第17話 疾走する衝動
今日は閑話2話と本編1話の更新です。
朝の光が差し込むキッチン。炊きたてのごはんの湯気が立ち上り、味噌汁の香りが部屋を満たす。
食卓には焼き鮭、卵焼き、納豆、漬物、そして湯気の立つ味噌汁が並び、家族全員が席についていた。
「いただきまーす」
直哉の声に続いて、家族が箸を手に取る。
父親は黙って新聞をめくりながら、味噌汁をすすっている。
隣では祖父――じいちゃんが静かにごはんを口に運び、時折うなずくようにして味を確かめている。
「なおちゃん、おかわりいる?」
ばあちゃんが笑顔で炊飯器の前に立ち、いつもの口癖を繰り返す。
「うん、もらう!」
直哉が茶碗を差し出すと、ばあちゃんは嬉しそうにごはんをよそってくれる。
「最近ほんとよく食べるな、直哉」
大学生の兄・悠人が卵焼きをつつきながら言う。
「レベル上がったんだっけ?」
「うん、昨日で7になった。踏破率も100%いったし、身体の最適化も進んでる感じ」
「7か。だいぶ本格的にやってるんだな」
という社会人の兄・健太はレベル2だ。スーツ姿で、スマホを見ながら納豆をかき混ぜている。
「収入は?今月どれくらいになりそう?」
「たぶん15万くらい。魔石の純度が良かったから、換金率も高かった」
「おいおい、扶養家族とかどうするんだよ。税金とか、確定申告とか」
父親が新聞を畳みながら、静かに言う。
「そのへん、ちゃんと考えないとな」
(『ナオヤ、扶養や収入申告については、探索者支援室の窓口職員に相談できるアテがあります。
後で時間を取って、確認してみましょう』)
「うん、たしかダンジョン課の職員で専門の窓口があったと思うから、後で聞いてみるよ」
じいちゃんが静かにうなずきながら言う。
「若いうちから稼ぐのは立派だが、周りに迷惑かけないようにな」
「うん、わかってる」
「なおちゃん、おかわりいる?」
「うん、もう一杯!」
ばあちゃんが笑顔でごはんをよそう。
家族の会話が交差する中、直哉はふと、今日の予定を思い浮かべる。
学校、体育、そして──3層への突入。
「よし、今日も頑張るか」
* * *
通学路。直哉は人通りの少ない裏道を選んで歩いていた。
ふと周囲を見渡し、誰もいないことを確認すると、足を止める。
「……ちょっとだけ、試してみるか」
(『ここでの発動は推奨されません』)
「大丈夫、誰もいないし。ちょっとだけだって」
直哉は深呼吸し、内在魔素を意識する。
青白い光が足元に集まり、次の瞬間──
「っしゃあ!」
風を切る音が耳を裂く。
直哉の身体は時速60kmの速度で住宅街を駆け抜ける。
電柱が一瞬で後方に流れ、視界がブレる。
(『速度が危険域です。減速を──』)
「うおっ、やべっ!」
角を曲がった瞬間、犬の散歩をしていた老人と目が合いそうになる。
直哉は慌ててフェンスを飛び越え、物陰に身を隠す。
「……あっぶねぇ……」
(『調子に乗りすぎです。現象伝導の使用は守秘義務に抵触する可能性があります』)
「……はい、すみません」
* * *
教室。数学の授業中、直哉はノートを取りながらも、イチカの声に耳を傾けていた。
(『直哉、今朝の行動について再度注意します。
現象伝導は、日常生活での派手な使用を避けるよう指導されています』)
「……ああ、そういえば……」
直哉の脳裏に、数週間前の市役所地下での面談が蘇る。
職員が帰り際に言った言葉──
「そうそう、最後にひとつ。
現象伝導は、日常生活では使い方に注意してくださいね。
派手な行動は避けるように。守秘義務にも関わりますから」
「え、バレなきゃいいってわけじゃないんですか?」
「現象伝導について口外しなければ問題ありません。
ですが特殊能力が使えるようになった人の多くは、なぜ使えるようになったのか根掘り葉掘り質問を受けることになります。
その時うまくごまかせればいいのですが……」
その言葉が、今になって重く響く。
「……俺つえーできないのか……」
直哉はがっかりしたようにノートの端に落書きを始める。
(『次は体育があります。力を抑えてください。
今学期に入ってから、直哉のステータスは倍近く成長しています。力半分でちょうどいいくらいです』)
「了解……でも、ちょっとぐらいなら……」
(『ダメです』)
「はい……」
* * *
午後の体育。今日はバレーボールの実技だ。
直哉はチームに分かれてコートに立つ。
「じゃあ、神谷はアタッカーね!」
「え、俺?」
「だって、最近めっちゃ動きいいし、エースっぽいじゃん!」
「いやいや、俺そんな……」
(『力は半分で。跳躍と反応速度を抑えてください』)
「わかってるって……」
試合開始。直哉はボールを拾い、トスを受けてジャンプ。
空中での姿勢が安定しすぎて、周囲が一瞬静まる。
「ナイススパイク!」
「え、あれ入ったの!?すげぇ!」
直哉は苦笑しながら着地する。
(『今のは力52%。ギリギリです』)
「セーフか……」
その後も直哉は、部活のエース並みのプレイを繰り広げるが、本人は常に力を抑えていた。
それでも周囲からは「運動神経バケモン」と言われるほどの活躍だった。
* * *
授業がすべて終わり、教室の片付けをしながら、直哉は窓の外を見つめる。
夕日が差し込む校庭には、部活の生徒たちが走り回っている。
「……今日から3層に突入だな」
(『はい、準備は完了です。今日は様子見をしつつ、変幻武器の運用を提案します』)
「あー、そっか。しまったな、魔素に夢中でそっち忘れてたわ」
(『魔素と武器の連携は、第3層以降で特に重要になります。
戦闘スタイルの最適化を進めましょう』)
「よし、気合入れていくか!」
* * *
第3層――それは、未知と危険が交錯する領域。
魔素の力と変幻武器を手にした直哉は、さらなる成長と試練に挑む。
新たな敵、新たな発見、そして新たな仲間との出会いが待ち受ける。




