表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
第1層 出会い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/58

第2話 異世界からの接続

市庁舎の地下から地上へ上がると、足は自然と換金所へ向かった。

ダンジョン課の隣にある小さな窓口――市が運営し、魔石と素材を現金化できる安全な場所だ。


薄橙の夕陽がガラスに映り、待合の床には長い影が伸びていた。

壁には「魔石の取り扱いにご注意ください」と、少し事務的な注意書き。


列に並び、ポケットから魔石を出してトレイに並べる。

受付の職員は慣れた手つきで一つ一つを検分し、端末に金額が積み上がっていく。


「スライム由来の魔石、12個ですね。合計で……3,960円です」


金額は現実的だ。派手さはないが、確かに積み上がっていく数字。

時給換算すれば、コンビニよりずっといい――それが、俺が探索を“副業”にしている理由だ。


魔石の価値はモンスターの強さと純度に比例する。

スライムは最弱クラス。だから安い。

それでも、戦って稼ぐのは、ちょっとした達成感がある。


「ありがとうございます。またのご利用を」


現金を財布へしまい、沈みかけた空の下をゆっくり歩く。

石造りの第1層での手応えが、指先にまだ微かに残っていた。


* * *


家に帰ると、ちょうど夕食の時間だった。

じいちゃん、ばあちゃん、両親、兄2人――いつもの顔が食卓を囲み、俺の席だけが空いている。

味噌汁の香り、テレビのニュース、箸の小さな音。

そのどれもが、安心できる音だった。


「おかえり、ナオヤ。今日は遅かったね」

母さんが味噌汁をよそいながら言う。

俺は「ただいま」と言って席に座った。


「ダンジョンか? 最近よく行ってるな」

長兄が言う。

社会人になった今は通っていないが、大学時代にはダンジョンに通っていた経験者だ。


「うん、スライム退治。ちょっと稼げた」

「レベルは?」

「2。結構体の調子いいんだよね。兄ちゃんは?」

「同じ2だ。大学の頃は週末に通って上げたけど、就職してからは行ってない」

「あ、2だったんだ。んじゃ俺と同じか」

「あぁ、2でも十分役に立つしな。2以上は結構時間かけないと難しいだろ。就職活動もあったしさ」


母さんがふと箸を止めて言った。

「そういえば、良太もダンジョン行ってたのに怪我してなかったわよね」

「何度か打ち身はあったけど、ケガはダンジョン出ると治るからね」

「えっ、あら、そうだったの?」

「そうだよ、ニュースでも散々やってるじゃん。

ダンジョンから出れば全部元通りになる。傷も、服の破れも。まるで巻き戻しみたいな感じ。まぁでも痛いのは痛いんだよね」


「そうなの、直哉も気をつけなさいよ」

「うん、まだ第1階層だから安全だよ。でも俺は第2階層とかそれ以上も行ってみたいんだよね」

「ケガは治るし、死んでも生き返るとは言うけど、気をつけろよ」

「そういえば兄ちゃんは死んだことあるの?」

「いや、ない。俺は第1階層しか行ってないから、ケガしても打ち身程度だったしな。でも友達で第2階層に行ったことあるやつがいてさ。一度行って大けがして、それからもうダンジョン行かなくなってたな」

「ニュースでもトラウマになる人がいるってやってたよね」


ばあちゃんが茶碗を手にしながら頷いた。

「昔はそんなのなかったのにねぇ。今の若い子は大変だよ」

「ばあちゃん、ダンジョンは昔からあるよ。制度が整ったのが最近なだけ」

「そうなの? でも、死んでも生き返るって、なんだか不思議ねぇ」

「実際、死ぬわけじゃないからね。意識が飛んで、転送されるだけ。体は無傷で戻ってくる」

「でも、痛みはあるんでしょ?」

「あるある。俺も1回、スライムに跳ね飛ばされて背中打ったときは、しばらく動けなかった」

「それでも、外に出たら治るのよね?」

「うん。ダンジョンの外に出た瞬間、全部リセットされる。打ち身も、擦り傷も、服の破れも。まるで何もなかったみたいになる」

「それって、魔法みたいね」

「未だに原理は不明みたいだけど、ダンジョンはそういうもんなんだってさ。」


家族の会話は、ダンジョンも日常の延長だと教えてくれる。

怪我は治る。死んでも転送される――そういう“ルール”が、もう当たり前になっている。


「でも、気をつけなさいよ」

母さんがそっと味噌汁を差し出してくれた。

「うん。まだ第1層だから安全だよ。でも、第2層やその先も行ってみたい」


* * *


夕食を終え、風呂に入って、部屋に戻る。

スマホでステータスを確認する。


レベル:2

体力:13

筋力:12

敏捷:12

器用:11

知力:10


少しずつ、だけど確実に上がっている。

朝の目覚めは良くなり、疲労の抜けも早い。授業中の眠気も減った。

俺の身体は、目に見えない何かで、少しずつ整えられている――そんな実感。


「……まあ、悪くない」


そのとき――


頭の奥で、澄んだ声が響いた。

『最適化5%完了しました。初期接続に成功。疑似人格を起動します』


「……え、誰? 脳内に住んでる系?」

『私は魔導士エルド・フェルミナによって作成された、疑似人格サポートアイテムです』


「フェルミナって誰だよ。魔導士って、ファンタジーかよ」

『はい、そうです。正確にはアル・テラス大陸における高位魔導士です』


「はい、そうですって。ってか、アル・テラス大陸って何よ!?」

『状況から判断するに、こことは違う位相に存在している世界だと考えられます』


「……異世界的な?」

『端的に言えばそうです。あなたが私に触れ、承認したため、同化が成立しました』


「……承認?」

『はい、承認です。名前を名乗ったことで同意したとみなしました』


「確かに名乗った気がするけど、あれって……夢じゃなかったの?」

『夢ではありません。あなたがどのようにアル・テラスに来たのかは不明ですが、私に接触した時点で、あなたは非常に不安定な魔力体の状態でした。

わかりやすく言えば、あなたの“意識だけ”が異世界に転移していたと考えられます』


記憶の霧が少し晴れる。あの路地裏、魔法道具屋、鎖で巻かれた黒い箱――。

半透明の自分の手。触れた瞬間の耳鳴り。

「え、俺の意識だけ異世界旅行してたの?」

『はい。魔力体だったことで、あなたは私に直接接触することができました』


「同化って、怖い言い方するな……俺、大丈夫?」

『疑似人格サポートシステムと同化することで、様々なサポートを受けることができます。

サポートの内容は基本的に身体能力の強化、環境への順応、免疫力の強化などがあげられます』


胸の鼓動が少し速くなる。

期待と不安が、小さくスパークする。

「それ、なんかRPGのバフみたいだな……。俺、リアルで強くなっちゃう系?」

『はい。あなたの身体能力は、今後の行動に応じて段階的に強化されていきます。

特に魔石の使用履歴や戦闘経験が蓄積されることで、より高い適応性が得られます』


「え、じゃあ俺がスライムを倒しまくったら、筋力とか上がるの?」

『正確には、戦闘時の動作解析をもとに、レベルアップ時の身体強化を最適化します。』


「つまりレベルアップするときのステータス上昇が人より多くなるってこと?」

『はい、そうです。』


「まじか、チートだ!」

『ただし、この世界の情報が不足しているため、支援は限定的になります。情報収集を承諾してください』


「それは別に勝手にやってくれていいけど。」

『ありがとうございます。』


「でもどうやるのさ?」

『あなたが手にしている板状の媒体――スマートフォン――を通じて、周囲の情報を取得します。現在この国の常識を学習中です。』


「えっ、もう? ってか俺のスマートフォンを通じてってどういう意味?」

『その媒体を通すことで様々な情報が収集できるようですので、使用中です。』


「パスワードかかってたよな…?」

『あなたの日常行動から取得しました。』


「まじかよ、いつの間に!? ってかちょっと待った。やっぱ情報収集だめ!」

『なぜでしょうか。私の機能が発揮できません。』


「だって、変なことするんじゃないの?勝手にSNSに投稿とかしたりとかさ。」

『問題ありません。規定によりあなたのプライバシーは尊重されます。情報収集は最適化のために限定され、外部送信は行いません』


「…………うーーーーん、わかった、許可する!でも変な検索履歴は残すなよ!」

『承知しました。情報収集を再開します。何かご要望はありますか?』


「じゃあ……ダンジョンのことについて調べてよ。第1階層の構造とか、モンスターの出現パターンとか」

『ありがとうございます。あなたの安全と成長を支援することが、私の存在意義です』


直哉はスマホを机に置き、ベッドに背中を預けた。

頭の中にはまだ疑問が渦巻いていたが、それ以上に――何かが始まったという実感があった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ