第16話 魔素の覚醒
第2層の踏破率は83%。あと少しで完全踏破だ。
市役所地下の第3層入り口前だ。
『ナオヤのレベルは7ですが、ステータスは平均的なレベル10探索者と同等です。
第3層の適性レベルは10。ですが、ソロであることを考慮すると、もう少しレベルを上げた方が安全です』
直哉は頷いた。
「そうだな、せっかくだし踏破率100%めざすか!」
* * *
探索中、イチカが話しかけてくる。
『ナオヤ、魔素の鍛錬を始めてみませんか?』
「魔素、魔石に入ってる力のことだよな。詳しくは知らないけど」
『はい。魔素とは、魔石に内包された“意志の素”です。
モンスターが消滅する際にも放出され、探索者が吸収することで蓄積されます。魔素には内在魔素と外在魔素の2種類があります』
「内在と外在。どう違うんだ?」
『内在魔素は体内で生成したもので、外在魔素は魔石から取り出せるものです。
どちらもエネルギーとしては同じなんですが、変換効率や発現スピードがまったく違います』
「へー」
『それに外在魔素はヤスの発明品のように補助する装置がなければ、現象が発生するまで集中しなければなりません』
「たしかに魔石使うのって時間かかるよな。……あれ、でもイチカの場合、すぐ使えてないか?」
『はい、ヤスが作った発明品を解析させてもらいました。そのため、簡単な事象であれば起こせるようになっているのです』
「改めて、おまえすごいな」
『ありがとうございます。
『さて、そういうわけで、戦闘中に魔石から魔素を抽出して使うのはあまりお勧めはできません。
ナオヤがアニメのように動くためには内在魔素の鍛錬が必須です』
「なるほどね」
『専門情報によると、内在魔素の限界量は魔素を使えば使うほど成長するようです。
まずは魔素を使って基礎的な身体能力の向上をおこない、日常的に使う癖をつければ、おのずと限界量も増えていくと予想できます。
ナオヤ、ステータスを見てください』
直哉はダン活アプリでステータスを表示する。
ステータス更新:
レベル:7
体力:26
筋力:27
敏捷:31
器用:20
知力:18
特殊能力:現象伝導
内在魔素:12 / 79
「おぉ、、とうとう30超えか。たしかに動きもくっそ速くなったよなぁ」
『そこではなく、一番下の項目です』
「ん?なんだこりゃ、内在魔素…?」
『はい、現象伝導を取得してから表示されているようです』
「へー、数値化されるんだ、すげーな!」
『まずは、ステータスの外にあるこの“内在魔素”の最大値を増やすことも目標にしましょう』
* * *
未踏エリアで遭遇したのは、跳躍トカゲだ。
異常に発達した後脚で壁や天井を跳ね回り、鋭い爪で襲いかかってくる。
直哉は何度も魔素による身体強化を試みるが、きっかけすら掴めず、うまくいかない。
「くそっ……!」
イライラをぶつけるようにバットを振るが、動きは雑になり、跳躍トカゲの高速移動に翻弄される。
『落ち着いてください』
「わかってる!わかってるけど、身体強化がうまくいかないっ」
『ホルダーからチャージされた魔力で魔素を誘導してみます』
「ん、なんか頭の奥がむず痒いな、これがそうなのか?」
直哉の身体をほのかな青白い光が覆う。
「……っ!」
跳躍トカゲが天井から急降下してくる。直哉はその動きを見切り、地面を蹴って横に跳び、バットを振り上げる。
「そこだっ!」
一撃がトカゲの腹部に命中、弾ける。
「……えっ、弾けた!?」
『短時間ですが、身体強化に成功しました。コツを掴みましたね』
「…今のがか。」
手を握りながらにんまり笑う。
「よし、どんどんいくぞ!!」
だが、次の瞬間にはまた失敗。魔素の流れが途切れ、動きが鈍る。
『なかなか成功しませんね』
「いうなっ!くそーー」
『情報によると魔素の扱いはとても難しいようです。焦らずゆっくり行きましょう』
「そうだな……でも、悔しいな」
イチカはホルダーの魔力を微調整しながら、直哉の神経伝達に合わせて魔素の流れを補助する。
そのたびに直哉の体はわずかに光を帯び、動きが一瞬だけ鋭くなる。だが、持続しない。
『ナオヤ、今のタイミングは良かったです。魔素の流れが安定しかけていました』
「ほんとに?じゃあ、もう1回……!」
何度も挑戦する直哉に、イチカは根気強くサポートを続ける。
* * *
直哉は探索の合間にも魔素の制御を試みるようになった。
自室では座禅を組み、深呼吸しながら集中。
風呂では湯気に包まれながら、手のひらに意識を向ける。
通学中の電車の中でも、目を閉じて魔素の流れをイメージする。
『ナオヤ、今のは惜しかったです。もう少しで発動できそうでした』
「感覚は掴めてきた。あとはタイミングと流れだな……」
イチカは日々のログを記録し、魔素の反応パターンを解析してフィードバックを送る。
直哉はそれを参考に、少しずつ自力での発動に近づいていく。
* * *
鋼殻アルマジロとの戦闘。
轟音を立てながら向かってくる鋼殻アルマジロを、直哉は白いオーラを纏いながら正面から迎え撃つ。
地面を蹴って踏み込み、バットを振り切った。
「インパクトっ!」
鋭い一撃がモンスターの胴を捉えた。
鈍い音をならし、鋼殻アルマジロは空中で弾けるように崩れ落ちた。
その瞬間、直哉の身体を包んでいた光がふっと消える。
力を抜いて構えを解くと、呼吸が少し荒くなる。
「ふぅ、今のは……5秒ぐらいか?」
『はい、4.7秒発動できています。最大発動時間6秒、発動確率は34%。
ここ数日で大きな成長が見られます》
「まだまだって感じだけど、なんとなく手ごたえが掴めてきたよ」
イチカのサポートと自身の鍛錬の成果が、少しずつ形になってきている。
直哉はダン活アプリを開き、ステータスとマップを確認する。
【現在ステータス】
レベル:7
体力:26(+2)
筋力:27(+2)
敏捷:31(+3)
器用:20(+2)
知力:18(+1)
特殊能力:現象伝導
内在魔素:66 / 82
踏破率の表示が、ついに100%に到達していた。
「……やった。これで、第2層は完全踏破だ!」
『おめでとうございます、直哉。踏破率100%、達成です』
「少し時間かかったけど、身体強化もほんの少しできるようになったし、よかったよ」
直哉は満足げに笑った。
『身体強化を使うと、ステータスが約12%向上しています。
初期は9%ほどでしたので、効率も成長していますね』
「内在魔素のマックスも上がってるな。これはモンスターを倒しているからか?」
『はい、そのようです。直哉がモンスターを倒す度、魔素の内燃機関が反応していることを確認しています』
「これがいくつぐらいになれば、アニメみたいに動けるのかなー」
『あの映像に出ていたレベルになるためには、少なくともこの3倍は必要だと思われます』
「先は長いなー」
『ですが確実に成長しています』
「だな……次は3層か」
『はい、準備は万端です。第3層に挑みましょう』
第3層――それは、未知と危険が交錯する領域。
魔素の力を手にした直哉は、さらなる成長と試練に挑む。




