第15話 変幻武器《タクティカル・フォージ》、実戦投入
神谷直哉は、いつものファミレスの窓際席に座っていた。
目の前には、例の男——安田ことヤス。中学時代の同級生にして、現在は進学校に通う資産家高校生。
そして、発明家。中二病。変人。だが、頼れる友人。
「……で、討伐したんだよ。第2層の特殊個体、全部。」
直哉がそう言うと、ヤスはドリンクバーのコーラを一口飲み、目を輝かせた。
「さすがですな、ナオヤ氏。
《第2層の覇者》《魔獣粉砕王》《バットの神》……どんな称号がよろしいですかな?」
「どれもいらない。」
「ひひひっ」
(『……中二病、全開ですね』)
イチカの念話が脳内に響く。
彼女——インテリジェンス・コアSU-001《イチカ》は、直哉の身体に同化しているサポートユニット。
だが、その存在はヤスにも秘密にしている。
「でさ、ヤス。ちょっと相談があるんだけど。」
「なんでしょうか?」
「戦闘中にさ……武器の威力が足りないって感じたんだよ。バットじゃ限界あるっていうか。」
「なるほど、やはりですか。拙者の予想通りですな。」
ヤスはニヤリと笑い、カバンから何かを取り出した。
それは、黒いアンビルを象ったストラップだ。
「これは変幻武器。ナオヤ氏から頂いた大量の魔石を元に、試行錯誤を重ねて完成させた新兵器ですぞ」
「……ストラップ?」
「これは武器に装着することで、魔石の力をエネルギーフィールドとして纏わせ、武器の形状を疑似的に変化させるのです」
「変形……?」
「えぇ、現状は三形態あります。ハルバードモード、グレートソードモード、そしてモーニングスターモードですぞ」
ヤスはPCで動画を流す。
そこには、バットの先端に薄く発光するビームのようなものが巨大な斧槍に変形する様子、大剣になる様子、そして凶悪なトゲトゲの付いた鈍器になる様子が流れている。
「ただし、エネルギー消費量が多く、1チャージで3秒ほどしか保てません。使いどころが肝心ですな。」
「それ、ホルダーと連携できる?」
「お任せください。ささ、ホルダーを貸してくだされ」
「さすがだな……」
ヤスは直哉から受け取った多機能携行型アイテム収納具とPCをケーブルで繋ぎ、操作を始める。
それはあっと言う間に完了し。
「これでアップデートも完了です」
「もう使えるのか?」
「もちろん、実戦投入可能です。武器をエネルギーで形成しているので、重さが変わらないところがポイントですぞ。
しかし魔石の消費が多くなってしまうのでご注意くだされ」
(『その点は、私が管理します』)
イチカの冷静な声が、直哉の脳内に響く。
彼女は魔石の残量やチャージタイミングを自動で管理してくれる。
イチカの存在があることで、この装置の運用は格段に楽になる。
「ありがとう、ヤス。これ、使わせてもらうよ。」
「どうぞどうぞ。ナオヤ氏の戦いに役立てていただければ、拙者の研究も報われますぞ」
* * *
しばらく沈黙が続いた。
ファミレスのBGMが流れる中、直哉はストローをくるくる回しながら、ぽつりと呟いた。
「もうすぐ、第3層に行けそうなんだ」
「おお、ついにですか。第3層……人型が出る、と噂の領域ですな」
「だな。結構な人が青ざめて帰るらしいよ」
「人型が相手ですと、人によって忌避感もあるでしょうしね。でもナオヤ氏なら大丈夫でしょう、脳筋ですし」
「おいっ!」
「ひひひ、それはそうと第3層は草原フィールドのようですね。集落が点在しており、そこにゴブリンなどが住んでいるようです」
「へー、そうなんだ」
「砦や城などもあるという噂です。バリスタで向い打たれたり、罠がしかけられていることもあるようですぞ」
「なるほどなぁ。それってソロだと無理ゲーじゃね?」
「ふむ……確かに、戦術の再構築が必要ですな。拙者としては、《タクティカル・フォージ》の運用を軸にした新しい戦闘スタイルを提案したいところです」
「例えば?」
「三形態を状況に応じて使い分けるのです。
ハルバードモードは範囲攻撃、グレートソードモードは対大型、モーニングスターモードは防御貫通。
それぞれの特性を活かし、瞬時に切り替えることで、戦闘の主導権を握ることが可能ですぞ」
(『理論上は有効ですが、実際の切り替えには高度な判断力が求められます』)
「イチ……いや、そうだな。俺もそう思う。切り替えのタイミングが難しいかも」
「ナオヤ氏ならできますぞ。拙者が保証します」
(『専門情報によると、王と呼ばれる個体など、特殊な個体が何体か生息しているようです』)
「ありがと。少し聞いただけでも3層はやばそうだな」
「えぇ、人型が出ることも相まって、敵の戦術レベルが各段に上がっているようですな」
「だな。罠とか、連携とか、そういうに注意が必要か」
「情報収集の手段も強化せねばなりませんな。拙者、索敵用の新アイテムを開発してみますぞ」
「助かる。あと、俺自身も、もっと冷静に戦えるようにならないと」
(『そのためには、精神負荷の管理も必要です。第3層では、環境ストレスが増加する可能性があります』)
「……イチカ、ありがとな」
「ん?今、何か言いましたかな?」
「いや、独り言」
「ふむ……ナオヤ氏、最近何かありましたか?」
「なんで?」
「今までは思い付きで行動していた印象ですが、こう、なんか思慮深くなったというか、何というか…」
(『……それは私のことですね』)
「男子、三日会わざれば刮目して見よ、ってことだよ、ヤス」
「おや、これは一本取られましたな」
直哉は笑いながら、残りのコーラを飲み干した。
* * *
「じゃあ、そろそろ行くわ。準備、整えておく」
「了解です。拙者も、次なる支援アイテムの開発に取り掛かりますぞ」
「さんきゅー、ヤス」
直哉は席を立ち、ストラップを忘れずに手に取る。
(『第3層への挑戦、いつでも可能です。心の準備も含めて』)
「……行くぞ、イチカ」
(『えぇ、行きましょう』)
ファミレスのドアが開き、午後の光が差し込む。
その中を、神谷直哉は静かに歩き出した。
次なる階層へ。
未知なる戦いへ。
そして、さらなる進化のために——。




