな。なぁ、一回ウチの道場来てみる?
魔素もそうだけど、動き方とかも結構勉強になるぜ。
それとさ、せっかくだし、次も一緒にダンジョン行こうぜ」
「うん、ぜひ!」
「オッケー! また連絡するよ」
『直哉、交友関係が広がってきましたね』
「うん、なんか楽しくなってきたかも」
こうして、直哉の探索者としての一歩は、さらに前進したのだった。




