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現代ダンジョン奮闘記  作者: だっち
第2層 意識の芽生え

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18/51

【閑話】第2話 託された願い

今日は閑話2話と本編1話の更新です。

それから10年。

彼は異世界を巡り続け、その数は十を超えた。


世界を渡るたびに文化を学び、

知識を持ち帰り、

SUたちに記録させ、

門の安定性も向上し、

理論は成熟しつつあった。


すべてが順調だった。


――そして。

その10年の旅路の果てに、エルドは“運命の世界”へたどりつく。


地球。

文明の光と、魔力の乏しさが奇跡的なバランスで成立する世界だ。


* * *


門を抜けた瞬間、エルドは息を呑んだ。


「……これは、驚いたな」


澄んだ空気。

無数の光が地面を照らす。

鉄の匂いと、油の焦げた香り。

魔力の流れはほとんど感じられないにもかかわらず、

街全体が明るく輝いていた。


車のライトが道路を走り抜けていく。


舗装されたアスファルト。

電線。

看板に映る文字列。

どれも魔導ではない。

魔力の代わりに、別の“仕組み”で世界を動かしている。


「魔導を使わずに……ここまで文明を発展させたのか」


背後から人型のSU-004が静かに歩み出て、周囲を観察した。

「マスター、この世界……魔力濃度は極めて低いですが、

技術文明は高度に発達しています」


006が胸のレンズを全開にし、興奮気味に叫ぶ。


「マスター! マスター! あの箱、内部に動力があります!

あの柱も! あの光の板も! すごいすごいすごい!!」


「分かった、分かったから落ち着け、006……!」


だがエルド自身、胸が弾むのを止められなかった。


魔力に頼らずに文明を築いた世界。

魔力がある世界とは異なる進化を遂げた技術体系。

学術的価値は計り知れない。


「この世界の人々は……どんな理論を使っている?

どうやって光を操っているんだ?

この鉄の馬は? この通信方式は?」


好奇心が溢れ、足が止まらない。


* * *


魔石による言語同期結晶を使い、短時間で言語知識を取得すると、

エルドは一般的な旅行者を装って街に溶け込んだ。


博物館、図書館、学術施設の外観調査。

町を歩き、人の生活を観察し、屋台で食べ物を買う。


SU-015は人混みに紛れぬよう、ぴったりと彼の背を守るように寄り添い、

SU-013は電線の上を飛びながら上空から監視を続けた。


「魔力無しでこれだけの文明を……。

人類というのは実に面白いものだな」


未知の文化、未知の理論、未知の技術。

エルドはそれらをアル・テラスにも持ち帰りたいと夢見るようになった。


「学会へ報告するか?

いや……まだ早い。

まずはもう少し調べるべきだ」


興味が尽きなかった。


だが――


その夢は、突然黒い影によって遮られた。


* * *


アル・テラスに戻ったある日のこと。

研究拠点のひとりが悲痛な顔で駆け寄った。


「エルド様……帝国の密偵が……!」


オルティア帝国。

大陸最大の軍事国家。

領土拡大の野望を隠そうともしない。


密偵は情報を盗み、帝国に報告した。

「異世界への門が存在する――と」


「馬鹿な……。門はまだ不安定で、軍事転用など考える余地もないのに……!」

004が低い声で言う。


「マスター……帝国軍、すでにコル・フェルム高地へ向けて進軍を開始したようです」

006の光が震えていた。


「ま、マスター……! 帝国が、異世界を……侵略……!?」

エルドは拳を握りしめた。


「異世界は……侵略のための土地ではない。

交流し、知識を分かち合い、互いに学ぶための“隣人”だ」


だが帝国にその理念は通じない。

彼らが欲するのは、ただ“力”のみ。


「……ならば、この門は封印するしかない」

SUたちが静まり返った。


* * *


封印には “核” が必要だった。


門を凍結し、2度と誰も起動できないようにするためには、

莫大な魔導計算能力を持つ存在――


エルド・フェルミナ自身と、SU-001〜017の全ユニット。

が核として結界の中心に組み込まれなければならなかった。


SUたちは迷いなく整列した。


004が静かに問う。

「マスター……本当に、これで?」


「これしか道はない。

帝国に門を使わせれば、多くの世界が危険に晒される」


006が、震えながら声を漏らす。

「……マスターと……もう旅に出られないんですか……?」


エルドは優しく笑った。


「旅は終わらないさ。

ただ少し……長い眠りにつくだけだ。

いつか誰かが封印を解くその時まで」


動物型SUたちはそれぞれの仕草で別れを告げた。

010はエルドの足に鼻をこすりつけ、

012は深く青光を放ち、

013は彼の肩に止まって羽を震わせ、

015は静かに頭を垂れた。


そして――


門が光を放ち、封印が発動する。


* * *


封印が発動した瞬間、

世界はまるで呼吸を止めたかのように静寂に沈んだ。


光柱が天へ立ち、

17体のSUの存在は、結界の中心から四方八方へと広がる光の帯となって――

世界そのものへと溶けていった。


そしてエルド自身も、

静かに微笑んだ表情のまま光に溶けていく。


――私の旅は、まだ終わらない。


その言葉は声にはならなかった。

だが、17体のSUは最期の瞬間、確かにそれを聞いた気がした。


光はやがて、夜の星空へ吸い込まれるように消えていった。


コル・フェルム高地の中心には、

静かに沈黙した転移門だけが残された。


魔力の流れは完全に凍結され、

どれほどの魔導師が解析を試みても起動できないはずの

“永遠の封印”。


しかし、その封印は――

未来へ続く細い糸でもあった。


* * *


封印から数分後。

遅れて到着した帝国軍の部隊は、

眼前の光景に言葉を失った。


「……これは……」

「門が、沈黙している……!」

「魔力が……動かん……!」


同時に、軍の魔導技師たちは蒼白になった。


「なぜだ!?

なぜ回路が完全凍結している!?

解析できん……!

魔力構造そのものが“凍って”いる……!」


指揮官が怒声を上げた。


「封印だ!

エルド・フェルミナめ……!

異世界の門を独り占めする気か!!」


だが誰1人、気づいていない。


これは独占などではない。

侵略から世界を守るための、ただ1度きりの選択だった。


高地に響いたのは、帝国兵たちの怒号だけ。

エルドとSUたちが残した純粋な“願い”には、

誰も手を伸ばさなかった。


* * *


封印を解ける者は、

今はまだどこにもいない。


だが17体のSU核は、

ただ消えたのではなかった。


風に乗り、

世界の地脈を伝い、

大陸の山脈へ、海底へ、異国の大森林へ……。


人知れず存在する、

黒い立方体の微小な欠片。


それらは眠っている。

静かに、深く、

“主が現れるその時”を待ち続けて。


そして――

時は流れる。


アル・テラス大陸の封印は誰にも破られず、

帝国は復活の手がかりを得られないまま長い年月が過ぎた。


しかし、アル・テラス大陸のある街で。


ひとつのSU核は、

ふとした偶然から、

1人の少年の手へと渡ることになる。


黒い立方体は微かに光を灯し、

長い眠りから目覚める。


それは、17体のうちのひとつ。

エルドが共に旅した仲間の欠片。


そして、その出会いが――

1つの物語の始まりとなる。


エルド・フェルミナの願いは途絶えていない。

世界はまだ繋がる可能性を秘めている。


いつかまた、この空の下で、

17体の仲間たちとエルドが笑いながら歩く日を夢見て。


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