第13話 鎧殻アルマジロとの死闘
ダンジョン第2層、西端“鉄壁の回廊”。
岩盤がむき出しになった壁面は、まるで巨大な要塞のように探索者を威圧する。
その中心に、神谷直哉は立っていた。
「……ここが最後の特殊個体の出現ポイントか」
『ナオヤ、戦闘開始時の魔石チャージ残量は9。全ての準備が完了しています』
「よし……準備万端ってわけだな」
赤布のバットを握り直す。
手のひらに馴染む感触が、少しだけ心を落ち着かせてくれる。
その瞬間、地鳴りが響いた。
「来たか──!」
壁の向こうから、金属音とともに巨大な球体が転がってくる。
鎧殻アルマジロ。
全身を金属の殻で覆い、丸まった状態で時速60kmの突進を繰り出す、破壊の塊。
「速っ──!」
直哉は反射的に跳び退く。
地面がえぐれ、岩が砕ける。
その衝撃波だけで、体勢が崩れそうになる。
「速すぎる……!」
アルマジロは軌道を変え、壁を蹴って角度を変えながら突進を繰り返す。
直哉は回避に専念するが、動きが読めない。
一撃、バットで迎撃しようとするが──
「ぐっ……!」
金属音。バットが弾かれ、反動で腕が痺れる。
体勢が崩れ、肩をかすめて血が滲む。
「縛っ─!」
直哉が叫ぶと同時に、イチカが即座にサポートする。
『チャージ3で展開します。通常強度では突破される可能性が高いため強化します』
魔石3つ分が同時に消費され、拘束網が空中で展開。
網は通常の倍以上の厚みと強度を持ち、回転するアルマジロの軌道を正面から封じ込める。
金属と金属がぶつかるような鈍い音が響き、アルマジロの回転が一瞬止まる。
だが──
拘束されたままでも、アルマジロは暴れる。
殻が軋み、網がきしむ。
直哉は一瞬の隙を狙って飛び掛かり、縦横無尽に連撃を加える。
バットが火花を散らし、殻に亀裂が走る。
しかし──
アルマジロが、拘束網を力ずくで引き裂いた。
殻はボロボロ、だがまだ動ける。
再び丸まり、突進態勢に入る。
「……嘘だろ……!」
直哉の動きが追いつかない。
視界が追い付かず、反応が遅れる。
『思い出してください。モンスターハウスで経験した“極度の集中”──あの感覚です。
意識を研ぎ澄ませ、世界を遅く感じたあの瞬間。今、必要なのはそれです』
「……集中……!」
直哉は目を見開き、呼吸を整える。
心拍が落ち着き、周囲の音が遠ざかる。
視界が広がり、時間がゆっくりと流れ始める。
極度の集中。
『脳波反応確認。身体能力を補助します。筋力、反射速度、視覚処理を強化──魔石チャージ、使用』
直哉の身体が軽くなる。
筋肉がしなやかに動き、視界が鮮明になる。
アルマジロが突進してくる。
壁を蹴り、角度を変え、直哉に向かって一直線。
「──来いよ」
直哉は地面を蹴る。
その瞬間、空気が裂けるような音が響く。
彼の身体は、常人の限界を超えた速度で動いた。
アルマジロの突進をギリギリで躱す。
肩をかすめる風圧が、皮膚を切り裂く寸前だった。
直哉はそのまま地面を蹴り、アルマジロの背後を取る。
だが、猛スピードで動く身体には負荷がかかる。
筋肉が悲鳴を上げ、肺が酸素を求める。
『身体負荷が限界に近づいています。魔石チャージ、使用──筋肉補正、酸素供給、神経伝達強化』
「……ぐぅぅぅぅ」
直哉は加速する。
アルマジロが再び跳躍しようとした瞬間──
「クリムゾン・ラッシュ──!」
バットが唸りを上げる。
1撃、2撃、3撃──
殻の継ぎ目を狙い、連撃を叩き込む。
アルマジロがよろめく。
直哉はさらに踏み込み、回転しての横薙ぎ。
殻が砕け、内部が露出する。
「インパクト・フィニッシュ──!」
最後の一撃が、アルマジロの中心部を貫いた。
金属音とともに、アルマジロの体がポリゴン状に分解されていく。
光の粒となって空間に消え、魔石だけが残された。
『撃破確認。特殊個体:鎧殻アルマジロ、消滅しました』
直哉は膝をつき、肩で息をしながら魔石を拾い上げる。
頭がズキズキと痛む。
極度の集中の反動が、脳を締め付けるように襲ってくる。
「……っ、頭が……」
『一時的な頭痛です。脳の処理速度が限界を超えたため、休憩を推奨します。周囲の索敵は私が行います』
「……頼む。ちょっとだけ……座らせてくれ……」
直哉は壁にもたれ、目を閉じる。
イチカの索敵が周囲をカバーし、静かな時間が流れる。
* * *
スマホが震えた。
ダン活アプリからの通知が届いている。
【ダンジョン課より重要なお知らせ】
探索者 神谷直哉 様
第2層特殊個体3体の討伐を確認しました。
本実績により、ダンジョン課より特別面談のご案内を差し上げます。
面談内容:今後の活動支援および特別契約のご提案
日時:近日中(詳細は別途通知)
場所:市役所地下・探索者支援室
「……なにこれ?」
『第3層に行く前に第2層の特殊個体全てを倒したケースはあまりありませんでした。
おそらくそういった実績をキーに自動メールを送っているのでしょう。
所謂青田買い、というものだと予想されます』
「行ったほうがいいのか、これ?」
『はい、参加しましょう。ネット上に情報はありませんが、有益になる可能性が高いと予想します』
「なるほどね」
直哉は魔石をポーチに収め、立ち上がる。
「よし……帰って、ヤスに連絡だ。次は、第3層だ」
『了解。帰還ルートを案内します』
こうして、直哉は第2層の全特殊個体を撃破し、次なる舞台へと歩き出した




