第11話 特殊個体討伐計画
神谷直哉は、ベッドに寝転びながらスマホをいじっていた。
画面には、ダンジョン第2層のマップと踏破率が表示されている。
青く塗られたエリアは既に攻略済み。灰色の部分は、まだ探索していない個所だ。
「……6割か。かなり早いペースだよな。うへへ、もしかして俺って才能あるのか?」
『踏破率は正確には60.3%。
第3層への階段は、第2層南東部“崩れた回廊”の先にあります。
ダンジョン課の情報によれば、そこに第3層への接続点が存在します』
スマホのマップに赤いマーカーがピコンと光る。
直哉は起き上がり、画面を覗き込む。
『直哉の成長率は平均探索者の1.4倍。
現在のペースで進めば、8日以内に到達可能です』
「8日か……ヤスの試作品が完成するまで、あと2週間だし、ちょうどいいな。
よし、じゃあ第2層の残りを潰して、階段まで行って──」
『──特殊個体3体の討伐を提案します』
「特殊個体……ってなんだっけ?」
『特殊個体とは、通常個体よりも能力が突出したモンスターのことです。第2層では3体がいると言われています』
「へー、そうなんだ」
『このまま進めば第3層に届く可能性は非常に高いです。そうなれば、あなたも一人前の探索者です』
『ちょうどよいので、一度“ダンジョンとはなにか”、復習しましょう』
「……なんか、急に先生っぽくなったな」
なんとなく、メガネをクイッってしてる顔が浮かび、少しイラっとする直哉。
* * *
ダンジョンは、階層ごとにその性質を大きく変化させる。
第1層は、初心者向きのエリア。趣味や健康志向の人々も軽い気持ちで訪れる。
モンスターも弱く、開けたエリアなため、ともすればアミューズメントパークの雰囲気すら漂う。
実際、休日には親子連れが「スライム狩り体験」などを楽しむ姿も見られる。
第2層は、本格的な探索者を志す者が挑む領域。
ここからモンスターの殺傷能力が跳ね上がり、深い傷を負う者も多い。
傷は帰還すれば治るが、精神的なダメージは残る。
実際、第2層で挫折する者は全体の半数に及ぶ。
「ダンジョンなんて簡単じゃん」と語っていた者が、踵を返して逃げるのもこの層だ。
それは、殺意の片鱗を知るからに他ならない。
そして第3層──探索者の登竜門。
ここを越えた者たちが、大手を振って探索者と名乗れる。
また第3層では、人型モンスターが出現する。彼らは知性を持ち、罠を仕掛け、集団で襲いかかる。
その存在が、第3層を“狭き門”たらしめている。
「……人型か。面倒そうだな。
なんかこう……喋ってくる系だったら、やだな。説教とかされたら、絶対殴る」
『敵は説教よりも斬撃を好む傾向にございます』
「それはそれでやだな!」
『さらに第2層にいる特殊個体3体を全て倒すとゲートキーを入手できるようです』
「ゲートキーって?」
『第3層に行くためには不要ですが、ゲートキーを使うことで、第3層へのショートカットが使えるようになります』
「ショートカット……それ、ヤスが喜びそうだな。『時短は正義ですぞ!』って言いそう。でもそんなの聞いたことないぞ」
『どうやら意図的に隠されているようです。
削除された記録なども多かったのですが、様々なサイトから情報収集し、復元、多角的に分析したところその結論にいたりました』
「おぉ、さすがだ」
『ありがとうございます』
以上が、ダンジョン課および探索者フォーラムから収集した情報の要約です』
* * *
『では、特殊個体の情報を視覚的にご提供します』
イチカがそう言うと、ホルダーのチャージが1つ減る。
「おい、勝手に使うな! ってか、こっから使えるのかよ」
部屋の電気が消え、カーテンが自動で閉じる。
直哉が「え、俺の部屋ってこんなハイテクだったっけ?」と呟く間に、空間に3体のモンスターの立体映像が浮かび上がった。
しかも、動いている。リアルに。ちょっと怖い。
* * *
【穿孔モグラ】
映像の中で、地面が盛り上がり、突如として巨大なモグラが飛び出す。
両腕がドリルになっており、回転音が「ギュイイイイイイン!」と響く。
牙を剥き、地面を突き破って高速で移動する様子は、まるで地中の戦車。
『奇襲型の特殊個体です。地面からの出現に備え、振動感知と煙幕による視界遮断が有効です』
「煙幕って……俺の視界も遮られるんだけど?」
『直哉は“勘”で戦うタイプですので、問題ありません》
「褒めてるのかバカにしてるのか分からん!」
* * *
【鎧殻アルマジロ】
次に映し出されたのは、金属の鎧を纏った巨大アルマジロ。
丸まると、時速60kmで突撃してくる。
映像では、壁に激突して粉砕する様子まで再現されている。
『高速突進型です。回転中は攻撃が通りにくいため、閃光弾で動きを止めるのが有効です。
無限拘束や魔石による地形変化も有効ですが、特殊個体でも正面から打ち倒せる力を身に着けることを推奨します。
最近、ネットで武道の動きを学習済みなので、私のサポートも可能です』
「……お前、そんなことまで調べてんの? てか、どこまで自由に動いてんだよ。どこの情報通だよ……」
* * *
【剛脚とかげ】
最後に現れたのは、異様に発達した脚を持つトカゲ。
映像では、壁を蹴って跳ね回り、尻尾で地面を薙ぎ払う。
さらに、どでかい脚で壁を蹴ると大穴が空く様子も映る。
『機動型のボスモンスターです。
狭所に誘導し、視界を奪って拘束する戦術が有効です』
「そんな都合よく狭所があるのか?」
『あくまで一例です。つまり機動力を発揮させない戦いにもっていけばよいのです。踏み切る瞬間に地形を変えることも有効でしょう』
「なるほどな……でも、そんなにうまくいくかね?」
『直哉の反応速度と判断力であれば、可能性は十分にあります。
加えて、魔石の使用タイミングを私が補助すれば、成功率はさらに上がります』
「……ほんと、お前がいると何でもできる気がしてくるな」
『それは、直哉の能力を最大限に引き出すための支援です。過信ではなく、合理的な自信です』
「うわ、なんか名言っぽいこと言ったな。ちょっとかっこいいじゃん」
『ありがとうございます。記録しておきますか?』
「やめろ! 恥ずかしいから!」
直哉は苦笑しながら、映像の消えた部屋を見渡す。
「……さて、特殊個体3体か。どれも面倒そうだけど、やりがいはありそうだな」
『はい。討伐に成功すれば、第3層へのショートカットが開通し、探索効率が大幅に向上します』
「よし、じゃあ次の目標はそれだな。特殊個体、全部倒して、ゲートキーを手に入れる」
『了解しました。作戦プランを3段階に分けて構築します。準備が整い次第、第1段階から開始可能です』
「……ほんと、頼りになるな。俺、もうお前なしじゃダンジョン行けないかも」
『それは光栄です。ですが、直哉の成長は私の予測を超えています。
いずれ、私の補助が不要になる日も来るかもしれません』
「……それはそれで、ちょっと寂しいかもな」
『その時は、別の形で支援を続けます。直哉の物語が続く限り、私は共にあります』
直哉は、イチカの言葉に少しだけ胸が熱くなるのを感じながら、スマホを閉じた。
「よし、明日から特殊個体狩りだ。準備、頼んだぞ」
『はい。全力で支援いたします』
こうして、神谷直哉は第2層の攻略を加速させるべく、新たな目標へと踏み出した。




