第12話 限界突破の連撃《クリムゾン・ラッシュ》
ダンジョン第2層、南東部“崩れた回廊”。
瓦礫が積み重なり、天井の一部が崩落しているこのエリアは、探索者の間でも「事故率が高い」とされる危険地帯だ。
「……ここらへんにいるんだよな?」
『はい。先ほどの情報通り、特殊個体:剛脚とかげがこのエリアに出現する可能性が高いです。直哉、警戒を──』
その瞬間、空気が裂けた。
「っ──!?」
直哉の視界に、緑色の残像が走った。
剛脚とかげ《ザ・ランブラー》が、壁を蹴って跳ね上がり、直哉に向かって一直線に飛び掛かってきたのだ。
反応が遅れた。避けられない。
『防御壁、展開』
イチカの声と同時に、直哉の周囲に青色の半透明なエアバックが広がった。
それは、スライム素材を彷彿とさせる柔軟で弾力のある防御フィールドだ。
剛脚とかげの突撃を寸前で受け止め、衝撃を吸収し、ぷるんと弾き返す。
「ぐっ……っ、助かった……!」
直哉は後方に跳ねて距離を取る。
剛脚とかげは着地と同時に壁を蹴り、再び跳躍。だが、今度は直哉の目がそれを捉えていた。
「なめんなよ!!今度は──見えてる!」
直哉はバットを構え、跳躍軌道を予測。
壁を蹴る瞬間、閃光弾を投げ込む。爆発的な光が空間を満たし、動きが一瞬鈍る。
「今だ──!」
直哉は地面を蹴り、背後に回り込む。
尻尾が薙ぎ払われるが、ギリギリで回避。バットを振り下ろし、柔らかい胴体部分を狙って一撃。
「インッパクト!!」
叫んだ。無意識に。
技名を口にする癖は、戦闘中に熱中すると抑えられない。だが、それが集中力を高める。
『命名によるテンション上昇を確認。戦闘効率、12%アップです』
「それ、俺の中二病がバフになってるってことかよ!」
剛脚とかげは再び跳躍しようとするが、イチカのサポートが光る。
ホルダーのチャージを使い、踏み切る瞬間の地面に、足と同じ大きさの穴を空けた。
態勢がわずかに崩れる。
直哉は滑り込むように接近し、連撃。バットの一撃、回転しての横薙ぎ、足の間に滑り込み、股間(があるかどうか知らないが)を目掛けて突き上げる。
「インパクト・フィニッシュ!!」
尻尾が力なく垂れ、体がポリゴン状に分解されていく。
光の粒となって空間に消え、魔石だけが残された。
『……完了。特殊個体:剛脚とかげ、撃破を確認しました』
直哉は息を整えながら、魔石を拾い上げた。
その輝きは、これまでの戦いの成果を物語っていた。
「ふぅ……最初は焦ったけど、なんとかなったな。イチカ、ナイスガーディアン」
『ありがとうございます。直哉の反応速度も、以前より向上しています。なお、叫び声による敵の混乱効果は、今後も活用可能です』
「…………」
* * *
戦闘を終え、直哉は魔石をポーチに収めながら、深く息を吐いた。
『アプリにアイコンが追加されたようです。見てください』
たしかに第2層の地図の右上にとかげのアイコンが光っている。
「これが3つ揃うと……」
《はい、おそらくゲートキーが付与されるものと思われます』
「なるほどな」
『次の特殊個体の反応を検知しました。位置は南西部“沈んだ坑道”です。地形は狭く、地中からの奇襲に適しています』
「……また面倒そうな場所だな。よし、案内頼む」
イチカのナビゲーションに従い、直哉は瓦礫の間を抜け、崩れた道を降っていく。
空気は湿っていて、地面はわずかに震えていた。
「……来るか」
『振動感知、反応あり。特殊個体:穿孔モグラ、接近中です』
直哉はバットを構え、周囲を見渡す。
だが、敵は地中から来る。視界には映らない。
『煙幕の展開、魔石による輪郭強調も行いますか?』
「あぁ、タイミングは任せる。俺の“勘”だけじゃ、今回は無理そうだ」
次の瞬間、地面が盛り上がった。
突如として、巨大なモグラが飛び出す。両腕がドリルになっており、回転音が「ギュイイイイイイン!」と響く。
「うわっ、音がうるせぇ!」
高速で移動するモグラに、直哉は回避に専念するが、ドリルの軌道が読めない。
一撃、バットで迎撃しようとするが──
「っ──!」
金属音。バットが弾かれ、反動で腕が痺れ、体勢が崩れる。
「まずい……!」
旋回して再び突撃。
直哉は地面に転がり、ギリギリで回避するが、肩をかすめて血が滲む。
『煙幕弾を展開します。カウントダウン──3、2、1──展開』
空間が白く染まり、視界が遮られる。
同時に、イチカが魔石を使用し、敵の輪郭を強調。
直哉の視界には、シルエットが青白く浮かび上がる。
「見える……けど、動きが速すぎる!」
四苦八苦しながら回避を続ける。
煙幕の中でもなお危険だった。
『身体能力を一時的に強化します。魔石チャージ、使用──』
イチカの声とともに、体が軽くなる。
筋肉の反応速度が上がり、視界の処理速度も向上。
さらに、動きの補正がリアルタイムで行われる。
「……これなら、いける!」
潜ろうとした瞬間──
『防御壁、地面に展開──』
地面に青色の半透明なエアバックが広がり、潜行が阻まれ、動きが鈍る。
「ナイス、イチカ。今だ──!」
直哉は跳び上がり、頭上から連撃を叩き込む。
バットが火花を散らし、ドリルが軋む。
「クリムゾン・ラッシュ──!」
限界を超えた速度での連打。
イチカの補正が直哉の動きを支え、攻撃が寸分の狂いもなく命中する。
穿孔モグラの装甲が砕け、ドリルが停止。
最後の一撃が、モグラの頭部を貫いた。
『……撃破確認。特殊個体:穿孔モグラ、消滅しました』
モグラの体がポリゴン状に分解され、魔石が残された。
直哉は膝をつき、肩で息をしながら、それを拾い上げる。
「……しんどかった。けど、勝ったな」
『直哉の戦闘適応力、著しく向上しています。限界突破、おめでとうございます』
「……なんか、ゲームのクリア報告みたいだな。
でも、ありがとな。イチカ」
* * *
穿孔モグラとの激戦を終え、直哉は魔石をポーチに収めながら、深く息を吐いた。
肩の傷はじんじんと痛むが、それ以上に、身体の内側から湧き上がる感覚があった。
「……イチカ、今のって」
『はい。レベルアップを確認しました。直哉は現在、レベル6です。ステータスの更新を表示します』
直哉はスマホを取り出し、ダン活アプリを起動する。
画面に表示された数値を見て、思わず声を漏らした。
ステータス更新:
レベル:6
体力:21 → 23
筋力:23 → 24
敏捷:20 → 26
器用:17 → 18
知力:16 → 17
「……敏捷、26!? ものすごい上がったな」
『これまで直哉の身体を解析した結果、敏捷性に大きな才能があることが確認できています。
その才能が最適化されるようサポートを行った結果、敏捷が急激に成長したものと推測されます』
「……おぉ、まじかー。すげー、んだよな?」
『えぇ、もちろんです』
直哉は立ち上がり、周囲を見渡す。
このエリアには、もう1体特殊個体がいるはずだった。だが──
「イチカ、次の個体は?」
『反応はありますが、かなり離れた位置にいます。
残りの個体もこれまで同様に強力です。
直哉の現在の状態では、連戦は推奨できません』
「……だよな。肩も痛いし、今日はここまでにしとくか。
ボスは次の機会に。今は、帰って換金だ」
『了解。帰還ルートを案内します。なお、魔石の換金額は推定で──』
「それは着いてからの楽しみにしとく。
今日はもう、風呂入って寝る!」
直哉は笑いながら、ダンジョンの出口へと歩き出す。
その背中には、戦いの疲労と、確かな成長の重みが宿っていた。




